過去 殲滅の魔術師2
「ほ…報告します。
帝国に攻め入っていた部隊が何者かにより壊滅しました。
3万が死亡、残りの2万も少なくない怪我をしていました。
その者たちによると、一人のまだ幼さの残る黒髪の青年がなにやら剣を一振りしたら炎が上がり、それに飲まれたそうです」
一人のまだ若い兵士が話すのを、フィリアは楽しそうに聞いている。
そしてふと笑い出す。
「ふふふ、そうくるの……。
じゃあ、今度は20万人で帝国に押し入りなさい。たぶんもうこないけど、例の青年を見たら捕らえるように」
兵士はその命を前線に伝えに走り去る。
「さしずめ、殲滅の魔術師ね。
―――強いとは思ってたけど、まさか5万の兵を追い返すなんて……。
楽しくなってきたわね。しっかりと周囲をかためておかないと……」
その部屋にはしばらく楽しそうな女の声が響き渡った。
一週間だ。
それから一週間で帝国は滅んだ。
幸い、学院の生徒は刈谷の活躍があってかほとんど無事に逃げることができた。
その後聖国は自らにはその土地を治めることのできる状態じゃないとして国有地とはしたもののまったく触っておらず、現在では豊かな自然が広がっている。
と言うのは建前で、実際は多くの魔物が巣食う広大なダンジョンと化しており、誰も近づけない。
「報告ご苦労様」
すると兵士は敬礼し、踵を返して去っていった。
―――ゾクリとした。
殺気ではないが、いやな予感。
敵の多い皇女という立場でつちかわれた危険察知能力。スキルで言うならば直感に近いだろう。
直感は先天性のものだが、危険察知能力は後天性のものだ。ちなみに直感のほうが応用が利く。
話を戻して、とにかくいやな予感がした。そう思ったとたん扉がノックされる。
「だれ?」
しっかりと準備を整え、いつでもどうにでもできる様にしておく。
しかし返事はなく、代わりに扉が開いた。
「―――刈谷慎吾」
そこにいたのは愛しいあのときの青年だった。
「何の用かしら?もしかしてこちらにつく気にでもなったの?」
そう言いながらありえないと否定している。彼がそんなことをするなら最初に会ったときについてきている。
「まさか、もしそれなら先日の侘びの品だといって花束の一つでも持ってくるよ」
まあ、彼が来た理由はわかっている。
「―――あいつの敵討ち?」
「いや、ただただ単なるお礼参りさ」
またの言い方を報復という。とつけるべきね。
まあ、私は彼に殺されることはないでしょうけどもね。
「嫌がらせだからな。ここにいる人をお前以外すべて殺した。そしてうれしくって思わず盗賊たちに今日ここで皇女様が一人っきりになるって言っちまった」
そう、然も楽しそうに言う。だから……
「ねえ、一つ私と賭けをしない?」
――賭けをすることにした。
「どういう賭けだ?」
笑みを絶やさず、この台詞だけを聞けば好青年が女性に賭けを申し込まれているようである。
間違ってはいないが、内容が内容だし、さっき話していたことを考えるとかなり場違いだ。
「かんたんよ。これから三年間、私はあなたを追い続ける。
三年間逃げ切ればあなたの勝ち。もう私はあなたに干渉しないし私は戦争が起こらないように勤めるわ」
しっかりと聞いてくれている。果たして受けてくれるだろうか?
「―――私があなたを捕まえたら私の勝ち、私の言うことをなんでも一つ聞いて」
沈黙。
「ルールは?」
真っ先にルールを聞いてくるのは予想外だったが、伝えなければならない。
「私は権力を使ってはならない。冒険者を使ってはならない。捕まえたというのは、そうね…抱きしめたらなんてどうかしら?」
これは、はっきり言ってこちらが圧倒的に不利だ。
仮にも皇女が権力を使わずに一個人を捕まえるのはまず不可能だ。
「わかった。ただし、僕がここから転移してからスタートだ」
しっかりしている。ここでこういわれなかったら抱きついて言うことを聞かせてやろうと思っていたのに。
「じゃあな、せいぜいがんばれよ」
そう言い残し、その体は消えていった。
刈谷がそのゲームに参加したのには理由があった。
まず、刈谷は今回の件で彼女が死んだり奴隷になったりするとは微塵も考えていない。
彼女もまた魔力量は結構多かったので、転移ぐらいできるだろうし、それに彼女一人でも賊を追っ払えると気付いていたからだ。
このゲームに参加したのは3年待てばもうかかわらないといったため、一時的に近くにこられても転移で逃げられるため、それにルールで相手が自らの行動に制限をつけたからだ。
そもそも刈谷は彼女がこれでこちらを無視しないだろうと考えていたので、三年という時間やつかまったら言うことを聞くというのを抜きにして楽ができると考えたからだ。
それ以外に理由は特になく、いざとなったら抱きつかれるときに剣できってしまえばいいとまで考えている。一応もう一つ理由があったのだがここでは語らないでおこう。
なんにせよ、これらの理由から刈谷はこのゲームに参加したのだ。
もちろん彼女にもそのことは分かっているので、まず自分に彼を捉えることはできないだろうと思っている。もし捉えられたらそれは彼の意思か、それとも幸運に幸運が重なったときぐらいだろう。まず無理である。
彼女がそうしたのは何故かは彼女本人しか知らない。
それから時は流れ、少ししてからあの戦争について調べてみると、殲滅の魔術師というたいそうな名前が自分につけられていると知り、
『今じゃ最弱の中級者なのにな……』
と、自嘲気味につぶやいた。
なお、逃げた学生は途中で魔物に襲われて死んだり、冒険者となった後、今までの身分を使おうとして聖国に捕まり極刑など、さまざまな理由で死んでおり今まで生き残っているのは3割程度だという。
またその3割の内、向こうから来た人は刈谷と坂本と菊池だけだった。
きりがいいのでここで出します。短くてすみません。




