第46話 マッチョ令嬢は土に埋められても筋肉でねじ伏せる
「あれは……?」
口のなかでつぶやいたマクシミリアンの言葉に応じるように、悪魔の背後で生じた不自然な地面の隆起は、
ボコボコボコッ
と土をふくらませながらミミズのような軌道で悪魔へ近づいていった。
大した音も出ておらず、死角からであるため、悪魔は気がついていない。
『ま、しょせんは小娘。威勢がいいのは口だけで、爪でも剥いでいけば「私だけは助けて!」って泣いてゆるしを乞うでしょう。ひとまずは捕まえて……』
と、悪魔がロマンジーナへ拘束の魔法を放とうとした、そのときであった。
ボコォッ!
と地面から一輪のガチムチの花が生えたように、たくましい腕が生え出てきて悪魔の足首をつかんだのである。
「ハァーイ」
その陽気な声とともに、できた穴から顔をのぞかせたのは、むろん──地下深くに囚われていたはずのコマンゾネスである!
『え、え、はやすぎ……』
と悪魔は困惑をもらし切ることさえできなかった。
足首がねじ切られるような握力でにぎられたためである。
『ギャアア!!』
盛大な悲鳴をあげると、悪魔は思わず両手のふたりを放した。
「少しまえにあなたのおかげでいい泳ぎかたを学べましたから、土のなかを泳いでまいりました。なかなか快適なところでしたし、あなたもひと休みしませんか?」
穴のなかからニッコリとそう言うと、『け、結構で』と悪魔が答えるまえにすさまじい膂力でぐんと足首を下に引く。
ボゴォと悪魔の全身が地中に埋まり、
『ギャアア!!』
『ごめ、ごめんなさ……』
『ギェピィィィ!!』
と、地上からは見えないながら、悪魔の阿鼻叫喚のみがひびいてくる。
なにが起きているのかぞっとしながら地上の一同が穴をのぞきこもうとすると、温泉が湧き出たかのような勢いで悪魔が空高く吹っ飛んでいった。
コマンゾネスのアッパー後の拳が、穴の上で太陽の光を受けてきらめいている。
そうしてコマンゾネスがプールからあがるように穴から出てくると、時間差で墜落した悪魔は全身いたるところに腫れあがったコブやアザができており、この短い時間でいかに凄惨な暴力がふるわれたかを一同に想像させた。
「みなさま、ごめんなさい。わたくしが油断したせいで、危険な目にあわせてしまったようですね」
状況を把握したコマンゾネスは、すまなそうに目を伏せる。
筋肉由来の超回復力でもって、目の腫れはある程度引いているが、長時間にわたって暴行を受けていた全身の痛みはいまだに尾を引いている。
横たわって息もたえだえといった様子のオーランドとアンヌであったが、心配させまいとなんでもないことのように上半身を起こして笑ってみせた。
「まったく、キミは、ちょっと、強すぎるな……」とオーランド。
「お嬢さまァ! ほんとに、無事で、よかった……!」とアンヌ。
なかでも妹のロマンジーナは、
「やっぱりお姉さまはかっこいいッ!! お姉さまの筋肉は世界一ィィ!!」
と絶叫してコマンゾネスに抱きつき、
「ずるいですよロマンジーナさまッ! コマンゾネスさまはケガをされているんだからもっとやさしく……!」
とロマンジーナを掣肘しつつ、マクシミリアンもまたどさくさまぎれにその大樹のごとき筋肉にしがみついている。
「うっさいマクシミリアン! わたくしとお姉さまとのあいだには、『姉妹』という永遠に朽ちることのない強い絆があるのよッ!」
「さっきは一瞬だけしおらしかったのになんです! き、絆というならぼくとコマンゾネスさまとのあいだにだってだれよりも深いのがゴニョゴニョ……」
ふたりが普段のように口ゲンカしはじめてしまったことをコマンゾネスがたしなめようとすると、
「コマンゾネスさま! みなさまご無事だったのですね」
と、にこやかに笑いながら、ベネクトリックスたちが丘をのぼってきた。




