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その悪役令嬢はあまりにもマッチョすぎた  作者: 七谷こへ
第四章 マッチョ令嬢、土に埋められるも筋肉でねじ伏せる
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第42話 メイドと第五王子のスニーキングミッション4


「やめてッ!」


 魔法により防音もなされていたようで、隠蔽(いんぺい)が解除された瞬間に中の悲鳴が廊下にまでけたたましくひびいた。

 この声は、たしかに──


「ロマンジーナさまッ!」


 アンヌが声の主を認識したと同時に、危機を察したマクシミリアンが怒声(どせい)で呼びかけながら教室のとびらをひらいた。

 おし伏せた兵士の上にのっているアンヌからも中が見え、その部屋にはたしかに発光する鎖に縛られたロマンジーナが座っていたのである。


 そして、そのまえには「あー」と声ならぬ声をあげる、焦点のあわない兵士がいて──

 ロマンジーナにむかって振りあげた剣が、ひとつの生命を断絶(だんぜつ)すべく、冷ややかに光を反射した。


「お嬢さまァ!!」


 アンヌは絶叫し、床についていた膝をはねあげて教室へと向かう。

 しかし、兵士はすでに剣を振りおろしはじめている……

 兵士の動きがスローモーションのように視界を占める。

 足が、思ったような速さで、動いてくれない。


(お嬢さまのような脚力があれば、とどくのに──)


 マクシミリアンも風の魔法を放とうと手をかざしているが、とても間に合いそうにない。

 右足、左足とかつて出したことのない力で床を蹴っているはずなのに、風景が凍りついたかのように動いてくれない。

 ロマンジーナは恐怖を満面(まんめん)にしみわたらせて、自身を切り裂こうとする凶器をひとみに映している。


 なにか、なにかないか……


 頭を高速でめぐらせても、なにも出てこない。


「イヤァッ!!」


 ロマンジーナの痛切(つうせつ)なる悲鳴を死がからめとろうとした、そのときであった。


 やけどしそうになるほどの熱風が、部屋の空気を焦がして吹き抜けていく──


 キィンと硬いもの同士のぶつかる戛然(かつぜん)たる音が、室内にひびいた。

 兵士の剣が上にはじかれ、天井へと突き刺さる。


「オーランドさまッ!」


 そうマクシミリアンが歓呼(かんこ)した。

 そこには火のハンサム──オーランドが、兵士に木剣(ぼっけん)を突きつけてたたずんでいたのである。


「やあ、おれも仲間に入れてくれよ」


 彼が走ったそのあとには、鉄道のごとき一直線の軌道(きどう)に残り火がおどって消えていく。


「アレクシスから連絡が来てこっちへ向かうよう言われてね、ひさしぶりにこんな長距離走ったよ。……それで、見ないあいだに美しく成長されたこのお姫さまをお助けしたらいいのかな」


 部屋のなかには、まだ3体もの兵がいた。

 が、軽口をたたきながらオーランドがかがり火に舞う炎のように剣を振るうと、兵士たちはつぎつぎ部屋の一隅(いちぐう)になぎ倒されていく。


 アンヌはその兵士たちをひと束にまとめて縛り、マクシミリアンはロマンジーナのもとへと走る。

 光る鎖もまた魔道具によるもののようで、マクシミリアンは魔力を編みながら手早くそのいましめを解いていった。


「ま、ま、マクシミリアンッッ!! あんたに貸しをつくることになるなんて……」


 ロマンジーナは助けに来たマクシミリアンを見て、安堵(あんど)よりも先に驚愕が来ているようであった。

 ふたりはコマンゾネスの筋肉を信奉(しんぼう)するもの同士として、「どちらがよりコマンゾネスを敬愛(けいあい)しているか」と争ってきた歴史があり、やや相性がわるいのであった。


「ロマンジーナお嬢さまァ! マクシミリアン『さま』あるいは『王子殿下』でしょうがァ!!」


 ふるえる肺から呼吸をしぼり出し、また取り入れたアンヌが叱りつけると、


「アンヌ、アンヌぅ……。こわかった、ありがとう……オーランドさまも、マクシミリアンも……ありがとう……」


 と、親しいアンヌを見たことでようやく緊張が解けたのか、まだ14歳の少女は恐怖を吐露(とろ)して涙する。

 やはり敬称が抜けているが、ロマンジーナの2つ年下であるマクシミリアンはあまり気にしていないようで、


「ロマンジーナさま、この貸しでコマンゾネスさまへとつづく道はぼくが一歩リードというわけですね」


 とベロリと邪悪な舌なめずりをしてみせた。


「あ、あんた……ッ! クソ、クソォッッ!!」


 くやしさと負けん気と助けられている手前強く出るわけにもいかない複雑な感情をロマンジーナが咆哮(ほうこう)にて発散すると、少し笑い、切り替えてさらに没入(ぼつにゅう)したようすのマクシミリアンが、ついにその鎖を()く。


()けましたッ!! みなさん、あとは頼みますッ!」


 鎖がぼんやりとした光をうしなって床へ落ちると同時に、マクシミリアンが三階の窓枠を踏んでいさましく跳躍(ちょうやく)した。

 そのまま「〈風の具足(ウィンドブーツ)〉」と魔法を発動させて落下の勢いを減じつつ、近くの枝をつかんでリズムよく地上に降り立ち、まさしく風のごとく石碑(せきひ)の丘の方角へと()けていく。


「あいつ、コマンゾネスくんみたいになってきたな……」


 横にいたオーランドのつぶやきを聞きながら、アンヌは祈るような思いで遠ざかってゆく少年の背なかを見送った。








<あとで消すあとがき>


『マッチョ令嬢はどんなバッドエンドも筋肉でねじ伏せる』というタイトルで書いておりました本作、試しに『その悪役令嬢はあまりにもマッチョすぎた』に変えてみました。

あと『マッチョ令嬢の悪魔殺し』も自分のなかでは候補に上がっているんですが(アガサ・クリスティの『アクロイド殺し』のイメージ)、どれがいいのか全然わかりません。

「悪役令嬢ブームってもうとっくにピーク過ぎたよ」みたいな話も聞きまして、小説のことがもう全然わかりません。

でもまあせっかく考えたしここまで書いちゃったしなので、一旦最後まで書いてみたい所存です。

ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございます。しゅき。

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