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その悪役令嬢はあまりにもマッチョすぎた  作者: 七谷ぐちた
最終章 マッチョ令嬢、星の災いに見舞われるもすべてのバッドエンドを筋肉でねじ伏せる
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第60話 マッチョ令嬢 vs 星の災い5


「筋肉を──解放する」


 コマンゾネスのそのささやきは、むろん、地上にいる一同にはまるでとどかなかった。


 しかし、同時に極大の花火がうちあがったがごとく、信じがたいほどにふくらんだひとりの人間の筋肉を一同は目撃することとなった。


 それは、あの卒業パーティーの日の筋肉大山脈(マッスル・アルプス)──

 いや、もはや「山脈」などという比喩(ひゆ)ではおさまらぬほど、そう、まるで、母なる宇宙が生まれいずるときの超自然現象──いわば筋肉宇宙誕生(マッスル・ビッグバン)が夜空に燦然(さんぜん)とまたたく光景を、一同はそれぞれが幻視(げんし)したのである。


「お嬢さまァ!!」


 はじめて望遠鏡にて月のクレーターを観測した人は、その武骨(ぶこつ)なまでの自然の造型美に対し、おそらく畏敬(いけい)と感嘆とで涙したことであろう。

 アンヌもまた、それと類するえも言われぬほどの広大無辺(こうだいむへん)感激(ヽヽ)が胸に満ちていき、思わず空に向かってそう絶叫したのであった。


 その声援にあと押しされるように、コマンゾネスは、隕石の中心へと吸い寄せられていく──


 コマンゾネスは、あとさきの考えを捨て、ただ筋肉を躍動(やくどう)させることだけに心をそそぎ、右腕を振りかぶった。


 アレクシスとマクシミリアンの風の魔法。

 ルミエールの氷の魔法。

 そしてヴィクトアとオーランドの全霊(ぜんれい)をこめた魔法により、破裂寸前にまで盛りあがった土の拳が、熱く、熱く烈火(れっか)のごとくに炎を()きあげて舞う。


「むぅん!!」


 コマンゾネスの拳が、隕石へと、到達した──


 瞬間、すさまじい爆発が生じた。


 王都にて安寧(あんねい)に暮らし、はやばやと布団にくるまれウトウトとしていたある老爺(ろうや)は、窓のむこうに見えたまばゆい星の爆発のごとき閃光(せんこう)に、「ワシ死んだ!?」と天国と現実とを混同して布団をはねのけるほどであったという。


 隕石には、全体に地割れのごとき太いヒビが走っていく──

 360度、あらゆる方角にのびたヒビは、隕石の前進を押しとどめつつ真裏にまで達する。

 同時に、その全体をおおう灼熱(しゃくねつ)をも貪欲(どんよく)にとりこんで、炎の魔法がたけだけしく隕石の組織を破壊してゆく。


 しかし──


「ぬぅぅん!?」


 そこまでであった(ヽヽヽヽヽヽヽヽ)


 たしかに、その拳は隕石にとどいた。

 たしかに、その拳は隕石に損傷を与えた。

 たしかに、その拳は隕石を減速せしめた。


 しかし──


「隕石が、とまらない!?」


 地上でロマンジーナがそうさけんだ。

 ヒビの入った隕石は、多少の抵抗を受けようが、かまわずにすべてを()しつぶそうと落下をつづける。


「アレクシス、もっと風の出力をあげられないのか!?」


 もはや自分たちにもはっきりと見える隕石に、ヴィクトアがあせったように詰問(きつもん)する。


「やってるッ! だが、くそ、魔力が足りない……」


 渾身(こんしん)の力をこめて風の魔法を放っていたアレクシスは、コマンゾネスという媒介(ばいかい)を通して、まるで断崖絶壁が自身に倒れかかってくるような隕石の絶対的な圧力を直接感じていた。


 だからこそ、理解ができた。

 魔力が足りない(ヽヽヽヽヽヽヽ)と。

 自分の魔力だけでは、隕石を押しかえすだけの力は得られないと。


「くそ、おれたちのあまった魔力を与えられれば……」


 オーランドが、くやしそうに歯噛みをする。

 尋常(じんじょう)ならざる距離の氷をつくり、魔力を出しつくしてよだれをたらしながら地面に()せっていたルミエールだけは「あまってませんけど!?」とひとりびっくりしていた。


「……聖女さま」


 やりとりを聞いていたマクシミリアンが、じっとコマンゾネスのほうを見て竜巻がぶれないようコントロールしつつ、ぼそりと語りかけた。


「いえ、ベネクトリックスさま」


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