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明日には花になろう  作者: 森沢みなぎ
入学前の春休み
1/12

町を歩くと美人が

久しぶりの投稿です。

どうぞよろしくお願いします。

感想などもお願いします。

 隣人愛だの遠くの親類より近くの他人だとか、世界には他人とも仲良くしましょーっていう言葉がいくつかあるけど、それでもやっぱり他人は他人と考えてしまうのが普通であて、他人のために命を張りましょうなんて考える人は誰一人としていないわけだ。しかしならが、それは極論であって、流石に命とまでいかないものの少し親切心くらいはある。そしてそれは電車で老人に席を譲ってあげるとか、道に迷ってる人を道案内するとかそれぐらいのレベルであろう。しかし、例外はある。親切心を向ける人が美女か美少女の場合。やっぱり、可愛い子、美しい人には恩を売っておきたいし、お近づきになりたいと思うのが男の性だ。それは俺も変わりない。だから、見知らぬ人でも美女、美少女なら親切心は向上する。しかし、しかしだ。その例外にも例外が存在するのだ。それはその場の状況だ。もし、美女、美少女が私のために死んでくださいと言っても死ねるわけがない。まぁ、これも極論なのだが。

ここで例え話をしよう。街の不良たちに美少女が絡まれていたとする。それも超がつくほどだ。自分の人生においてこれ以上の美のつく人には出会わないだろう、と思うほどの美少女だ。もちろん、お近づきになりたいと思うのが普通だ。そしてその彼女は不良に絡まれている。これは何ともオイシイ状況だ。華麗に割って入って助けだせば、ヒーローだろう。しかし、そんな話は漫画やドラマの話なわけで。実際に割って入ればボコボコにされることは目に見えてる。

 ここで現実へと話を進めて行こう。只今、街のはずれ人通りの少ない裏道。買い物帰りで遭遇したのは、例え話の状況。

 一人の美女が金髪と茶髪の二人の不良に絡まれてる。いや間違えた。一人の超美女に、と書き換えておこう。

 腰まで届くしなやかで艶のある黒髪、白くて一点の染みもない肌、整った顔立ちに黒を基調としたセーラー服を着こなす超美女。その姿は何処か戦後失われた古風な大和撫子を思わせる。

 これほどの美という言葉がぴったりな人はない。断言できる。

いや、それよりも問題なのはこの状況をどう打破するかだ。敵は二人、目標を両サイドで電柱に追い込むように展開している。かれこれ五分くらいお茶に誘っているが、目標はいっこうに頷く様子はない。つまり、行く気はない様子。ナンパは短時間勝負だ。短い時間でどれだけ自分に興味を持たせるかにかかっている。ましてや五分以上誘ってダメならそれは負け戦だ。そうそうに諦めるのが鉄則。

 本題に戻る。ここで俺はどうするべきか。割って入るか、見過ごすか。割って入ったら不良たちにボコボコにされるのは当然。正直言って痛いのは嫌いだ。しかし、超美女は大好きだ。どちからを天秤にかけろと言われたら、余裕で超美女に傾く。しかし、痛みに耐えれば超美女とお近づきになれるというわけじゃない。もしかしたら、ボコボコにされている間に逃げられてしまうかもしれない。

 つまり、喧嘩沙汰にせずに超美少女から不良たちを引き剥がしたいわけだが――。

 そこで名案が思い浮かぶ。これなら例えお近づきになれなかったとしても損をすることはない。

ちゃっちゃと準備を進めて、意を決していざ戦陣へと大手を振ってゆく。

「あ、もしもし警察ですか。今、超美しょ、じゃなくて女の子が男にから――げふぅ!!」

 何故か言いきる前にほほに強烈な痛みが走った。

いや、メッチャ痛い!!

「テメェなに人呼ぼうとしてんだよ」

 いつの間にか不良二人がこっちにきてる。

「なんでバレた!!」

「あんだけ人のこと見てりゃ誰だって気付くだろ」

 不味い。ただでさえ他力本願なんて情けない戦法をとってるのに、あまつさえ失敗するとは。このままでは痛い思いをしたうえにお近づきになれない。

むぅんん、どうしたものか。

「ホントテメェ調子こんでんじゃねぇーぞ。ぶっ殺されてぇーのか」

 やばいやばい。じりじり近づいてくる。

 拝啓 お父さんお母さん

 先に旅立つ愚息をどうかお許しください。息子は男としての信念を貫いて、その結果夢半ばにして倒れます。ですが、この想いは全国のモテない男子たちにきっと伝わったと思います。モテなくても自分からチャンスを作り出す不屈の心は不滅であり、伝承されていくとこでしょう。

「なにさっきからぶつぶつ言ってんだよ!!」

「ごほぉ!!」

 蹴りが見事に腹部に入ったぁ!!

