過去 殲滅の魔術師1
変なところで入れてしまいすいません
―――ティッグの傷は、命にかかわるものではなかった。あの傷でそれですんでいるのは慎吾がそうするつもりでやったことである証明でしかない。
少なくとも、聖国の皇女はそう考えていた。
彼女と慎吾の出会いは2年前にさかのぼる。
当時、刈谷は聖国を出た騎士に剣術を教わっていた。
基本の型のみしか教えてもらえず、その後はずっと木剣で打ち合いをしていた。
そのころ聖国では、帝国に戦争を仕掛ける上で、心強い指揮官となる人物を探していた。そこで、引退した刈谷の師に声をかけにきたのである。
「帝国との戦争があるから、戦うために指揮官として戦争に参加しなさい」
それは、交渉ではなく…命令だった。
「断る。俺には、今、弟子がいる。そいつをしっかりとした一人前にするまではここから離れるつもりはない」
彼は、戦争が嫌いだった。騎士にも、みんなを守りたいという思いでなり、それがかなわないと知って、騎士をやめたのだ。
「そうなると仕方ないわね……」
声をかけている女…聖国の王女は後ろにいる護衛に指示を出す。
「何をする気だ!」
その護衛たちは、彼をけん制しながら、彼と刈谷の暮らす小屋へとまわる。
「簡単な話よ。弟子がいてだめなら、弟子を殺せばいいのよ。
使い道があれば生かしておくけど…まあ、まずないでしょうね。決めるのは彼らだし」
いたって単純な考え、原因があるなら、つぶせばいい。それだけだ。
「大丈夫よ。とりあえず拘束してこっちにつれてくるように指示してあるから」
どこが大丈夫なのかと彼は叫びたかった。しかし、彼が下手に行動すると刈谷の命が危ないと知っていたがために、彼は動けなかった。
「それにしても遅いわねぇ。何してるのかしら?」
それが気がかりだ。あいつらが小屋に入ってもう10分はたつ。そろそろ来てもいいころなのだが、来ないとなると、何が小屋で起こっているかわからない。
「はあ、はあ、はあ―――っ!」
小屋の裏手では、刈谷が騎士二人と戦っていた。
「おいおい坊主。もうおしまいか?」
「もっと楽しませてくれよ」
力の差は歴然としていた。
―――そう、その時点までは……。
「―――第二封印まで…一時解除……」
このままでは負けると判断した刈谷は、封じていた魔力を少し開放した。
「? 魔力か、少し強いな…防御魔法を展開するぞ」
「わかってる」
彼らは言動がどうであれ騎士は騎士…きちんと相手の実力に対応した行動をとる。
―――まあ、本当にわかっていたらすぐに護衛対象を連れて逃げるのだが……。
「―――ダーク・ランス―――」
四本の闇の槍が敵に打ち出される。
「「―――マジック・バリアー―――」」
中級防御魔法で防ぎ、そのまま捕らえようとしたところ、
「―――デモンズ・ランス―――」
さらに強力な槍が、彼らを貫いた。
刈谷の取った行動は簡単だ。ただ、ダーク・ランスで敵に低位の魔法を使わせ、その隙により強力なデモンズ・ランスで敵を討ったのだ。
「く…そ……こんな子供だましの作戦に……」
「畜生…こんなことなら……全力でつぶしにいくんだった」
表も少し騒がしい。いきたくないという思いもあるが、これまで面倒を見てもらい、剣を教えてもらったのだ。見捨てるわけにはいかない。
刈谷は、自らの師の立場を知っていた。ゆえに、これが何のためにおきたのかも。
「刈谷!! 来るな!!! お前はさっさと逃げろ!!」
彼はそう叫んだ。刈谷がこちらに来るのが見えたときに、
「ふーん、あの子があなたの弟子?
