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その悪役令嬢はあまりにもマッチョすぎた  作者: 七谷こへ
第一章 マッチョ令嬢、婚約を破棄され断罪イベントが発生するも筋肉でねじ伏せる
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第5話 マッチョ令嬢、銃弾を筋肉でねじ伏せる


 魔法銃とは、簡潔にいえば、使用者の魔力を増幅して押し出す鉄の(つつ)である。

 日常生活でも利用される穏和(おんわ)な性質の多い水の魔法でさえも、魔法銃を使えば重ねた鉄板をも突き破る威力をもつ。

 それが、火、水、土、風の4つの属性それぞれをもった()りすぐりの私兵隊から同時に射出(しゃしゅつ)されたのだから、たとえモンスター随一(ずいいち)の頑丈さを誇るガチムチゴーレムであったとしても穴あきチーズのごとくに討滅(とうめつ)されるのは自明であった。


 しかし──


「筋肉を──解放する」


 そのコマンゾネスのつぶやきは、群衆の悲鳴をふくめた騒音にとりまぎれて、だれにもとどかなかった。

 しかし、同時に信じがたいほどにふくらんだコマンゾネスの筋肉を、いや、一個人ではありえぬほどに隆起(りゅうき)した山脈──いわば筋肉大山脈(マッスル・アルプス)を、一同はそれぞれが幻視(げんし)したのである。

 大いなる大地に、その目もくらむばかりの美しき稜線(りょうせん)に、包まれるがごとく感じたのは群衆のみならず、私兵隊までもが同様であった。


 火の銃弾が、コマンゾネスの全身を地獄の業火(ごうか)のごとく焼く。

 が、筋肉の意図的な肥大でまたたくまに炎をはじいて消し飛ばしてみせる。


 水の銃弾が、太く長く氷柱(つらら)のごとく伸びていきコマンゾネスの心臓を(つらぬ)かんと迫る。

 が、固く締めた筋肉はまるで水浴びをする女神の絵画でも見るように、銃弾をただの流水へともどし、炎で熱されたからだを適温に冷やしてみせる。


 土の銃弾が、モンスターの頭部も粉砕しうる岩石となってコマンゾネスの肉体を激しく殴打する。

 が、柔をあわせもつ筋肉はその衝撃を吸収してみせたばかりか、その凹凸を利用してむしろおのれの鎧として土を身につける。


 風の銃弾が、高く舞いあがったあと雷と化してコマンゾネスの全身に致死量の電撃をあびせる。

 が、全身の土から地面の土へと、まるでポンプのごとき筋肉の躍動(やくどう)でもって電流を押し流してみせる。


 すべての銃弾がおさまったあとには──コマンゾネスがひとり、高く、あまりにも気高(けだか)くたたずんでいた。


「いちかばちかだったけれど……なんとかなったわね」


 からだについた土をはらいながら、コマンゾネスがつぶやく。

 そう、ゲームでえがかれていたのは、あくまで「コマンゾネスに発砲がなされるまで」であったのだ。

 販売にあたっての規制を避けるため、残虐(ざんぎゃく)なシーンの描写は忌避(きひ)したのか「コマンゾネスが惨死(さんし)した」とまでは言及されておらず、この事件をきっかけに国内が乱れ滅亡していく王国を示唆(しさ)して作中屈指のバッドエンドとして幕を閉じるのである。


(ならば、発砲させるまではシナリオに従い、そのあと「シナリオ外」にまで突入できれば自分が生き残る可能性も万にひとつぐらいはあるのでは?)


 その可能性に、コマンゾネスは賭けたのであった。

 そして──鍛えつづけてきた強靭(きょうじん)なる筋肉によって、みごとその「万にひとつ」をつかんだのだ。


「バッドエンドは……わたくしの筋肉でねじ伏せる」


 うろたえる私兵隊に、コマンゾネスは


「ぬぅん!!」


 と両腕をあげてポージングしてみせた。

 先ほどにがした電流が、コマンゾネスの筋肉の意に沿って私兵隊を気絶させていく。


「な、なっ……!」


 うろたえる第一王子の背後へ、下半身の筋肉の爆発によって一瞬で移動すると、キュッと首を絞めて意識を失わせる。

 ドタリと、第一王子が地へ落ちた。


「あとは……」


 そうつぶやきながらコマンゾネスがふりかえると、なんということであろうか。

 先ほどはたしかに小枝のごとき華奢(きゃしゃ)な女の子であったはずのベネクトリックスが、巨樹(きょじゅ)のごとき筋肉ほとばしる濃緑色(のうりょくしょく)の怪物へと変異しているではないか!

 その筋肉量たるや、コマンゾネスに劣らぬボリュームであった。

 怪物は、白黒が反転した目をぎょろつかせながら、にくにくしげにつぶやく。


『あともう少しだったものを……』




もしも「おもしろい」と思っていただける回がありましたら、

88888888

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