死と破滅
「―――帝国は滅んでいない。
あいつらは、最後に城下町中の人の魂を使って一つの化け物を呼び出した。
その化け物はすぐに発見できたから色々やって油断させて城ごと封印して、しばらくは大丈夫だったが、正直、そろそろ封印が解ける。もう、解けているかもしれない。今回の魔族襲撃が無ければ今までためた魔力のストックを使って消し去ろうと思ってたんだが……」
それも今となっては叶わないことである。時間はもう無い。僕はこのコロシアムの観客を見捨てられなかった。
「―――僕も甘いな。観客を助けないで良いと思っていればここまですぐにお前らを帰そうと急がなかったのに……」
少しの沈黙。そして、
「―――仕方ない。あまりこの方法は使いたくなかったが……。
―――夢魔の誘い―――」
強制睡眠魔法、夢魔の誘い。これは魔力によって成功か失敗かが決まる。要するに刈谷が使えばまず成功する。
「お前…そこまでして……」
二人とも眠る。下には魔法陣を描き、位置も特定してある。後は魔力を送るだけ。
「悪いな、坂本、菊池。正直に言って、この魔法は無属性魔法でしかも真眼を使って時限のゆるいところを見つけないと使えない魔法だから、僕が死んだらお前らを帰せない可能性が高いんだよ」
魔方陣に書いたほうには魔力の穴場を見つけなくてもいいだけの魔力をこめたが、その分特定位置をしっかりとイメージしないといけない。自分から行くならこの方法でのほうが僕は楽だったが、やはり、自分からは行きたがらないか……。
「あ、刈谷。坂本と菊池はどうしたの?」
「レオナか……二人は今さっき帰ったよ。本当の居場所に」
送り届けて少し考え事をしてるとレオナがやってきた。
レオナはその台詞と今までに話しておいたことで何があったか気付いたらしく、
「本当に、見つけたんだ。―――あなたも帰るの?」
「いや、まだだ。―――帝国との関係にしっかりと終止符を打たないといけないからな」
これからだ。これから、僕の本当の戦いは始まるのだろう。
もう長くないこの体を使って、できる限り後始末をする。
「―――あなたなら、きっとそんなこと知らないといって帰ると思ってた」
「帰っても良いんだが、そうしてもそんなに僕にとっては変わらないからな」
僕にとっては変わらない。つまり、坂本たちには今帰ることに意味があるのだ。
「どういうこと?」
「僕はすでに二回魔力切れを引き起こし、人の体に収められる魔力の量を僕の総魔力は超えてしまっている。早い話が、強すぎる力はその身を滅ぼす。僕の魔力は強すぎてこの身自体を破壊してしまうレベルなんだ。そうなると、封印は解けない。解くにしても、必ず完全な状態では解けない。足りなくなった量を封印解除で補うしかできないんだ。
肉体は空間、魔力は液体、いかに液体が多くても、その空間を超える量は入らない。僕の場合、液体を封印して圧縮して、今まで大量の魔力をこの身に宿してきたが、そうしていっても、もう空間が足りない。
空間からあふれるとき、その空間をその液体は破壊する。どちらにせよ、僕はどうあがいても3年以内にこの体は己の魔力と己の幻想で周囲に多大なる被害を引き起こしながらスキル・固有魔法の暴発により、下手をすると国を滅ぼす。そんな時限爆弾、元の世界に持ち帰れないだろう」
つまり、刈谷がここに残る最大の理由は、尻拭いでも同情でもなんでもなく、ただもとの世界にこんな時限爆弾を持ち帰りたくないという理由のみ。
『死んだものとして扱ってくれ』この台詞は比喩でもなんでもなく、ただの事実。刈谷だって元の世界に戻りたい。だが、時限爆弾を持ち帰るわけには行かない。この体の時限爆弾が時間までに解除できなければ、僕は死ぬ。できれば、この世界から消え、元の世界に戻る。いたって、分かりやすいこと。
話をまとめよう。
刈谷は坂本と菊池を元の世界に強制送還した。
刈谷がそうしたのは、この世界で大きな戦争が起こること、自分が死んだら元の世界には戻れなくなる可能性があることだった。
大きな戦争とは、帝国(帝国の戦争によって生み出されたもの)はまだ滅んでおらず、封印されていた(刈谷の手によって)。その封印が解けるから化け物が復活し、再度戦争(大規模な化け物の進行)が起こると予測できるため。
刈谷がこの世界の残るのは自分の体に時限爆弾(全て召喚されたのが理由)によって、3年以内にどうにかする手を見つけないと周囲に大きな被害を出して(国レベルの被害)自爆してしまうから。
表向きの説明は自分の尻拭いだが、実際はまだ死にたくないし、この世界と自分の元の世界だとこの世界はどうでもいいと思っているから。
全てのことを知っているのは本人だけだが、所々は現在レオナと五藤が知っている。
