第61話 マッチョ令嬢 vs 星の災い6
「ベネクトリックスさま」
マクシミリアンの呼びかけに、ベネクトリックスは反応を示さなかったが、かまわず話しつづける。
「聖女の魔法に、魔力の橋渡しができるようなものがありませんでしたか? 以前、たしか、古文書で見かけたことがあったはず……」
「魔力の橋渡し?」
「つまり、ほかの人から魔力を吸収して、さらに別の人にその魔力を与えるような魔法です。他人に体力を渡すようなものなので通常はそんなことできっこないのですが、聖女の特殊な魔法によって実現できた、みたいな文章を見た気が……」
「…………あるわよ」
横たわり、茫洋と天に視線をむけながら、力なくベネクトリックスが答える。
「でも、なんで私がそんなことをしなくちゃいけないの……。あの隕石の魔法をとなえたのは、私よ。その私が、なんで隕石をこわすために……」
「たしかに、そのとおりです。でもですね、こんなことありませんか?」
マクシミリアンは、こんな場合にまるでそぐわぬ、悠揚せまらぬ調子でのんびりとしゃべる。
「やってみたはいいものの、あとでやったことの重大さに気づいて、後悔するようなこと……。先日、あとでもどせば大丈夫と思って、お兄さまの魔道具を勝手に拝借して分解していたらですね、もどせなくなっちゃって、真っ青になったことがあったんです。人間っておろかなもので、やるまえは『この仕組みってどうなってるんだろう!』って興奮してまわりが見えなくなってるんですが、ふとわれに返ってどうにもならないことに気がつくとすごくあせるんですよね……。それこそ、この世の終わりみたいに。まあその魔道具はいまだにもどせてないしお兄さまにも秘密にしてるんですが……」
「……マクシミリアン、その件はあとでじっくり聞かせてくれ」
「ふふ、あとで怒られることが確定しちゃいました。……ねぇベネクトリックスさま。死ぬのって、こわくありませんか? ぼく、いままで『いざとなればコマンゾネスさまのためなら死ねる』って思ってたつもりなんですけど、それってただ死ぬことを軽く考えていただけ、具体的な想像ができていなかっただけで、あんな巨大な隕石がもう、ほんとに、自分の頭のうえに落ちてくるんだなって目に見えちゃったら、いま漏らしちゃいそうなぐらいこわいんです。あなたも、もしかしたら……本当に死ぬんだってわかったらすごくこわいんじゃないですか?」
「…………」
「ぼくは、まだやりたいことあったのにな、魔法のことももっと知りたかったし、自分でいろんな魔法をつかってみたかったし、一度は筋肉モリモリになってみたかったし、ちゃんと、真剣に、一度はコマンゾネスさまに気もちを伝えておけばよかったなって、そういうことばかり考えます。……あなたは、そういうの、ありませんか?」
「…………こわい」
ベネクトリックスは、ボロボロと流れる涙を手でかくし、言葉をこぼす。
「そりゃ私だってこわいわよ!! さっきはいますぐ死にたくてしかたなかったのに、すこし時間が経っただけで、『ほんとに、ほんとに死ぬの?』って、そればっかり考えてる。いつも頭に血がのぼって、選択をまちがえて、まちがえつづけて、『なんてバカなことをしちゃったんだろう』『どうしてあのとき悪魔の誘いを拒否しなかったんだろう』って、そういう後悔ばかりずっとしてる! でも、なにもかもわるい私が、バカな私が、いまさら……」
「『生きてさえいれば、おそいなんてことはない』って、さっきコマンゾネスさまが言ってました。いまさらなんてないんです。ぼくたち、みんな隕石につぶされて死ぬかもしれませんけど、最後の最後まで、やれること、やってみましょうよ。みんなで、明日を、むかえるために……」
「……私にも……。こんな、私にも……ちゃんとやり直せる明日が、くると、思う……?」
「わかりません」
切って捨てるようにキッパリと答えたあと、マクシミリアンがふっと笑う。
「たぶん、ぜんぶ、あなた次第です」
ベネクトリックスはぐっと息をつめた。
アレクシスが、迷いながら、言葉を添える。
「……少なくとも、きみは、ひとりじゃない。ほかにはだれもいないかもしれないが、せめて、ぼくだけは……」
「アレクシスさま……」
ベネクトリックスがアレクシスを見やると、アンヌが驚きで目を見張り、夜空に吠えた。
「お嬢さまァ!!」




