第40話 メイドと第五王子のスニーキングミッション2
旧校舎は木造の三階建てであった。
三階に一年生の教室、二階に二年生の教室があり(魔法学園は二年制である)、一階に職員室や美術室などを備えたつくりをしていた。
玄関から入ったアンヌは急ぎ周囲に目を走らせる。
正面に大階段があり、左右に廊下がのびている。
左側に教材室、右側に保健室というプレートがかかげられているのを視認したあたりで、大階段の上からコツ、コツと何者かが降りてくる音が耳に這入った。
(いま、この旧校舎にいるのは十中八九見張りの兵士だろう)
教材室の扉は閉じており、保健室の扉はひらきっぱなしになっていた。
上から来る兵士を制圧すべきか迷ったが、先ほどと力量の変わらない兵士なのか、校内に何人規模で兵士が配置されているのかもまだ把握できていない。
一目したところ保健室内にはだれもいないようだったので、マクシミリアンをかかえて部屋のなかへ飛びこんだ。
ほこりをかぶった簡素なベッドが2台、その脇にくすんだ色のカーテンがところどころ破れつつもそれぞれ吊りさげられている。
アンヌは無人のその部屋で、転がりこむように手前のカーテンの裏へ身を隠した。
「アンヌさん……ッ」
「お静かに」
マクシミリアンに短く告げ、アンヌは目をつむって耳をすませる。
コツ、コツという階段を降りる足音が一階へと到達したことがわかった。
そのまま、方向転換したようすでふたたび足音がひびく。
(判断を誤ったか……こっちへ来ている)
とアンヌが思案したとおり、足音はごくわずかずつ強まりながら、保健室前まで来て、ピタリととまった。
(曲がれ、曲がれ)
と方向転換して廊下の先へ進んでいくことを念じたのだが、はたせず、コツ、コツと足音を再開させ──兵士は保健室のなかへと入ってきた。
自分の心臓の音が、徐々に高まる。
兵士は入口でまた停止し、室内を見渡しているようだった。
自分たちを見つけて入ってきたのか、もともと決められた経路にすぎないのか、聞こえてくる動作からは判断がつかない。
相手の武器は、先ほどの兵士を見るかぎり片手剣のみだった。
どれほどの動きをするのかはわからないが、スキさえつければ……
(あれ、いない……!?)
対応を考えているあいだ、となりのいたはずのマクシミリアンがいなくなっている。
音を立てずに探すと、奥側のベッドの下に入ってなにやらもぞもぞと動いていた。
(マクシミリアンさまァ!)
もはや手のとどかない距離にいるため心でさけんでいると、マクシミリアンは魔法で手から突風を放った。
机の脇に置かれていた小さな木製のイスが吹っ飛ぶ。
そのまま部屋の反対側まで飛ぶと、兵士は振りかぶって手のなかに握りこんでいたらしい小石をいくつもイスへと投擲した。
小石は土の魔力によって硬質化・巨大化し、つぎつぎとイスへ降りそそぎずたずたに破壊する。
さらに勢いあまって部屋の窓ガラスを割り、壁や床にいくつもめりこんだ。
遠距離攻撃がないものと思いこんで自分があの攻撃をもろにくらっていたら、よくて戦闘不能になっていただろうとアンヌはひとり戦慄する。
しかしベッドの下でひらめくマクシミリアンの視線から、これは彼が意図的につくったスキであることをアンヌは理解した。
投げ終わりで体勢をくずしている兵士へ躍りかかり、ふたたび首を絞めて昏倒させる。
余分にもいできた植物のツルで兵士の手足をぐるぐる巻きにしながら、ニカッと笑ったマクシミリアンを見て釘をさす。
「あなたは王族なのですから、できるかぎり危険のないように……」
「コマンゾネスさまは、いまひとりで耐え忍んでいるはず……。自分だけ安全にやりすごそうとは思っていません」
マクシミリアンの即答とまっすぐなまなざしに、どこか気圧される思いで応じる。
「そう、ですね……」
アンヌは、主君の危難を脳裏に浮かべた。
ひたすら指示を待つのではなく、自分で考えて効果的に動くことができるのは、自分が経験してきた戦場の、こうした少数で動く作戦においてはまぎれもなく美点であった。
「わかりました……急ぎましょう」
そうつぶやき、木製のロッカーに縛った兵士を放りこむと、ふたりは部屋から廊下をうかがった。




