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その悪役令嬢はあまりにもマッチョすぎた  作者: 七谷ぐちた
最終章 マッチョ令嬢、星の災いに見舞われるもすべてのバッドエンドを筋肉でねじ伏せる
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第59話 マッチョ令嬢 vs 星の災い4


 俯瞰(ふかん)してみれば、まさしく台風の目のように、アレクシスのまわりに不穏(ふおん)な風が渦を巻いていく。

 髪や服が、嵐のなかにたたずんだときのようにバタバタとたなびくなか、アレクシスは両腕をあげ、極限まで魔力を練りあげて、


「〈龍の狂憤(トルネード)〉」


 と森厳(しんげん)に魔法をとなえた。

 すると、風は腕のまわりに螺旋(らせん)をえがくように収束していき、名のとおりの龍となって射出(しゃしゅつ)される!


 細く長く()(ごえ)さえあげる魔法の竜巻は、氷の坂を飛ぶように()けのぼっていくコマンゾネスのほうへと見る見るうちにその距離をつめていった。

 しかし、細密(さいみつ)な操作はむずかしいものらしく、ぶれてコマンゾネスの上空へと少しずつそれていく。


「マクシミリアン!」

「はい、お兄さまッ!」


 マクシミリアンが応じ、兄の腕のなかで手の甲とてのひらとをあわせると、淡い若草色の光が膜のようにふたりをつなぐ。

 すると竜巻が急激に下にぶれ、氷の坂を破壊しようと落ちていく──


「力を抜いて、右だッ! 右手の小指に意識を集中させてみろッ!」

「はいッ!」


 氷の坂にふれようとしたその瞬間、マクシミリアンが指をうごめかせ、竜巻はぐるりと右まわりに坂を巻いていく。

 そして、ヘビのごとく坂に巻きつきながら、そのカラダのとおりの突風の速度でコマンゾネスへと迫る──


 その背なかに、竜巻が衝突した。


 先ほどの打ち合わせで、土の鎧は前面を厚く、後面を薄くしたものの、背なかにだけは厚みを集中させていた。

 土の鎧はみごとに竜巻を受けとめ、コマンゾネスの一歩はさらに(はや)く、遠く、空を()けるがごとく隕石へと突き進んでいく。


「おおおッ!」


 アレクシスが、自身の力をすべて絞り出そうとするように、さらに風の出力をあげていく。

 コマンゾネスから見る景色はもはやものの輪郭(りんかく)を視認できないほどに高速で流れていった。


 コマンゾネスの視界に、隕石が近づいていく──


 しかし、近づくほどに、その大きさの差は歴然であった。

 たとえるなら、アリとゾウほどの違いである。


 もし、村一番の力じまんのアリが得意げに(ちから)コブをつくっていたとして、そのままゾウを一撃で昏倒(こんとう)させるなどということが、現実としてありえるだろうか?


(そんなわけないことは、だれよりもわたくしがわかっている……)


 コマンゾネスは、望遠鏡で月を見るがごとくに大きく、近くにまで迫った隕石を見ると、ブルルとふるえた。

 自分は、みんながいっとき死の恐怖から目をそらすことができるよう不可能なことに挑もうとしているにすぎない、と諦観(ていかん)する気もちがわくと同時に、自分の筋肉の限界をこれ以上ないほどの難度(なんど)でためせる思わぬ機会に、知らず、コマンゾネスは笑っていた──


 とうとう氷の坂の生成に追いつき、坂が途切れた。

 隕石はもう、コマンゾネスの視界をひとり占めし、その絶望的な圧力を身をもって顕示(けんじ)している。


「ぬぅん!!」


 坂の先端で、コマンゾネスは、力強く跳躍(ちょうやく)した。

 踏み抜かれる衝撃に、キラキラと、月明かりにきらめいて長大な氷の坂は砕け落ちていく。

 背なかの竜巻が、強く、強く自分を隕石のほうへと推し運んでくれる。


 そんなさなかにあって、あろうことか、コマンゾネスは深く脱力した──

 まるで海を、そのただならぬ広遠(こうえん)水面(みなも)をただようように、全身の力を抜き、風に身をまかせたのである。


 黙想(もくそう)するがごとくに瞑目(めいもく)し、深くひと呼吸をしたのち、コマンゾネスはカッと開眼(かいがん)してひとりこうささやいた。


「筋肉を──解放する」


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