―――なかなかかわいい子じゃない」
彼女がそういったのは、刈谷が彼女の護衛を倒したことに気づいたから……。
―――つまり、刈谷がここにいる彼の師より本当は戦えることに気づいたからに他ならない。
「そこで止まりなさい。そうしないと、こいつがどうなっても知らないわよ」
こちらに向かって走ってきていた刈谷にそういった。
「そこで止まりなさい。そうしないと、こいつがどうなっても知らないわよ」
そこにいたほかの人とはまったく違った雰囲気を持っている女性を少し恐れた。
そして、そのそばにいる。彼の知り合いを見つけ、声をかけた。
「ティッグ…どうしてお前がここにいる?」
口調は、ただの友人に対する疑問。だが、そのうちに秘められた殺気に気づかないものはいない。
「俺は、帝国のやり方に納得できない。だから……」
「―――だから売ったと」
「ああ」
ため息は出ない。確かに帝国のやり方は問題があると思う。
帝国は、以前の栄光を取り戻すために、異世界人の召喚や、軍備の異常な拡張などを繰り返していた。
「あら、ティッグ、この子と知り合い? だったら、おとなしくするように頼んでくれないかしら」
現在、刈谷は進むのをやめ、完全に敵対心をあらわにしている。
―――刈谷はおそらくだが、この女がいなければ歩むのをやめなかっただろう。
「ふう、こうしていても仕方ないから、自己紹介でもしましょうか」
なんでもないという口調で提案してくる。
「―――封印、一時全解除……」
用心して、封印をとく。
「私は、聖国の王女、フィリア・グロウ・レイ・ファンよ。フィリアでいいわ」
長い名前だな。という感想と、王女か……。という感想しか出てこない。
「―――それで、あなたの名前は?」
正直、ここまで丁寧に名乗られて名乗らないわけにはいかない。
「刈谷 慎吾。しがない冒険者だ」
「って言ってるけど、本当なの?ティッグ知ってる?」
小首をかしげて、正直隙だらけだが、ここで攻撃するのには隙がありすぎる。
「―――そのはずだ。こいつは冒険者になるために学院を出た……」
しかし、はっきり言わない。
「どうしたの?ティッグ」
「こいつは、固有魔法を使える。名前は忘れたが、確か武器の生成だったはずだ」
正確には違うのだが、一応黙っておく。
「そう、じゃあ……」
刈谷の師を締め上げる。
「こいつの命が惜しければ、魔力を抑えて、両手をあげてこっちに来なさい」
「俺はどうだっていい。刈谷おま……」
「黙ってて頂戴ね。さあ、来なさい」
一応、言ってみる。
「放せ」
「いやよ。だってこうしないと、あなたに殺されるもの」
別に、刈谷は自らの師のために近寄るのではない。相手を確実にしとめるために近寄っただけなのだ。
「従う気のない将や、反抗的な兵士は要らないわね……」
「どうしますか?」
「このまま逃げましょう。彼に殺されないうちに」
かなりあっさりしている。普通に考えて、一人の冒険者相手に逃げる必要のない戦力を持っているのだが……。
「すぐに立ち去れ」
「わかってるわよ。じゃあ、ティッグそいつを殺しなさい」
「は?」
信じられないといった風に聞きかえす。
「大丈夫よ。さすがにこいつを殺してから逃げることならできるから」
「―――わかりました」
刈谷は背後からのさっきを感じ、そのころその会話を聞いていなかった。それに、彼が殺されるときに奇襲を受けたので、彼女らを追うことができなかった。
『聞いたかよ。聖国が帝国に宣戦布告したらしいぞ』
『戦争か……。今のうちに聖国に行って、軽く小遣いでも稼ぐか』
『状況は圧倒的に聖国が有利だな』
『俺も、聖国に行っておこぼれでももらいに行くか』
これらの会話は、ちょっと町を歩いている間に聞いた帝国内での会話である。
ここからもわかるように、帝国はまず負けるだろう。
―――だが、できれば知り合いや同郷のやつらには死んでほしくない。
「仕方ない…な」
