第5話 マッチョ令嬢、銃弾を筋肉でねじ伏せる
魔法銃とは、簡潔にいえば、使用者の魔力を増幅して押し出す鉄の筒である。
日常生活でも利用される穏和な性質の多い水の魔法でさえも、魔法銃を使えば重ねた鉄板をも突き破る威力をもつ。
それが、火、水、土、風の4つの属性それぞれをもった選りすぐりの私兵隊から同時に射出されたのだから、たとえモンスター随一の頑丈さを誇るガチムチゴーレムであったとしても穴あきチーズのごとくに討滅されるのは自明であった。
しかし──
「筋肉を──解放する」
そのコマンゾネスのつぶやきは、群衆の悲鳴をふくめた騒音にとりまぎれて、だれにもとどかなかった。
しかし、同時に信じがたいほどにふくらんだコマンゾネスの筋肉を、いや、一個人ではありえぬほどに隆起した山脈──いわば筋肉大山脈を、一同はそれぞれが幻視したのである。
大いなる大地に、その目もくらむばかりの美しき稜線に、包まれるがごとく感じたのは群衆のみならず、私兵隊までもが同様であった。
火の銃弾が、コマンゾネスの全身を地獄の業火のごとく焼く。
が、筋肉の意図的な肥大でまたたくまに炎をはじいて消し飛ばしてみせる。
水の銃弾が、太く長く氷柱のごとく伸びていきコマンゾネスの心臓を貫かんと迫る。
が、固く締めた筋肉はまるで水浴びをする女神の絵画でも見るように、銃弾をただの流水へともどし、炎で熱されたからだを適温に冷やしてみせる。
土の銃弾が、モンスターの頭部も粉砕しうる岩石となってコマンゾネスの肉体を激しく殴打する。
が、柔をあわせもつ筋肉はその衝撃を吸収してみせたばかりか、その凹凸を利用してむしろおのれの鎧として土を身につける。
風の銃弾が、高く舞いあがったあと雷と化してコマンゾネスの全身に致死量の電撃をあびせる。
が、全身の土から地面の土へと、まるでポンプのごとき筋肉の躍動でもって電流を押し流してみせる。
すべての銃弾がおさまったあとには──コマンゾネスがひとり、高く、あまりにも気高くたたずんでいた。
「いちかばちかだったけれど……なんとかなったわね」
からだについた土をはらいながら、コマンゾネスがつぶやく。
そう、ゲームでえがかれていたのは、あくまで「コマンゾネスに発砲がなされるまで」であったのだ。
販売にあたっての規制を避けるため、残虐なシーンの描写は忌避したのか「コマンゾネスが惨死した」とまでは言及されておらず、この事件をきっかけに国内が乱れ滅亡していく王国を示唆して作中屈指のバッドエンドとして幕を閉じるのである。
(ならば、発砲させるまではシナリオに従い、そのあと「シナリオ外」にまで突入できれば自分が生き残る可能性も万にひとつぐらいはあるのでは?)
その可能性に、コマンゾネスは賭けたのであった。
そして──鍛えつづけてきた強靭なる筋肉によって、みごとその「万にひとつ」をつかんだのだ。
「バッドエンドは……わたくしの筋肉でねじ伏せる」
うろたえる私兵隊に、コマンゾネスは
「ぬぅん!!」
と両腕をあげてポージングしてみせた。
先ほどにがした電流が、コマンゾネスの筋肉の意に沿って私兵隊を気絶させていく。
「な、なっ……!」
うろたえる第一王子の背後へ、下半身の筋肉の爆発によって一瞬で移動すると、キュッと首を絞めて意識を失わせる。
ドタリと、第一王子が地へ落ちた。
「あとは……」
そうつぶやきながらコマンゾネスがふりかえると、なんということであろうか。
先ほどはたしかに小枝のごとき華奢な女の子であったはずのベネクトリックスが、巨樹のごとき筋肉ほとばしる濃緑色の怪物へと変異しているではないか!
その筋肉量たるや、コマンゾネスに劣らぬボリュームであった。
怪物は、白黒が反転した目をぎょろつかせながら、にくにくしげにつぶやく。
『あともう少しだったものを……』
もしも「おもしろい」と思っていただける回がありましたら、
88888888
みたいなコメントだけでもいただけますと本当にうれしいです(「パチパチ」で拍手を意味するコメントです)
ものすごく励みになります。ログイン不要の設定にしてますのでお名前は「匿名」とか「A」とかで大丈夫です




