愚者の英雄伝
終了
一体どれだけの時が過ぎたのだろうか?
いまだ眠り続ける刈谷は夢を見ていた。
その夢では自身が日本でまた学生生活を送る夢だった。
久しぶりに夢とはいえ見る故郷の姿……それは懐かしく、また悲しいものだった。
今なら帰れる。だが、今帰っても下手をすると故郷を滅ぼしてしまう。
その夢は長く、長く続き体感時間では3日をゆうに超えていた。
「あ、あぁ」
目を覚まし、身体の調子を確かめる。
魔力はかなり戻っているし、ストックもそれなりにできたようだ。
全身から感じる心地よいベットの感触を感じつつ、二度寝しようかと思っていると少々気になることに気づく。
―――全身から感じる?
ふと思い立って自分の今の状況を見てみると……裸だ。
「へっ?」
少し間の抜けた声を出し、とび起きる。
窓からはやさしい朝日が部屋に入り込み、ベットはさっきまで寝ていたので少々シーツにしわがよっている。服を探すもそこには無く、仕方なく現実化のスキルで創ろうとするもできない。
「え?」
とっさに真眼で自身を見る。
「なっ……」
魔力が身を包んでいるのはいつものことだがその魔力が外に放出されながらもその後大気中の魔力が自身に入り込んでくる。
いつも通り身体を包む魔力を加工しても、すぐに大気中に溶けてしまっているからスキルが発動しないようだ。
「まあ、そこを除けば……」
そこを除けば一種の目的達成だ。これで魔力の暴走は無い。
「でもなんで?」
そこが分からない。いつもそうなったらいいな。ぐらいにはイメージしているが、寝ただけでできるようになるわけが無い。
「まあ、いいか」
気にしない方向で改めて服を創り出し、その服を着る。
そのときちょうどノックされる。
「ん?ああ、レオナかおはよう」
「おはよう。起きたみたいね」
朝食ができたらしく、ご丁寧にも呼んでくれたみたいだ。
「わかった。ありがとう。そういえば僕の服がどこにあるが知らない?」
あ、と少し驚いたような表情を浮かべ、
「ごめん。洗濯してた。後でもって来る」
「ありがとう」
そういってレオナが出て行ったので、そのうちに現在の身体のチェックをする。
基本的には変わりなし。大気との魔力交換ができるようになったぐらいのものだ。
「これからは首都に行って、決戦済ましたら帰るつもりだ。
しかし、ちょうどよかった。
寝る前にあいつの魔力を感じたからな。起きたらこっちに来ようと思ってたんだ」
朝食を済まし、二人で食休みをしているとき、これからどうするかを聞かれてこう答えた。
「勝ち目はあるの?」
「一応実剣を数千本用意してあるし、全部召喚用のしるしを彫ったから大丈夫だって」
正直勝率は五分五分だろうと思っている。さすがに死にそうだったら即刻帰るが、何とかできそうだったらそのまま倒してしまうつもりだ。
「そう、五分五分なの……」
「一応聞くが、なぜ分かった?」
顔に出しただろうか?
「数をそろえて勝てるなら最初に瓦礫でも何でも使って倒してるでしょう」
ごもっともです。
「それに、あなたはストックを手にするために眠った。ならそれを使うところがあるから。召喚するにしてもあなたならストックなしでもそれぐらい召喚できるだろうし、それ以外にも色々あるけど聞きたい?」
「いえ、結構です」
因みにストックを用意した理由は緊急時の回避に転移魔法を使うためといざと言うときに帰るためである。これをするにはストックがいる。
「どうする?止めるか?」
「いいえ、止めない。その代わり必ず倒しなさい」
「それなら止めてくれ、正直止めなかったからと言って必ず勝てるなんていえない」
お互いにお互いの目を見て言う。そこには強い信念と感情が渦巻いていた。
ふと目をそらし、横を通り抜けてから言う。
「いつか言った台詞だが、あえて言っておこう。
―――世話になったな」
「ふう、タイミングは違うけど、
―――死なないで」
互いに顔を見合わせることはなかったが、互いに笑ったのを感じた。
「ああ」
少し笑いながら扉をくぐる。
扉が閉じると、そこには静寂が広がっていた。
エルフの森を出て、無駄に魔力を使う必要もないだろうとあるいて首都を目指す。
「刈谷!」
背後から呼び止められる。これはおそらく……。
「五藤、お前は今すぐレオナのとこ行って来い。正直こられても邪魔だ」
振り返ってから言う。急いできたのだろうか、息が切れている。
「分かってる。ただひとつだけ言っておきたい」
真剣なまなざしで言う。ここは聞いておこう。
「これはおそらく代弁になるが……。
―――死ぬなよ」
いつか坂本に言われた台詞。なぜ高々四文字なのにこうも心に響くのだろうか……。
「もちろんだ」