「昼に食べた餡かけ焼きそばが全て餡になって出てくるところだったぜ……」

 とかっこつけた所で現状は変わらず。

 嗚呼、どうしたら逃がしてくれるだろぅ。

「お、おい。コイツ本当に警察電話してやがる!!」

 もう一人の男が地面に転がってる俺のケイタイを指さしながら叫んでいる。

『もしもし、こちら御神警察署です。どうされました』

 おお、なんという奇跡。

「お前なにマジで通報してんだよ」

「俺に辞書に冗談という言葉ない!!」

 と親指を上げる。

「なんだコイツ。気持ち悪ぃ」

 失敬な。

「マズイ、逃げるぞ」

 と言って不良たちはずらかる。

 はぁ~、なんとか五体満足に乗り切ることはできた。しかし、物凄いかっこ悪い姿を見せてしまった。これじゃあ、お近づきになるどころか、たぶん変な目で見られているだろ。

 できるだけ、超美女と目を合わせないようにして立ち上がり、体の埃を落とす。ケイタイを拾って耳に当てる。

「あ、すいません。なんか俺の勘違いみたいでした。はい、はい、本当にすいませんでした」

 テキトウに事情を説明して、警察からは軽く注意されて終わった。

「ちょっといいですか?」

 ケイタイをしまった所で声をかけられる。

 声が聞こえた方へ顔を向けるとそこには先程の超美女。その黒く綺麗な瞳は確実に俺に向けられている。

 え、なにどういうこと、もしかしてこれは脈アリ!

「鼻血出てますよ」

「へぇ??」

 なんともまぁ間抜けな声が出てしまった。鼻に手を当ててみると確かに血が付いていた。

 なんともかっこ悪い。

「お、教えてくれてありがとう……」

 ポケットからティッシュを取り出そうとするが見当たらない。

「これ、使ってください」

 差し出されたのは白いハンカチ。

 なんて良い子なんだ。こんな哀れなピエロにこんなにも優しく接してくれるなんて。

「ありがとう。でも、こんな綺麗なハンカチ汚してダメにするわけにはいかないから」

 おお、我ながらなんて紳士的な切り返し。自分で自分を褒めてあげたい。

「別にいいです。どうせもう捨てるつもり、使ったついでに捨てといてください?」

「あー……そうですか……分かりました……」

 超美女からハンカチを受け取って鼻に当てる。もともと、そんなに酷い鼻血ではなかったので、それ以上血がでることはなかった。

「お礼を言うのはこっちの方です。道を訊いたらいきなり『お茶に行かない』なんて聞くから困っていたんです」

 はぁ?

「え、なにじゃあ自分から話しかけたの、アイツらに?」

「ええ、だってここ何処か分からないし、あの人たち以外誰も近くに訊ける人いなかったんです」

 道理でこんな超美少女がこんな所にいるわけだ。この裏道は人通りが極端に少なくて柄が悪い奴らの溜まり場にまっている。初めてこの町にきた人以外は誰も極力通ろうとしない道だ。

「でも、いくら道に迷ったからってアイツらに訊くことないだろ」

 自分から絡んでくださいって言ってるみたいなものだ。

「どうして?」

「どうしてって。どう見ても素直に道を教えてくれるような奴らじゃないだろ」

「何処が?」

「何処がって……」

 嗚呼、なんだろ、この不毛な会話。というか、この子もこの子でなんだか世間慣れしてないっていうか、箱入り娘みたいっていうか。普通は不良の区別くらいつくだろう。

「とにかく、さっきみたいな人に話し掛けない方がいい。大抵、悪い人だから」

「貴方は人を見かけで判断するんですね」

 痛いところをついてくる。なんか俺が人を信じれない寂しい人間みたいだ。でも、今の時代素直さだけじゃ生きていけないのも事実だ。

 あ~あ、嫌だ嫌だ。

「それで貴方はどっちなんですか?」

「へぇ?」

「いい人なの? 悪い人なの?」

「見てわからない?」

 超美女は俺を上から下まで見回す。

「そうですね、変な人?」

「なんでだよ!」

 俺が憤怒の形相を浮かべているのを尻目に懸け、超美女は口に手を当てて上品に笑う。

「ごめんなさい。そうね、貴方はいい人“そう”です」

「そう?」

 何故か一言余計だ。

「だって貴方と私は会ったばかりでまだお互いのことを理解してないですし。まだいい人と判断するには早いんじゃないでしょうか?」

 む、確かに。俺の見た目がいくら人畜無害で女の子が襲う甲斐性がなさそうといっても、実は心の奥底には欲望に塗れた狼が潜んでるかもしれないからな。

 ……。

 まぁ、そんな狼は潜んでないんだけど。

「ということで、はい」

 そう言って超美女は一枚の紙切れを差し出してくる。

「なにこれ?」

 何気なく受け取るとそこにはここら辺の地図だった。そしてある一点に赤く印が付いている。

「本当に貴方がいい人かどうかテストします」

 彼女はまるで抜き打ちテストをする学校の先生のように宣言する。

「私をそこまで案内してください」

 そういえば道を訊いてたって言ってたな、とその地図に目を向ける。

「えっと、ここはもしかして君の家?」

「そう、私の新しい新居。今日、この町に引っ越してきたんだけど迷ってしまったの」

 そーか、そーか。ここが新居か。

「どうかしたの? すごく嬉しそうですね」

「いや、なんでもない。こっちのことだから」

 首を傾げているが、とりあえず道案内を始める。

 といっても裏道から地図の印まではそれほど時間はかからなかった。どうやら迷いながらも的確な方向には進んできたようだ。

 地図の赤い点はあるマンションを指していた。何処にでもあるようなマンションだ。

 けど一人暮らしするには少し大きすぎる気がする。家族も一緒なのか?

「ありがとう、本当に助かりました」

「このぐらいはお安い御用だよ。なんせ俺はいい人だからな」

 と笑う。

 超美女はそれにつられたように笑うと「それじゃ、さようなら、いい人」と言ってマンションの中へと消えて行く。


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