ほぼすべてのものが聖国のほうへと向かう中、独り学園へと歩む。
五藤は困っていた。
「どうする?」
「どうしようもないからな…おとなしく降伏するか……」
「そんなことしても無駄だよ。どうせ男は殺されて、女は犯されて殺される」
「それなら逃げるしか……」
「逃げれるならとっくに逃げてるけど、逃げるだけの時間も余裕もない」
先生はみな戦線へといており、生徒たちはいくつかに集まり、これからどうするか話し合っていた。
話は難航している。どうしても、戦力が足りない。どの作戦を使うにしろ不満が出てくる。
――ガチャッ
みんなが音のするほうを見る。そこには……
「よう、久しぶりだなお前ら」
―――懐かしい顔があった。
「―――わかった。なら、絶対に不満の出ない作戦を言おう」
五藤はそんな作戦が本当はないと思っていた。だが、その作戦を聞いたとき、確かに不満は出ないと納得はしたが、了承はしなかった。絶対に肯定できなかったのだ。それだけは。
「―――僕が足止めをしよう。大丈夫だ。世界を焼き尽くした神々の黄昏を再現するだけだから……」
不満が出るのは、死にたくないから。プライドを捨てれないから。だから、一人の自己犠牲。刈谷という魔術師の全力を知るものは、ここにはまだいない。
だが、刈谷が大魔術や固有魔法を使えることはこの学園ではほとんどのものが知っている。故に、『刈谷が少しぐらいなら時間を稼いでくれるだろう』という考えを生む。
そして、『それだけの時間があれば逃げられる』『刈谷なんてよく知らないが、そいつが時間を稼げるのであればそんなにいいことはない』と、考えそして不満は出ない。不満は……。
「本気か?刈谷」
入り口から懐かしい声が聞こえる。
「坂本、ああ、本気だ。たぶんそうするのが被害人数を抑えるのに一番いい方法だろうからな」
―――それに個人的な恨みが聖国にはある。
「そうか……。
―――俺は、正直言って反対だ。だが、それが最善であろうと思う。だから、俺はそれを止めない。でもなあ刈谷……」
大きく息を吸い、そのよく聞こえる声で言った。
「―――死ぬなよ」
たった四文字。だが、心に響いた。
「もちろんだ」
口元に笑みを浮かべ、軽くこぶしをぶつけ合い、互いに反対に進み始める。
「さあ、荷物をまとめろ! Aの5ルートだ! 日没とともに行動するぞ!!」
生徒は坂本の指示に従い、行動し始める。
―――僕のいない間に何があったかは知らないが、坂本は生徒の上に立っているようだった。
恐らく、日の出まで逃げたことはわからないだろう。
だから、日の出とともに行動開始だ。
「刈谷」
声をかけられて、振り向くとレオナが立っていた。
「死なないで」
「ああ」
それだけの会話をして、死地へと赴く。
これから死ぬものに、会話は要らない。必要なのは、確固たる信念と力だけだ。
日が昇る。朝日が目にしみる。
「さあ、戦争だ。僕を止めるのはたやすかろうが……」
独りでつぶやく。まるで…いや、そんなもの要らない。ただ、自らへと言い聞かせるように。
「――――――」
その台詞は、敵の声でかき消されてしまった。
―――イメージしろ。
―――それは炎。
―――世界を焼き尽くした業火。
―――神々でさえ例外はなく、
―――純粋な炎。
「ぐっ!」
一気に魔力を持っていかれる。手の中には一振りの剣。
総魔力の四分の三使う剣。それはまるで、炎そのものだ。
「もう一本……」
ほしいのは、敵を殲滅するための武器。だが、それを刈谷はもう知らない。
ならば、どうするか、創るより他ならない。
だが、敵はもう目前。創る暇はなかった。
「うおおおおおお!!!!!」
正面の敵が剣を振り上げる。
刈谷は、レーヴァテインを横に無造作に振った。
炎が走る。炎が壁となり、草原を焼き尽くし、灰すら残さず、その高さは増していく。
4万の兵士と1万の傭兵は、炎に飲まれた。
感想等くれるとうれしいです。




