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01 聖女としての務め

私の頬を火の粉が掠めた。

日に日に強くなる戦火で、今となっては美しかった街並みも火の海と化していた。

あちらこちらから助けを求める声が聞こえてきた。

その中には聖女である私の名を呼ぶものもいた。

戦争が始まったのは二年前私が十六の頃だった。そんな忌々しい戦争は今も続き、人の命を奪っている。

愛すべき我が母国は隣国である帝国との戦争で敗戦し続け厳しい状況が続いた。



そのため、怪我人が多く国中から回復魔法が使える神官たちが集められた。聖女である私、アリスティア・ノーレンも例外なく前線へと送られた。



教会のみんなはその王家の判断に大反発して私を少しでも戦火から遠ざけようとしてくれたけれど、聖女である私にとって人々を導き救うのは私の仕事。

だから、運命を拒まず私は此処に立っている。

救えるものを救えずして何が聖女か。

私は怪我を負った人々を癒すためにここにいるのだ。


「皆さん!私が聖女として皆さんを責任を持ってここから逃がして見せます。だから、最後まで諦めないでください!」

そう言い放つと避難所へと集まった人々は「聖女様⋯」と感嘆の声を上げているが今となってはその立場など不要。悲しいことにもうこの国は滅亡の瀬戸際に立たされている。


(救える人を救うのが私の仕事。情けないことにもう亡命させることですか私には人を救う手段がありません⋯)


せめてもと思い、アリスティアは両手をバッと広げると己が最も得意とする回復魔法を唱えた。


「エリアハイヒール」


そう唱えるとアリスティアを中心に優しい光が人々を包み込み怪我を癒していった。

「聖女様!」「アリスティア様〜!」

喜びと希望の光が広がりかけたとき運命は無情にも再び私たちを絶望へと叩き落としました。


「今日も、うっとおしいほどの善人だ。そんなに偽善が楽しいか?オレリア王国の聖女アリスティア・ノーレン?」


この金髪の男こそ、バルガスタ帝国の第一王子カリス・ディア・バルガスタである。


「敵国の第一王子が私になんの用ですか」


「私だってお前などと会いたくはない吐き気がする。アリスティア・ノーレン、私はお前が嫌いだが父上の命令だ。こちら側に来るなら本来殺す予定だったがお前だけは助けてやる」

心底嫌そうな顔をしながらそう提案を突きつけてきた。


「なんて傲慢なことを。私が受け入れるとお思いで」


強気に発言しているが恐怖で手の震えが収まることを知らない。悟られぬようにアリスティアは手を後ろに回した。


ガイオスは無表情で血も涙もないことを兵士に命じた。


「そうか。雑兵どもやれ」


ガイオスがそう言うと魔法兵は詠唱を始め、数秒後には魔法が宙を舞った。

私を殺す気かと思い思わず目を閉じたが、あの男はそんなに甘い男ではないはず。

ハッと狙いに気づいた私は咄嗟に後ろにいる人々に目を向けた。

(狙いは私じゃなくてこの人たちッ)

気がついた頃には大量の魔法が雨となってこちらに向かってきている。

アリスティアは後先考えず残った魔力をすべて絞り出した。


「セイントシールドッ!」


光の障壁は守るべき人たちを魔法の雨から守りきり、役目を終え、激しい爆砕音と共に砕け散った。


「ゴホッ⋯」


アリスティアは限界を超え魔力を使った影響で地面に膝を尽き、喉から液体がこみ上げてくるのを感じ、口に手を当てると吐血した血で手が深紅色に染まっていた。きれいだった麻色の髪も気がつけば灰や血で汚れきっている。


「聖女様!」


「来ないでください!早く遠くに!」


「しかし、聖女様を置いていくわけには⋯」


私がここで倒れたら人々は再び絶望に打ちひしがれるでしょう。ならば、私が生きているうちに逃がすほかありませんでした⋯


「置いていきなさい!人々を導く聖女として言います!私を置いて逃げなさいッ!」


国境を越えれば教会のものが場所とともに待っている。言葉にすることはできないが、ただ意思を込めて指を指すことしかできないことがもどかしい。


最後の力でそう言い切ると皆私を信じ、指の指す方法へと逃げ去っていった。


「流石は聖女の魔法。あれだけの魔法を防ぎ切るとは。まったく面倒なことをしてくれたな。おい、おまえら早く殺してこい。俺の機嫌が悪くなる前にな」


物凄い殺気だ。敵兵たちもその殺気に怖気づいていたが命令通り、逃げたものを追っていった。


「忌々しいアリスティア。最後に言いたいことはあるか?」


死ぬぐらいなら最後にい依頼放題言っても神も赦してくれるでしょう⋯


「くたばりくださいましクソ王子」


最後に空色の瞳から全力で睨みつけておいた。


「最後までも目から光は失わないか。やっぱりお前は気に食わない野郎だ」


その瞬間私の首は王子の剣によって斬り落とされました。



アリスティアは走馬灯を見た。

それなりに充実した人生でした。私には救えなかったけれど心から信じ合える友人と出会い、聖女として人々から好かれ、毎日忙しかったですが、そんな人生も悪くはありませんでした。

ただ後悔があるとすれば、少し他人を優先しすぎて自分の大切なものを失い続けたことですね⋯


この国の最後の聖女は後悔を思い浮かべながらもお人好しで無駄かもしれないが、最後の意識が切れる瞬間までアリスティアは愛した人々、愛したこの国に最後の祈りを捧げた。


(この国とこの国の人々に神の加護があらんことを⋯)


そこでアリスティア・ノーレンの人生は終わりを迎えた。いや、迎えるはずだった。




「ハッ」


アリスティアは何故か見覚えがあるベットから飛び起きていた。


(あれ、何で私生きて⋯)


確かに私はあのクソ王子に首をはねられたはず⋯

首に手を回すが、首はちゃんとつながっている。

しかし、アリスティアは異変を感じた。

首に触れた手の感覚がおかしいのである。まるで子どもの手のように小さい手で触っているような⋯


「まさか⋯」


これが()()()()()()ならここに手鏡があるはず⋯

その予想というか記憶通り、棚を開けるとそこには手鏡が入っていた。


その鏡に反射して写る私は、まだ幼い頃の姿をしていた。


「わ、私⋯若返ってる〜〜!?!?」


こうして聖女ではなく、ただの公爵令嬢へと戻ったアリスティア・ノーレンの声が屋敷中に響き渡ったのだった。










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