そういって懐から一束の紙を渡す。そこには刈谷が調べ上げた魔法についての理論が書かれている。さすがに召喚魔法や送還魔法については書かれていないが、その他についてはしっかりと書かれている。恐らくだが、これを一国が独占するだけで世界征服も夢ではない。圧倒的な魔力コストダウンや新しい魔法などが書かれていたり、他にも予測でしかないができるであろう魔法の可能性についてもいくつか書かれている。
「悪用するなよ。そうしようとしたらこれは消えるから」
「刈谷、お前……!」
これのみが刈谷がここで生きた証かもしれない。高々三年間だが、あらゆる国の国家レベルの研究結果を調べ上げ、まとめたもの。さらに、自分で考え、研究した結果。そんなものを刈谷は五藤に渡したのだ。
右手を上げて進む。もう振り返ることも、止められることもないだろう。
大きな黒い生命を見上げる。
前に見たときよりもその力は強大になっているが、それも予想の範囲内。
どうやらあちらもこっちに気づいたようだ。
それでもなお待っている。
あちらもきっと知っているのだ。これが最終決戦だと。これこそが刈谷慎吾という名の魔術師の、殲滅の魔術師としての最後の戦いだと。
―――さあ、行こう。ここより先には生か死か……どちらになるかは分からないが、それ以外に道はない。
『ようやく来たか。待ちわびたぞ。お前ならばきっとここに来て私を殺そうとすると思っていた』
ドラゴンはこちらを見下ろす。
『一応聞いておこう。私に従う気はあるか、刈谷』
それに答える質問など当の昔から決まっている。
「あるわけないだろ」
『そうだろうなぁ。ならばその目を抉り出し、わが駒に植えつけよう』
右手を上げ、剣を呼び出す。宙には千の剣。
左手を正面に出し、長剣を掴む。
「いくぞ、帝王龍」
その声とともに死闘は始まった。
宙を舞っていたいくつもの剣は今ではもうほぼすべてが炎によって溶かされていた。
これはもはや剣ではない。
一人の人が両の手に剣を持ち、果敢にドラゴンへと切りかかる。その身体はもはや死体だった。
対するドラゴンも無傷ではなく、身体にいくつもの剣が生えており、その美しかったうろこはほぼすべてひび割れている。
「ええい、小ざかしい!」
ドラゴンは一向に倒れない人間に腹を立てていた。
人間は腹を貫かれ、右足はあらぬ方向を向いており、身体のどこを探しても無事と言えるところはどこにもなかった。
しかし、その目にはドラゴンを映し、手に剣を握ってドラゴンを切り裂いていく。
身体には光が少し灯り、治癒魔法の使用が伺える。
ドラゴンの攻撃を紙一重で避け続け、ドラゴンにはしっかりと攻撃を入れている。
それも長くは続きはしまい。なんせその身体はもう死んでいるのだから。
さすがに心臓が止まっているとかではない。そういう意味では生きている。だが、身体の限界は迫ってきていた。
その証拠にさっきまでは完全に避けれたものが紙一重とぎりぎりの避け方をしている。
もう後数分すれば攻撃があたるだろう。そのはずなのだが……。
「なぜ…倒れぬ」
この思考ももう7度目だ。最初にそう思ってからすでに30分は経過しているだろう。
そう思い、この思考を打ち切る。後一発入れれば終わるのだ。
そう、あと一発……。
身体の感覚はもうない。息をしているのかさえ怪しいものだ。
魔法で身体を宙に浮かせ、この敵を攻撃し続けて、何度もうあきらめようと思ったことか……。
真眼はまだ続いている。ストックの魔力はまだ十分にある。まだ倒れない。倒れるわけには行かない。この敵を倒すまでは。
ふと、夢を見た。
幻と言うのかもしれない。だが、光景はこの身を動かし続ける要因のひとつである。
ある槍兵が戦場を駆ける。ある弓兵が遠くから敵を射抜く。ある剣士が敵と切り結ぶ。
それらは英雄と呼ばれてきたものたちの記憶…見たものは百を超える。
有名な英雄から、名も知らぬ兵士まで……。これは自身の妄想だといわれたら恐らく納得する。だが、すごく心に響く。少なくとも彼らは何かを成し遂げた。それはひとつの戦かもしれない。もしくは暗殺かもしれない。誰かを救ったかもしれない。良い悪いを抜きにして彼らは何かを成し遂げた。ある人にとっては英雄。そしてある人にとっては……。
―――身体が熱い。
見てみると心臓を貫かれていた。
ようやく終わった。そのドラゴンは安堵した。
人一人など取るに足らない存在だった。ようやく心臓を貫き、この男を殺した。
そして、当初の目的を果たすため、目を抉り出そうとして手を伸ばし……。
―――手首を切り落とされた。
熱いと感じていた身体からどんどん感覚が消えていく。
死が近づいているのだ。
「ぁ………ぁぁ」
声も出ない。身体は糸の切れた操り人形のようにまったく動かない。
死にたくない。まだ死ねないと思った。
魔力はまだ残っている。今の僕に何ができる?
尋ねても返事はない。答える者もいない。
走馬灯だろうか、思考がスムーズに運んでいく。
そもそも僕は何がしたかったのだ?
幼いころ何を感じ何をしていたんだ?
