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その悪役令嬢はあまりにもマッチョすぎた  作者: 七谷ぐちた
最終章 マッチョ令嬢、星の災いに見舞われるもすべてのバッドエンドを筋肉でねじ伏せる
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第55話 たったひとつの選択肢


「〈星の邂逅(コメット)〉」


 聖女によってその大魔法が放たれたとき、なにが起きたのか、理解できたものはいなかった。


 なにも──起きなかったためである。


 炎の壁が立ちはだかることも、巨大なスライムが湧きいでることも、大地が割れることもなく、風がそよぐ程度の現象しか、観測できなかった。


 魔法に関して随一(ずいいち)の知識をもつマクシミリアンでさえ、状況が把握できず、周囲の異変を探そうとキョロキョロする以外にはできないでいる。

 あえて言うならば──


「聖女さまのからだが、ちぢんでいる……!?」


 正確にいえば、ちぢんでいるのではなく元の体型にもどっているにすぎないのだが、先ほどがあまりにも筋骨(きんこつ)たくましい体型であったために、みるみるうちにしぼんでいくように見えたのだった。


「殺してくれないなら……みんないっしょに……」


 しぼみながらも呪うようにすすり泣く聖女を、コマンゾネスが(ただ)そうとしたそのとき、妹のロマンジーナが唐突(とうとつ)にうめいた。


「あ、あ……」


 天を指さしながら、驚懼(きょうく)に身をふるわせている。

 みな、その指に沿うように視線を向けるが──


「なんだ?」

「何かある?」


 と、豆粒ほどもないような点しか見えず、困惑する。


「あれは……!」


 コマンゾネスがただひとり、その驚懼(きょうく)に理解を示し、ゴクリとのどを鳴らした。

 じつはロマンジーナは、肉体にこそめぐまれなかったものの、コマンゾネスをもしのぐほどの視力を有している。

 そう、あれは──


「い、い、隕石、が……」


 ふたりの瞳孔には、天から降りそそぐ巨大なひとつの隕石が、うつっていた。


「隕石ィ!?」

「バカなッッ! そんな魔法があるわけない、あまりにも人智(じんち)を超越しすぎているッ!」


 うろたえて認めまいとするマクシミリアンに、ひっ、ひっと聖女がうつろに笑った。


「悪魔とっておきの魔法ですって……。聖剣を回収して変換した私の全魔力と、悪魔の魔力と生命を絞りつくして出した、とっておき……。王都ぐらいなら軽く消滅させられるって、言ってた。落下まであと数分。一度発動したら、もうとめることはできない……」


 現実を見まいとするように、手で目をおおいながら、つづける。


「もう、生きていたく、ない……。私の恥ごと、ぜんぶ、すりつぶして……」


 しばらく、だれも、なにも言えなかった。


 幾千度(いくせんど)の熱とともに明々(あかあか)と発光する隕石が、王都の民を、文化を、大地を、みごと死滅(しめつ)させてみせようと得意げに()むがごとく空にまたたく。


 王都へ避難命令を出すべきだろうか。

 いまそんなものを出したところで、間に合う人間がいるだろうか。

 そもそも、命令を発出(はっしゅつ)するまえに王都は消滅してしまうのではないだろうか。


 王城に、兵器が置いてあるのではなかったか。

 しかし、なんの用意も許可もなく数分で兵器がつかえるわけがない。

 またつかえたとしても、城壁を破壊するのがせいぜいの兵器に、天上の隕石を破壊できるとも思えない。


 避難シェルターのようなものは、あっただろうか。

 しかし、いまから到達できるかわからないし、そもそも王都の人民が滅亡するなか自分たちだけ助かろうなど、コマンゾネスの理性がゆるさなかった。


 すると──


「ひとつしか、ない、か」


 コマンゾネスは、われ知らずぼそりとつぶやいた。


「ひとつしか!? なにがあるっていうんだ、あんな、ありえないだろ、あんな……」


 火のハンサムオーランドが、錯乱(さくらん)しつつも途中で無力感にうちのめされたようにうなだれる。


「もう、人間の力でどうにかなるレベルではありません。山よりも大きい大怪獣でも召喚できれば別かもしれませんが、そんな魔法は、少なくとも人間レベルでは存在しません……」


 水のハンサムルミエールが、指でいじいじと土に遺書をしたためながらつぶやく。


「……考えがあるんだろう、言ってみろ」


 青ざめつつも腕組みをした土のハンサムヴィクトアが、コマンゾネスをうながす。

 コマンゾネスは「考えというか……」とにごしながら答えた。


「わたくしが、隕石をぶち破ります」


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