第4章:概念の侵食と、永遠の羞恥心
生中継によるネタバレと公開処刑から数日。
もはや冤罪工作どころではなくなったレオンたちは、最後の決着をつけるべく、大講堂の奥にあるセリスの個人サロンへと殴り込んだ。
バンッ!!と激しくドアが叩き開けられる。
「セリス……! いい加減にしろ!! 頼むからもうやめてくれぇぇぇ!!」
そこにいたのは、威風堂々とした第一王子の姿ではなかった。
髪はボサボサ、目は落ちくぼみ、涙目になりながら膝から崩れ落ちるレオン王子。
その隣では、あざとさを完全に消失させたクロエが、白目を剥いて壁にもたれかかっている。側近のカイルにいたっては、すでに精神の限界を迎えて部屋の隅で体育座りをしていた。
しかし、ふかふかのソファに腰かけたセリスは、優雅にティーカップを傾け、最高に純粋で美しい笑顔を浮かべた。
「あら、レオン殿下。そんなに慌てて、どうされたのですか? 私はただ、お二人の尊い愛を『公式』として世界に普及させ、語り継ぎたいだけですのに」
「普及しなくていい!! 頼むから語り継ぐな!! 恥ずかしくて外も歩けないんだ!」
「まあ……。直接的なグッズがお嫌でしたのね。オタクの配慮が足りず、申し訳ありません。……ご安心ください、そのような事もあろうかと、新たなブランドをご用意いたしましたの」
セリスがパチンと指を鳴らす。
すると侍女たちが恭しく進み出て、テーブルの上にズラリと美しい文房具やシルクのリボンを並べた。
それは、クロエの髪色である「ストロベリーピンク」と、レオンの瞳の色である「ディープブルー」をグラデーションで美しくあしらった、最高級の『概念グッズ』だった。
「お二人の愛の『概念』をモチーフにしたブランドですわ。すでに学園の生徒の9割、および王都の全若者の間で爆発的な大ブームとなっておりますの」
「がい……ねん……!?」
レオンが恐る恐るサロンの窓から外を見下ろした。
そこに広がっていたのは、まさに狂気の光景だった。
学園の中庭を行き交う生徒たち、警備の騎士、さらには庭の手入れをする庭師に至るまで、全員が当たり前のようにその「ピンク×ブルー」の概念リボンやスカーフを身につけていたのだ。
「見て! あの二人の概念リボン、超かわいくない?」
「分かる〜! つけるだけで『真実の愛(笑)』って感じがして最高だよね!」
外から聞こえてくる生徒たちの能天気な会話。
どこを見渡しても、街全体が自分たちの「イタい恋の象徴」で埋め尽くされている。
直接的な写真やアクスタでなくとも、その色を見るだけで、あのポエムが、あの痛い密会音声が、脳内に直接再生される呪いの空間。
地球上のあらゆる場所が、自分たちの「黒歴史」を永遠に突きつけてくる巨大な精神の牢獄と化していたのだ。
「あ……あぁ……」
レオン王子は、ついに膝から崩れ落ち、床に突っ伏した。
「もう……嫌だ……。王位もいらない……婚約もいらない……! 僕を……僕をどこか誰もいない遠くの開拓地へ追放してくれぇぇぇぇ……!!」
「キャー! 王子様、私の黒歴史を全国にバラさないでぇぇぇ! 私、実家に帰るぅぅぅ!」
クロエも頭を抱えて悲鳴を上げ、二人揃って二度と表舞台に出てこられないほどの重度な人間不信(と絶望的な羞恥心トラウマ)を発症してしまったのだった。
エピローグ
数日後。
第一王子と転生ヒロインが揃って自室に引きこもり、完全に廃人化してしまったことで、セリスの破滅フラグは見事に(?)粉砕された。
公爵邸の豪華なデスクで、セリスは満足そうに深いため息をつく。
「ふう……お二人が表に出てこられなくなったのは少々寂しいですが、私の手元にはまだ、大量の『未公開オフショット画像』と『初期設定資料集』が残っていますわ」
セリスは楽しそうに魔導羽ペンを走らせ、新たな原稿に向かって微笑んだ。
「さあ! 第2弾として『引きこもり王子とあざと令嬢の愛の逃避行・別冊ファンブック』の執筆に取りかかりますわよ! オタ活に終わりはありませんからね♡」
悪役令嬢の過剰な愛という名の社会抹殺(オタ活)は、今日も平和に(?)王国を包み込んでいるのだった。
(おわり)
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