第57話 マッチョ令嬢 vs 星の災い2
「いちかばちか……みなさんの魔法を結集しましょう」
マクシミリアンの提案に、反応できたものはいなかった。
具体的になにをどうするのか、まるでイメージすることができなかったためである。
マクシミリアンは少し場所をずらし、まっさらな土のまえへ膝をつくとあらためて木の枝で図を書きはじめた。
ぞろぞろと一同が顔をそろえる。
「あの隕石は、まっすぐこちらへ向かって落下しているようです。なので、まず……ルミエールさま」
ルミエールは「私?」と自分を指さして首をかしげる。
「戦ったとき、氷の坂を生成されていましたよね。あの坂を隕石に向かってのばしつづけてください。長さの目安はあそこの一本杉の延長線上ぐらいのところですが、まあできるかぎりのばしつづけると思っておくぐらいでちょうどいいと思います。太さって調整できますか? それならコマンゾネスさまの腕ぐらいの厚みにして、角度はこんな感じです」
実際に自分の腕を空へ向け、実演しながら説明する。
「つぎにヴィクトアさま。おそらく隕石をくだいたとしても、すさまじい衝撃波が発生するでしょう。土の鎧でコマンゾネスさまの全身をおおって、まもってください。ちょっとぼくの腕にまとわせてもらえますか? そうです、これってもうちょっと厚くすることできますか。できるけどすばやさが落ちる? きっとコマンゾネスさまの筋力なら大丈夫でしょう、ではあともうちょっと厚くして、そうですこの硬度なら耐えられるはず……」
ヴィクトアとやりとりしながら、微調整していく。
「さらにオーランドさま。使われてた炎の魔法って、たしか剣にかぎらず『まとわせた武器の攻撃力をあげる』って解釈でいいんですよね。腕にまとわせることはできますか? 土の鎧の上からなら行ける? では可能なかぎり出力をあげてコマンゾネスさまの攻撃をサポートしてください。さすがのコマンゾネスさまも拳だけで隕石が破壊できるとは思えませんが、それなら万にひとつぐらいは……」
オーランドにも同様に伝えたあと、気負いもなく、信頼をこめたまなざしで兄を見つめる。
「そしてぼくと……お兄さま。風の魔法で、コマンゾネスさまをあと押しするんです。そうして大砲のようにコマンゾネスさまを隕石へと射出することができれば……」
言葉を切って、まっすぐコマンゾネスへと目を転じる。
コマンゾネスはうなずき、引きとってこう応じた。
「あとは、わたくしが隕石を破壊するだけというわけですわね」
一瞬、場がシンとしずまった。
一見もっともらしく聞こえるが、しょせん机上の空論にすぎないのではないか、という疑念の雲がそれぞれの胸中をくもらしたためかもしれない。
「そ、そんなの」
最初に口をひらいたのはロマンジーナであった。
「お姉さまだけが圧倒的にあぶないじゃないッ! なんで、なんでお姉さまだけがそんな危険な役割を負わなければならないの。アンタお姉さまのことが大事じゃないのッ!?」
マクシミリアンは臆せずにその指弾を受けとめ、答えた。
「もちろん、ぼくはこの世界のだれよりもコマンゾネスさまが大事ですが……それ以上に、コマンゾネスさまのことを、世界のだれよりも信頼しています」
かたわらのコマンゾネスを見あげて、ニカッと笑った。
「ぼくがコマンゾネスさまにこの荒唐無稽な作戦をお願いするのは、こんなことコマンゾネスさまにしか、コマンゾネスさまの筋肉にしか、なしえないからです。ほかのだれでも失敗するどころか、おそらく隕石のもとにたどりつくことさえできないでしょう」
「そんな、そんなのって……」
落ちこむロマンジーナを、アンヌが抱擁する。
「ロマンジーナお嬢さま、本当は、わかっていらっしゃるでしょう。だれがその役割を負おうと、負うまいと、あんなものが落ちてくる以上全員死ぬほかにはないのです。われわれにはもう時間も、選択肢も、ないのです……お嬢さまァに、託すこと以外には、なにも……」
「わかる、わかるわよッ! でも、お姉さまにだけ負わせるなんてことしたくないじゃない……。クソッ、クソわよォッ! 私が、私がこんな弱いからだでさえなければ、あんなお排泄物のごとき隕石なんてぶちころがしてやるのに……」
ロマンジーナが大粒の涙をポロポロとこぼしてくやしがるのを、コマンゾネスがその大空のようにでかいてのひらで、ほおごとつつみこむ。
「ロマンジーナ、わたくしはあなたのその気もちだけでじゅうぶんです。そして、あなたのからだもまた、お父さまお母さまからさずかった大切なからだ……そんなふうに言ってはいけません。人には、ひとりひとり役割があるのです。いまできることはなくても、明日が来るのであれば、明日できることが生まれるかもしれない……」
コマンゾネスのまぶたの裏に、白くて清潔な病室の天井と、やせおとろえて骨と皮ばかりになった自分の細腕が、情景として浮かぶ。
「わたくしは、この世界に明日をむかえるため、多くの死を追いはらうため……飛びます」
その情景を掌中におさめるように、力強く、拳を握ってみせた。




