真夜中の男(1)
ジローの話
…寒い……寒い………寒い…寒い……寒い……寒い寒い寒い
……
ここは、どこだ?……高橋信二郎はドアの前に座り込んでいた。仲間からはジローと呼ばれている。
確か……
ズキズキ
思いを巡らせようとするとコメカミのあたりが痛む。ジローの背にあるドアに手をかけてみる。玄関はこのドアの向こう側だ。
ガチャガチャガチャ
ドアが開かない…
…どうなってる…?
ここは俺のアパートの部屋の前のはずだ。ズボンのポケットに手を入れてみるが部屋の鍵がない。携帯は……ないか。財布もない。どこかでなくしたか?わからない。これほど心細いことはないな、ジローは思った。
フ~…
ジローは、深いため息をつき、頭を抱えた。背にあるドアにもたれ掛かると、昨夜の出来事を思い出そうと試みた。
ズキン…ズキン…
とにかく頭がイタい…昨日は飲みすぎたな…何杯飲んだのか思い出せない。
昨晩、この男の所属するサークルの飲み会が行われた。ジローの通う大学のサークルでは珍しく、みんなで只お酒を飲むだけではなく、大会などに参加し、しっかり活動しているサークルだ。だか昨晩はジローは少しハメを外しすぎたようだ。
最初はビールで乾杯 、次はカクテル、間にサークルの仲間達との楽しい会話と、つまみを挟みつつ過ごした。ジローが正確に思い出せるのはここまでだ。そこから先を思い出そうとすると、飲み会の笑い声が、頭の中でリフレインする。うっとうしい
ズキズキズキ…
頭も痛む。しかし寒い。春とはいえ、真夜中に、タンクトップ一枚に短パン一枚 とはジローは厳しい 身なりだった。
なんでこの格好なんだ?
うん?俺を労る女の声、笑い声、アルコールのにおい、異臭、胸の谷間 、同学年の堤のタルんだお腹…
いろんなイメージが
ジローには浮かんでいた。落ち着いて記憶を整理しなくては…
ズキ…
はぁ~
…なにはともあれ、頭が痛む。目の前の空室の部屋のドアがある壁が、いつもより近くにあるような気がする。 ジローはもうしばらく酔いが冷めるのを待とうと思った。