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黒猫と雨宿り

作者: 中村くらら

第7回小説家になろうラジオ大賞に応募するため、1000文字以下で書いた掌編です。

 王宮の夜会にて、公爵令嬢ヴィオレッタが王太子から婚約を破棄された。

 王太子は真実の愛がどうのと御託を並べていたが、勉学にも魔術にも優れたヴィオレッタを煙たがっていたことは周知の事実。

 すかさず第二王子が進み出てずっと貴女を想っていましたと求婚する……などという物語のようなことは起きなかった。当然だ。第二王子は、過ぎた魔術の才を兄に疎まれ、もう何年も軟禁生活を送っているのだから。


 ヴィオレッタが逃げるようにホールを出て庭園に向かったと知った黒猫は、するりと住処を抜け出し、雨の降る中、庭園のガゼボへ走った。

 息を切らせてガゼボに飛び込むと、ヴィオレッタはベンチで俯き肩を震わせていた。

 綺麗に巻かれた髪からポタリと水滴が落ちる。まるで涙のように。


「にゃーん……」


 言葉を持たない黒猫は、ただ寄り添うことしかできない。


「うぅ……」


 両手で顔を覆うヴィオレッタから、呻くような声が漏れる。


「うっ……くっ……くふっ……ふふふ、あはははは!!」


 次第に大きくなる声はやがて高らかな笑い声に変わった。

 目を丸くする黒猫の前で、ヴィオレッタはバンザーイ!と勢いよく両手を突き上げた。


「ついにやったわ! 婚約破棄よ! あんのクソ王太子、気に入らないならさっさと婚約破棄してくれりゃいいものを五年も引っ張りやがって」


 チッと舌打ちしたヴィオレッタは、黒猫がずぶ濡れなのを見て慌ててハンカチを取り出した。


「大変、風邪をひいてしまうわ」


 優しい手付きで黒猫を拭きながら、ヴィオレッタが語りかける。


「ねぇ黒猫さん。この五年、私がここで泣いているといつも、どこからともなくやって来て慰めてくれたわね。あなたのおかげで私、折れずにいられたの」


 美しく微笑む彼女を、黒猫は黙って見上げる。


「これまで雨宿りさせてくれてありがとう。だけどそれも今日で最後。私はもう泣かないと決めたの。雨がやんだら、雨宿りはおしまい」


 晴れ晴れと笑う彼女に、黒猫は別れの時が来たことを悟る。

 彼女はもう前を向いているのだ。二度とここへ来ることはないのだろう。


「これからは自由にさせてもらうわ。まずはクソ王太子に特大のざまぁをお見舞いして……それから、私の大切な人を助けに行く」


 輝く瞳がまっすぐに黒猫を捉える。


「だから待っていてね。顔も知らない、私の王子様」


 ピャッと黒猫は、飛び上がってしゃっくりをした。

 魅惑的なウィンクを残し、ヴィオレッタが踵を返す。

 いつの間にか雨は上がっていた。



 

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