麺、午前3時(5)
ラーメン屋からの2人
新谷がタクシーを降りた後、堤と山下は車の後部座席に腰を降ろし沈黙に浸っていた。それぞれ窓から、まだ暗い夜の景色を見ている。
「………」
「………」
「…なあ」
堤が口を開いた。
「なんだよ」
「この前、杏子がさデートの時にしゃべってる時にさ‥…」
「のろけ話?」
山下は茶化す素振りもなく言った。
「いやいや、最後まで聞いてよ」
「はい、聞きましょう」
「恋人同士とかでさ、話したりするだろ?まあ俺は杏子が恋人なわけだから、杏子と話すわけだよ。」
「へい」
山下の返事はやはり素っ気ない。
「……そうするとさ、どこかで会話が途切れる場合がどうしてもあるじゃんか?
さっきみたいに、『……』みたいな沈黙」
「あるな。確かに…
よくあることじゃないの」
「そうなんだよ。相槌だけは打ってくれたりはするんだけど…そういう時って、なんか不安にならない?大丈夫なのかな?相手は何を考えてるんだろって」
「そうかな……あまり考えたことないな。それって、つき合い始めたばかりとか、高校生とかの若いカップルのことなんじゃないか?」
「そうかな~そういうときにさ、杏子が急に『しりとり』しないかって言うんだよ」
「ははははっ、しりとり?受けるな?」
新谷は手を前で叩く。
「会話のキャッチボールはどんな形であれ、続いた方がいいって」
「誰かがそんなこといってたな~」
山下は遠くをみるような目をする。
「あまりさ会話のないカップルとかはさ、同棲とかして会話が続かなかったりすると、その沈黙を埋めるために、まあ新谷風に言えば「交尾」だな。交尾に最終的になっちゃうんじゃないかって。それってなんか危うくない?」
「…意表をつくね。けどその話も、しりとりの話も、アイツが昔、同じことを言って、持論を展開してたぞ」
「…まさか、…ジロー?」
探るように堤が言う。
「そう」
「今日はアイツの話がよく出るな?」
堤はあきれている。
「携帯持ってるからじゃないか?」
「確かに…」
あんまりうれしくないけどな、『…』堤は心の中で付け足した。
「ここでいいですか?」
タクシーを運転するおじさんが訪ねる。外はわずかだか、太陽がうっすらと見え始めている。
「はい、そこの公園の前でお願いします 」
山下が言った。
値段が読み上げられ、山下がお金を払う。
「あとで半分出すから」
「はいよ…」
あとで踏み倒すんだろうな、『…』に山下は心の声を付け足した。
山下はお釣りをおじさんから受け取る。
「沈黙って大事ですね」
今まで行き先の会話だけで、沈黙を守っていたタクシーのおじさんがその時、急に口を開いた。
「‥そうですね」
不意をつかれながらも山下は答える。
「僕は後部座席の会話には不干渉ですよ。沈黙を守ります」
「…はははっ、そうなんですか、それじゃあおじさん、お世話様でした…」
「はい、ありがとうございました」
聞いてたんかい!、山下は『…』に心の声を付け足した。