知らないのは刈谷の時限爆弾が本当はどれだけの被害を出すかという具体的な被害の範囲のみ。正確には、『下手をすると国が滅ぶ』という生易しいレベルではなく、『下手をすると世界が滅ぶ』というレベルで、そこまでの被害になる理由は刈谷が少しでも世界を滅ぼせる武器を望んでしまったとき、それが武器として召喚され、現実として存在してしまうから、しかもそれは暴発なので自動的にそういった能力は使われる。
はっきりいうと、はた迷惑でしかない。
防ぐ方法は簡単だ。全力で魔力をなくした後、殺せばいい。そうすれば暴発する魔力は残ってないから大丈夫になる。
「刈谷、その時限爆弾は解除出来そう?」
「方法が無いわけではない」
そう、方法はある。かなりやりたくない。と言うか絶対やりたくない。
「どういう方法?」
「お前、熱心なレニス教者か?」
「違う。と言うか、レニス教者ですらない」
「じゃあ良いな。まず、レニス教の言っている『魔法は神によってもたらされた奇跡の名で、魔族や魔物の使うものは悪魔の業であり、神を信仰することで魔法はより強く使うことが出来る』って言うのがあるけど、魔物も魔族も人も同じ魔法を使っているし、あいつらの言う聖典の詩は神をたたえる詩といってるが、正確には魔術式をただ言ってるだけに過ぎない。まあ、これは知っていたと思うから改めて言うまでもなかったか……。本題は、神がいるかいないかのところにあって、結論から言えばいるんだが、そこでちょっとお話して、これを何とかしてもらおうというのが一つの方法だし、もう少し魔力を操るのがうまければ、魔力をもう少し違った形で出し入れできるからそういった方法が今は考えられるな」
そう、今の僕には出来ないが、もう少し魔力を使うのがうまければ……。
「刈谷?どこ行く気?」
「? 宿に戻るつもりだが?」
何が言いたいのか分からない。
「これから表彰だし、それに明日の試合の相手を見ておかなくていいの?」
「明日の試合? もう大会は終わっただろう」
本当にレオナはなにが言いたいのだろう?
「だって、明日はEXランクの人との試合でしょう」
「…………」
すっかり忘れていた。
「―――そうだな。正直このままとんずらしようと思ってたけど、せっかくだし試合していくか」
そういえば楽しみにしていた記憶がある。
「それでは、今回優勝者と戦ってくれる。EXランクの冒険者。美しく、華麗に、そして瞬く間に敵を倒す……アイリスだ!!!」
人を無理やり不良を追っ払うのに使ったあの女が紹介とともに現れる。
「……………」
声にならない怒りの叫びを無理やり押さえ込む。
いや、別に怒ってはいないけど、結構面倒だった。謝罪を要求する。
「いやー。困っちゃうなー」
当の本人は、困った様子でもないのに、『困った』と繰り返す。
ああ、困ってくれ、存分に困ってくれ。
「えっと、君が優勝者だね。やっぱ君かー。正直君と殺り合ってみたかったからこんなのに出る気になったんだよねー。しかも意識してたかどうかは知らないけど、君、陰属性使いのダークエルフを瞬殺してたし、しかも魔法を使わせず始まりと同時に槍を投げて終わらせるなんて……。正直、面倒くさかったんでしょう。そんなんじゃ観客に嫌われるよー」
よく見てたな。正直言われるまで相手がそんな魔法持ちだったことに気付かなかったよ。そういえば確かに真眼で見たとき闇属性と少し違って戸惑った記憶がある。そういえばそれで何してくるか分からないから、適当に終わらせたんだった。
「―――いい目してるけど、そこまでは知らなかったらしいね。そんなんじゃいつかあっけなく死ぬよ」
言われていることに、特に否定はしない。と、言うよりできない。
実際、刈谷は真眼によって大体のことは見てわかるが、今までに見たことの無いものはわからない。刈谷をこのように大会で優勝させているのは基本スペックの問題もあるが、一番はここにある。要するに、奥の手が効かないのだ。例えば、試合中長い時間をかけて刈谷を罠にはめようとしても、真眼によって対処される。しかも、完成するぎりぎりのタイミングで、刈谷を罠にはめたと思う瞬間に。
しかも、自覚しているだけましだが刈谷はそれに頼っている。言ってみれば当たり前のことである。刈谷は自身がまだ戦う術をきちんと持たないころからこの目を使い、この目があることを前提に戦っている。攻撃する方法や、攻撃してくる場所なども、魔力の動き、風の流れ、そして直感でほぼ回避しているし、いざとなれば魔法を使い、その場をしのいでいる。
刈谷の剣技も、目に頼っている。目で攻撃の動きを見切り、それに剣をあわせて、相手の力で切っていたり、その場にある他の力を使って攻撃する。そうでなければ筋力で負けてしまうし、そうなれば力でごり押しされそのまま殺されると知っているからだ。
「―――ご忠告どうも、それで言うならあなたはまず間違いなく固有魔法を持ってますね。おそらく属性系統のものを……」
「あら、そのぐらいは分かるんだ。じゃあ、前言撤回。
―――あなたは自身の理解の範囲を超えた攻撃で死ぬ」
どうやら、死ぬことは前提らしい。




