麺、午前3時(1)
ラーメン屋の三人
ズルズルズル~
「はぁ~やっぱり飲んだ後は、締めのラーメンに限るよな~」
鼻水を啜りながら、ラーメン店のカウンターに座るサークルの部長、山下は言う。
ズルズルズル~
「はぁ~メタボにまた一歩近ずいたな。わかってるんだけどな~美味しいからいいんだけどさ…1年生、今何時?」
山下の右隣に座るメガネの堤は、自分の肥えたお腹を摘みながら、言った。
ズルズルズル~
「…午前3時です。おいしいですね~ラーメン」
2人の後輩、1年生の新谷は携帯で時間を確認して答えた。額からは汗が出ている。
「だろ~飲み会で騒ぎまくって、最後はラーメン。飲み会終わって、そのままタクシーで帰宅した連中の気持ちがわからないな」
堤は、後輩以上の汗をTシャツに汗を滲ませて話す。背中にうっすらと汗が模様になっているのがわかる。
「そう!最後まで楽しんで、お酒に飲まれないでいた奴だけがこの締めのラーメンをすすることができる」
言葉を発する二人の先輩は誇らしげだ。
「そうですね」
汗だらけの堤が視界に入らないように、新谷はラーメン丼の底を見つめたながら適当な相づちを打った。
ズルズル~
「……そういえばジローさん大丈夫っすかね?」
「ああ、そういえば…誰がタクシーで送ったんだっけ?」
目の前のティシュ箱から何枚か紙を取り出し、堤は顔の汗を拭いた。
「たしか1年生の誰かがタクシーで送ってくれたと思う。ジローの奴、はじめの飲み屋で酔いつぶれてたからなぁ」
「なんでジロー、あんなに1人で酒、飲んでたんだ?あっ~水いる?」
山下はセルフの水を
くむ。容器の中で、氷が動く音がした。
「ありがとう。1年生に俺たちが飲ませようとしてたからじゃないの?…ホラ大学1年生っていってもさ、浪人とかしてると二十歳、超えてる1年生もいるしさ~
まあ~この1年生は悪い子だから、二十歳未満だけど飲んでたけどな」
堤の汗ばんだ手が新谷の肩にのる。
払いのけたい気持ちを抑えながら新谷は、応じた。
「僕、2回浪人してるんで先月で21歳ですよ。」
「そ、そうなの?俺、現役で今3年生だから、俺とタメ?!」
少しだけ堤は、背筋が寒くなった気がした。
「いえいえ!1年上の人なんで、先輩は先輩ですよ。大学は年は関係ないですよ~」
堤は、同い年の後輩の作り笑いにも似つかない笑顔が怖かった。
堤の動揺をしりながら山下は言った
「そっか。堤と新谷は同年代か。俺は2人の一個上になるのか~ちなみにジローは、俺と同い年……
確かにジロー、今日はやけに飲んでたな~よりによって今日は……うん?どした?堤?」
堤は難しい顔をして、何かを考えていた。その頭の中には泥酔し、タクシーで運ばれていく、ジローの姿が浮かんでいた。
「…………うん?
待てよ!タクシーで一緒にジローの事、連れて行ったの1年生の誰か、だよな?」
「ハイ」
「1年生って6人いだよな?」
「そうですよ」
「ついて行ったのは……女の子だ!え~とユウコちゃんだ!髪の毛長くて後ろに縛って、綺麗な部類に入る~ちょっと近寄り難い…」
「はい。確かに彼女です。率先していきましたね」
「タクシーで送っていった後、彼女、二次会に戻ってきたか?」
無関心を装っていた 山下も2人の会話が気になってきていた。
「まさかジローの奴、ユウコちゃんと2人っきりか?」
「送って疲れたから、帰ったんだと思いますよ。なに考えてるんすか?2人とも、なにもないと思いますよ」
「いや男と女だ!わからないぞ!そのまま2人でお休みしたのかも。とうとうアイツも…」
堤はニヤニヤしながら、額からこぼれる汗を拭いた。他人の色恋ほどおもしろいものはない。例えそれが、どんな結末であっても…
「なんか気にならないか?ちょっと携帯にかけて見ようぜ!」
「いや全然。…でも
サークルの代表としてそこは把握する義務がある。堤!…
で・ん・わ…しろ!」
山下の声が大きくなる。
「了解!部長!カマかけてみます」
堤はすぐさま自分の携帯からジローの携帯の番号を呼び出した。
「なんっすかぁ~やっぱり気になるんじゃないっすか~僕たち中学生ですか?」呆れ顔で新谷は言う。
堤の耳元で電話の呼び出し音が鳴る。
1回…2回…3回…
ブ~…ブ~…ブ~…
どこかで携帯のバイブが震えている。
4回…5回…6回…
「出ないなぁ~時すでに遅し、か?」
堤の耳には、呼び出し音とバイブレーションの音が同時に聞こえた。
ブ~…ブ~…ブ~…
「…あのコレ、ジローさんの携帯、僕が預かってました。飲み屋に忘れて行ったみたいで…」
新谷は得意の作り笑いを作った。新谷の容姿の良さが加わるので効果はばつぐんだ。
新谷は、震えるジローの携帯を、ジーパンのポケットから窮屈そうに取り出した。
「……そか…ありがと」
バイブレーションは鳴り続けた。