麺、午前3時(2)
ラーメン屋の3人
「期待して損した~新谷が持ってたのか…」
山下は大げさに肩をすくめてみせた。
「…言えよ~」
堤は少し控えめにいった。さっきの浪人の話題が気がかりらしい。
「すいません」
笑顔で新谷が答える。
「しかし、どんな形であれ、ジローの奴の恋路が気になるなぁ。」
「そうだな~今回はどんな展開になるんだろう」
「えっ?今回も?ジローさん、そんなにモテるんですか?」
「いや全然」
堤が答える。
「毎回そうなんだけどさ、押しが弱いというか、ツイてないというか…」
堤はなぜか申し訳なさそうな顔をしながら話す。
「だいたいジローの恋の話は、大学内情報やサークル通して伝わってくるんだよな」
大学に入る前、とくに男女の恋とか交流に疎く、そこまで考えの及ばなかったジロー。
これからも、そしてこの先も、自分にはそういったことに縁がないだろうと大学に進んだ。
しかし、大学という場所は不思議なもので、様々な価値観や考え方、そして、どこか開放的で魅力的な光景が、ジローに多くの影響を与えた。 本人言うところの…「恋愛したい!下心も含む」俗にいう青春だ。
「大学デビューしたんだよ~ジローはさ~髪型変わったり、眉毛細くなったり、急に服装変わったり、それが顕著に出た……今まで押さえつけてたものが吹っ切れたような感じかな。大学に入学する8割以上の大学生がそうなるんだけどさ」
しみじみと山下が言う。
「何なんだろうな~変わらない奴と、変わる奴が極端だ。大学受験の反動かな?…俺もそうだった山下ぁ?」
堤が割り込む。
「アイツはそれでさ、いろいろ四苦八苦して、やっとこさ、
初めて女の子からアドレスを聞いたんだ」
堤の話を無視して山下は続けた。堤の動揺が顔に出る。
「はい」
新谷が頷く。
「…ふつうにすればいいのに。それができないだけで、これから人生において随分と弊害になると思わない?」
「確かにそうですね」
新谷は苦笑いだ。
「そんで…アイツ、初めてづくしでさ、あまりにもマジメで聞いてておもしろかったけどね」
「メ、メールの文面とか、添削させられたよ。質問は、少ない方がいいかな?とか、絵文字は多いとか少ないとかね」
会話に置いていかれないように堤は、話した。それにしても、ジローのことを思い出すと笑いがこみ上げてくる。
山下がそれをみたあと口を開く。
「そんでさ、とうとうデートに誘えたって言うんだよ。アイツ、すごい喜びよう。」
「へぇ~初めてですもんね、うまくいったんですか?」
堤の方を見ながら山下は言った。
「それがさ、初デートに、緊張するからついて来てくれって言うんだよ」
「一緒に行ったんですか?」
「俺はバイトで行けなかったんだけど堤がいったよ、なっ?」
「ああ、ついていったよ、遊園地…」
カウンターの正面の壁に張ってあるビールのポスターの水着の美女を見ながら堤が返答する。
「デートじゃなくて単純に3人で遊びにきてる感じだった」
「そうなんですか…」
「しかもジローの奴、テンパりすぎてとにかく話すんだ、一方的にさ…アトラクション待ってる時とか…見てて笑えたけど女の子の方は引き気味だった。 会話はさぁ~キャッチボールってさ、いうじゃない?」
ラーメン丼の底を見ながら堤が言う。
「誰かそんなこと言ってましたね、やっぱりその恋はご破算ですか?」
「それがね…」
ここぞと言わんばかりに、山下が会話に割り込んできた。
「…その恋、この堤くんが持っていったのさ」
「えっ?じゃあ堤さんの今の彼女の杏子さんって元々はジローさんが恋してた相手?」
「そうだよ」
さっきの水着の美女のポスターを凝視しながら堤は答える。彼女の手にもつジョッキのビールは美味しそうだ。
「どさくさに紛れて横取りしたんですね?よくあることですけど…堤さん!…クソ野郎ですね」
堤の顔が凍りついた。恐れていたことが起こった気がした。
「……お、おじさんラーメンもう一杯!」
気を取り直して堤はラーメンを注文する。
「へい」
威勢のよい返事のあと、ラーメン屋のおじさんが麺を茹で始める。
「でもその後、ジローさんとの仲はどうなんですか?」
カウンターの向こう側で上がる湯気の先を見つめるように新谷は言う。
「謝ったよ。でもジローは、俺に魅力が足らなかったからとか、 俺はまだ独り身がいいとか言ってたな~
申し訳ないけどさ、
気持ちが通じあったのは俺のほうだった?…みたいな?」
「やっぱりクソ野郎ですね」
新谷は冷たく言う。堤は首をうなだれた。
「このままだとジローはいつまでも童貞だな?」
山下がいった。
「そうだな。俺は杏子とうまくやったぞ」堤が言う。
「なんだよ!うまく言ったって…オマエはジローに便乗して、たまたま上手く言っただけだろ」
堤の下品な言い方に 山下はすぐに反応した。
「高校生からつき合ってる彼女のいる奴が何、言ってやがる」
堤が言い返す。
「…ジローがドーテイねぇ~」
山下が繰り返す。
「あの~いいですか?」
新谷が2人の会話に割り込む。
「うん?何?」
山下と堤が言う。
「さっきから話題に出てくるドウテイってなんなんですか?」
新谷の質問に、ラーメンの盛りつけをするおじさんの手が止まったのが、山下と堤にはハッキリとわかった。




