第7話 マッチョ令嬢、ゲームの知識で首謀者に目星をつける
「コマンゾネス……本当に申しわけない。きみには、なんとお詫びしてよいか……」
先ほどの騒ぎのあと、もう夜8時(ゲームの世界は前世と同じく1日24時間であった)になっていたものの、急遽制服へと着替え王立魔法学園の応接室に一同は集まっていた。
そうして、コマンゾネスの対面に座った第一王子アレクシスが深々と頭をさげる。
「アレクシスさま。頭をおあげください。あれは卑劣なる悪魔に操られてのこと。わたくしは、気にしておりませんわ」
そうたおやかに笑うコマンゾネスであったが、彼のすぐとなりには寄り添うように聖女ベネクトリックスが座っている。
コマンゾネスの胸には、ひそやかに、トゲが刺さって少し痛む。
しかしそれをおもてには出さず、今度はコマンゾネスがベネクトリックスに頭をさげる。
「ベネクトリックスさま、申しわけございません。悪魔をはらうためだったとはいえ、あなたのかれんなほっぺを腫らしてしまい……」
「いえいえコマンゾネスさま。これは聖女でありながら、悪魔に憑依をゆるしてしまった弱い私への罰ですわ。それにこれぐらいの傷でしたら、ほら」
そう言って、ベネクトリックスが自身のほおに手をあて、魔力をそそぎこむと手の周辺にふしぎな白い輝きが満ちる。
みるみるうちに彼女の傷が癒えていき、ベネクトリックスはにっこりと笑った。
「これが聖女の魔力……いつ見てもふしぎですわね。ね、マクシミリアンさま」
コマンゾネスがそう第五王子であるマクシミリアンに振ると、筋肉に関する部分以外はひっこみ思案である彼は「ソ、ソウデスネ」とコマンゾネスの肉体に隠れつつひっそりのぞきこんでいる。
彼女の服をぎゅっとつかんでおり、痛いほどである。
「マクシミリアンさま。あなたも王族のおひとりなのですから、どんなときも毅然としていなければなりませんよ」
「コマンゾネスさまはそういう人のほうがお好きですか?」
「好きというか、そうですね、頼りがいがあるなぁとは感じるでしょうね」
「なるほど(夫として)頼りがいがあると……。わ、わかりました!」
コマンゾネスの苦言もすなおに受けいれ、マクシミリアンはせめてとピンと背すじをのばした。
コマンゾネスはくすりと笑う。
「しかし、操られていたときのことなんだが」
アレクシスが話をもどし、説明をつづけた。
「役に立てなくてすまないが、どうも、肝心の部分の記憶が、欠けているんだ。その、きみに暴言を吐いてしまったことは、おぼえているんだが……」
そのつまった言葉で、コマンゾネスのトゲがふたたびうずく。
「……では、操られる前のことで、なにかおぼえていることはございませんか? あやしい人物に接触したとか、魔法をかけられる感覚があったとか……」
「前、前……」
そうくり返し、はっと気づいたようにアレクシスが目を見ひらく。
「そうだ、たしかに怪しい人物に話しかけられた! なぜぼくは忘れていたんだ……。パーティーにむかう前、廊下でフードをかぶった男から声をかけられた。そこからふっと意識を失って……。くそ、どんな男だったか思い出せない!」
「おそらく、認識阻害、記憶阻害の魔法をかけていたのではないでしょうか」
そう口をはさんだのは、聖女ベネクトリックスである。
「私も、フードをかぶった男性──といって、顔の印象がぼやけているため『低い男性らしき声だった』というにすぎませんが──にうしろから声をかけられ、ふりかえると、ひたいに指をあてられ〈スリープ〉の魔法をかけられました。それ以後のことは私も断片的にしか思い出すことができません。しかし、そのとき私と私兵隊の方々がアレクシスさまにつきしたがって行動していたという情報を踏まえると、一種の催眠状態であったと考えられます。パーティーの前で気を抜いていたとはいえ、これらはよほど高い魔力がなければできないはず。私とアレクシスさまは学園でも指折りの魔力を有しておりますし──」
「学園にはそうそう部外者が入れないようになっている──つまり、『学園内の魔力の高い人物』がまずは疑われる、ということですわね」
理路整然としたベネクトリックスの推論に、ちから強くうなずきつつ、コマンゾネスがあとを引き取ってつづけた。
「あの悪魔は『召喚した者の野望がついえぬかぎり、何度でも召喚され、よみがえる』と言い捨てていきました。悪魔を召喚し、王国の滅亡をのぞむ何者か──悪しき首謀者がこの学園のなかにいるとすれば、わたくしは、絶対にゆるしはしません。悪魔が予言した『悲惨な戦禍と滅亡』……。これが現実となるのであれば、大きな争いに巻きこまれ、苦しむことになるのはまずなによりも民のみなさまです。この国を、人を、わたくしたちの手でかならず守りましょう」
そう宣言しながら、ベネクトリックスの発言で「学園内の人物」にまで話をもっていけたことに、コマンゾネスは内心ほっとしてもいた。
じつは、彼女はゲームの知識によって首謀者の候補を3人まで絞りこめていたのである──




