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その悪役令嬢はあまりにもマッチョすぎた  作者: 七谷こへ
第四章 マッチョ令嬢、土に埋められるも筋肉でねじ伏せる
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第41話 メイドと第五王子のスニーキングミッション3


「しらみつぶしに部屋を見てまわりますか?」


 一階の廊下をのぞきこんでいると、自分の下からひょっこり顔を出したマクシミリアンが言う。


「ここから見えるだけでも十個は部屋がありますし、とびらを開閉するときの音や振動で見つかる可能性があがっていきます。いまの騒ぎでも反応がないのでだいぶ鈍いようではありますが、無用に見つかりやすい行動をとる必要はありませんし、あやしい部屋を絞りこんで探索しましょう」


「アンヌさんってこの旧校舎へ来たことありますか?」


「いえ、お嬢さまァが入学されたときにはすでに使われていなかったようです。なので入ったことはありませんが……」


 アンヌは状況を把握しながら言葉を継いだ。


「ロマンジーナさまはおそらくこの階にはいないでしょう。見張りが少なすぎる。それに校舎の構造を考えると、少しでも入口から遠いところに隠したくなるのが人情というもの……最上階である三階の可能性が高いと思います。探すにしても、三階から下がっていきましょう」


 マクシミリアンがうなずいたのを確認し、ふたりは階段へもどってそっとあがってゆく。

 一階の廊下の奥で見かけた兵士は無視をしつつ、三階と二階を往復している兵士がいたので、ふりかえった直後のスキをついて失神させ、拘束してロッカーへ押しこむ。


 三階に着くと、まずは耳をすましてみる。

 あるいはあのじゃじゃ馬娘……ロマンジーナがさけんでいる声が聞こえないかと思ったが、兵士の歩く音しか聞こえない。


 が、一階や二階とくらべればあきらかに見張りが増えており、やはり三階の可能性が高いとアンヌはにらむ。

 階段近くにちょうどロッカー室があったため、慎重に兵士を気絶させて順に押しこんでいく。


 三階は廊下が長方形状にのびており、二十弱もの教室が整然とならんでいた。

 せめてうめき声や(きぬ)ずれの音でもどこかの教室からもれてこないかと、兵士を排除しながら廊下をひとまわりしてみるも、やはりどこからもそれらしき物音は聞こえなかった。


(教室はすべて閉まっていて、中は見えない……。中に兵士が待ち伏せしている可能性もあるが、あけていくしかないか)


 と思案していると、「アンヌさん」とマクシミリアンに呼びかけられた。


「どうしました、マクシミリアンさま」

「ここ……ちょっと変じゃないですか?」


 マクシミリアンは教室と教室のあいだにある木の壁を指さしている。

 なにか違和感を感じている様子だが……


「ただの壁にしか見えませんが……」

「ほら、こちらの壁に教室が等間隔で並んでいるでしょう。三階は廊下の向こう側と線対称の構造のようでしたし、ここにも教室のとびらがあるべきだと思うんですが、ここだけ壁なのは不自然だなと」

「たしかに……」


 さわってみても、やはりただの壁である。

 となりに立つマクシミリアンの指がぼんやりと光って、木目(もくめ)のとおりに壁をなぞる。


「やっぱり……うすい魔力の膜があります」

「魔力の膜……?」


 平民出身のアンヌは魔力が少なく、マクシミリアンがなにを感知しているのかははかれない。

 が、昨夜コマンゾネスが口をきわめて彼の魔法の知識をほめていたことを思い起こす。


隠蔽(いんぺい)魔法がかかっている、ということだと思います。少々お待ちを……」


 楽しそうにぺろりと舌を出し、薄皮をはぐように壁をまさぐりはじめた。


「この構成、人間特有のゆらぎ(ヽヽヽ)がないので魔法ではなく魔道具ですね……。こんな魔道具があったとは……」


 ぶつぶつ言いながら隠蔽(いんぺい)をはごうとするマクシミリアンを、見まもる。

 すると、マクシミリアンの背後にある曲がり角から、ヌッと足音もなく兵士が姿をあらわした。


「……ッ!」


 心臓が口からまろび出るような驚愕(きょうがく)をのみこみ、アンヌは獣のような鋭さで飛びかかる。

 手を振りかぶろうとした兵士のふところへ一瞬にしてもぐりこみ、背負い投げで床に倒す。

 その手から、いくつもの小石が転がった。


 そのまま流れるように首を絞めると相手はあっけなく動けなくなり、急激な緊張からの緩和により、肺が無意識にゆるんでふうと息を吐いた。

 しかし気をゆるめるのは早いと自戒(じかい)し、手早く縛りはじめたところで、


「……解けましたッ!」


 とマクシミリアンが喜びをあらわに小さくさけぶ。

 見ると、練達(れんたつ)の絵師が潑溂(いきいき)と筆を走らせていくように、たしかに壁であったはずのところに教室のとびらがみるみる現れてくるではないか。


(これは私ひとりではどうにもならなかっただろう)


 と、アンヌがマクシミリアンの手腕に感嘆していると──


「△≧◇ξ※ξ◎」


 気絶していたはずの兵士が、突然聞いたこともない言語を大音声(だいおんじょう)でわめきはじめたことに驚倒(きょうとう)する。

 アンヌはあわてて口をふさごうとするが、


「やめてッ!」


 という悲鳴がとびらの向こうから聞こえた瞬間、彼女の血が一気に冷えた。


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