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勇者によって魔王は滅びる

作者: 小雨川蛙
掲載日:2026/07/12

 

 その日。


「は?」


 魔王は鏡に映る自らの姿に思わず困惑の声を漏らした。


「嘘だろ?」


 傲慢不遜。

 唯我独尊。

 あとは、最強無敵?

 とにかく、そんな魔王として生きていた故に素の言葉を落としたのは初めてだ。


「せっかく勇者を倒したのに……」


 そう。

 彼は先日、遂に勇者を倒したのだ。

 凄まじい戦の後、虫の息の勇者の最期の言葉。

 あるいは呪詛を思い出す。


『俺を倒しても必ず、第二、第三の勇者が生まれる……そして、必ず貴様を倒す』


 一笑に付して魔王は勇者の首へ刃を当てる。


『言い残すのはそれだけか』


 直後。

 何事かを勇者は呟いた。


『呪文? この期に及んで何を?』

『……』


 魔王の耳は辛うじてその声を聞きとった。

 それを聞いた途端。


『最後の呪文がこれか。馬鹿め。失望したぞ』


 勇者の首を刎ねた。

 その遺体を唾を一つ吐き捨てながら、ぽつりと言葉を呟く。


『本当に。失望したぞ』


 ――んで、今日。


「え。マジ?」


 魔王はもう一度、鏡をまじまじと見つめる。

 しかし、何度目を擦ろうともその額は――。


「嘘だろ? え? マジで?」


 混乱しながらも魔王は一先ず額を布で隠す。

 何が何だかわからないが流石にこのままではまずい……。


「とっ、とにかく。状況を調べなければ……」


 慌てたままに魔王は王城を駆けだす。

 ――その最中、あまりにも焦っていたためか足を踏み外してしまった。


 魔王城の中でも最も高い魔王の部屋。

 そこから階下に続く階段の段数など数えるのも恐ろしい。

 転移魔法を使えば早かったのだが、今、この瞬間に限っては『むしろ歩く時間』が重要だと考えた魔王の聡明なる頭は『最悪の結果』をもたらした。


 配下が頭を打って事切れた魔王を見つけるまで、あと数刻。

 魔王が必死に隠していた額が残酷に晒されるまで、あと数刻。

 何が起きたか分からずに配下たちが絶望するまでも、あと数刻。



 ……勇者の最期の呪文が『若ハゲ促進』で、それによって魔王が結果的に命を落としたなどと気づかれるのに、あとどれだけの時間が必要だろうか。

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