そうだ。ただ僕は……。
―――何かを成し遂げたかった。自分のためと言いつつ、実際には回りに何かを残し、何か役に立ちたかった。
そうだ。それだけだった。
―――ドクン
心臓の音が聞こえる。穴が開いているのになぜだろう?
立ち上がる。目を開く。剣を握る。敵をにらむ。
身体が動く。まだ戦える。理由なんてどうでもいい。それだけだ。
僕は英雄にあこがれた。男はみんな一度はそういう夢を持つ。刈谷はそれが抜けきらなかった。本人の自覚していないところでまだ英雄になりたかったのだ。
固有魔法はその人の本質を表す。
刈谷はたくさんのものを倒したかった。
その術が舞い踊る無限の刃。
刈谷は英雄になりたかった。
その夢が顕現する英雄の武に。
その懇願が人々の夢見し理想に。
刈谷は知りたかった。苦しいときもどんなときも何かを成そうとする英雄の生き様を……。
―――それが……。
―――愚者の英雄伝…刈谷の固有魔法であり、そしてそれらすべての原型。
これこそが、刈谷の持つ本質を表した言葉。
それが、刈谷の想いの形。
愚者の英雄伝の効果を一言で表すなら。足掻きだ。
しかし、それがすべてではない。それに足掻く相手は敵ではない。現実だ。
誰よりも現実的であり、それだからこそ自身は英雄になれないと知っており、現実を知っている。だからこそ足掻く。自身で否定しているにもかかわらず足掻き続ける。それがこの能力。他の何よりも現実的であり、なおかつ他の何よりも幻想的なことをする。
現実を認め、現実を知り、現実によって打ち砕かれるはずの思いを己の想いで無理やり具現化する。
虚実を求め、虚実を使い、虚実によって成し遂げられるはずのことを己の力で無理やり無力化する。
自身以外の能力の無力化、すべてにおいての英雄と同じ技術の模倣、伝説上の武器と同じ効果の模倣……。
つまり、刈谷がやったことは虚実化スキルの無効化と現実化による心臓の複製からの心臓の再生。
今の刈谷を殺すには、魔力が尽きるのを待つか、頭をつぶすしかない。
「おのれ、餓鬼が!!」
動きがあまりにも遅い、懐に入り込み、切り伏せる。
竜殺しの英雄の力を借りずともこの程度倒せる。
こんな小さな竜など、今まで体感した英雄たちの戦いの相手よりもちっぽけだ。
敵は力を振り絞り、漆黒の炎を吐く。闇の炎、普段ならあたったらまずいと思うが、この程度、避けるまでもない。剣に魔力を込め、剣とともに疾風の刃となって炎を切り裂く。
驚愕に染まる目を見る。それに移る自身の姿は死体ではなかった。そこには夢に見た英雄の姿があった。
もう一度剣を握る。両手に持った剣は黒ずんだ血を宙に飛ばし、その白銀に輝く刀身をさらに輝かせる。
竜の残った手の一撃、それを完璧ともいえるタイミングで左の剣で受ける。その力に身を任せ、身体を回転させつつ敵に迫る。魔力で足場を作り、もう二歩踏み切り、力を最大まで圧縮し、すべての力を込めて竜の首をはねる。
もはや勝負はついた。
地面に魔方陣を書く。
ゆっくりと、覚えこんだ陣を。
色々と思い出す。この三年間の思い出……。
書き終えた陣に入り詠唱を唱える。
一句、一句かみ締めるように唱え、あたりが光に包まれる。
「じゃあな」
一言そういい残し、おいておいた手紙をもう一度見てから魔法が発動する。
その後そこにはひとつの手紙と一振りの剣が墓標のように突き刺さっていた。
後に、この場所を英雄刈谷の墓とするものとされ、実際とは違ったことが歴史として刻まれる。
刈谷からすればここが刈谷の墓と言われたときに納得するだろうし、同意するだろう。
刈谷が最後に残した手紙は歴史に刻まれておらず、誰かが持ち去ったものと思われる。
刈谷が五藤に渡した研究結果により、魔法学の研究が五十年は進んだと言われる。
理由としては、刈谷はいろいろな手段を使いあらゆる国の極秘とされるレポートなどを公にしたことと、それの応用や、魔力の性質が書かれていたためだ。
三百と何年か過ぎたある日。
「なんだ。こんなことだったのか」
笑い声が響く。
刈谷の手紙はこの世界の人が見てもそう簡単には解けない文字で書かれていた。
魔法式を組み合わせ、それらから作り出した文字……これらは刈谷が作り出したものだ。
それを一から解読したのだから、時間がかかったのだろう。
手紙にはこう書かれる。
『これを解読するのは恐らくレオナだろう。
ここに書かれた文字は気づいていると思うが、魔法学に応用できる。
こんなものを解読する暇があったなら、できれば自分の人生を歩んでほしかったな』
剣の墓標は今も荒野に突き刺さっていた。
最初投稿してから五ヶ月弱長かった。
こんな駄文を読んでくれてありがとうございます。
最初から読んできてくれた人いたらありがとうございます。
次を書きたいと思っているので、評価してくれるとうれしいです。




