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その悪役令嬢はあまりにもマッチョすぎた  作者: 七谷こへ
第四章 マッチョ令嬢、土に埋められるも筋肉でねじ伏せる
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第39話 メイドと第五王子のスニーキングミッション1


「! 失礼を……」


 ロマンジーナが誘拐されたとおぼしき旧校舎の側面へと到着した瞬間、アンヌは突然マクシミリアンを抱いて周辺の草木のなかへその身を投げ入れた。


 マクシミリアンが「え、え」とうろたえるので、「しっ」とくちびるに指をあてさえぎる。

 少年が驚きをぐっとのみくだした直後、亡霊のようにうつろな表情の見張りの兵士がぬっと姿をあらわした。


 兵士は片手剣を腰から下げ、防具として胸当て、背当てをつけただけの軽装である。

 地に伏せ、灌木(かんぼく)の葉のすきまからアンヌがじっと観察していると、一歩、二歩と規則正しく校舎の外周に沿って歩いた兵士は、角で少し立ちどまり、また寸分たがわぬ動きで歩き去ってゆく。


「なんであんなあやつり人形のようなギクシャクした動きなんでしょうか……」

「アレクシスお兄さまがあやつられたとき、私兵隊のみなさんが同じような様子でした。おそらく悪魔にあやつられていて、一種の催眠状態にあるのでしょう。複雑な思考ができず、決められた動きをくりかえしているのではないかと……」

「なるほど……」


 身をかくしながら校舎の正面側へとうつると、玄関扉のまえにぼうっとひとりの兵士がたたずんでいた。

 見張りというには頼りない風采(ふうさい)だが、そこから動かないので侵入するにはほかの経路を探す必要がある。


「いまのうちにためしておくか……」


 アンヌはそうつぶやくと、足もとにあった石をおもむろに拾い、草木の(かげ)から校舎の壁へと投げた。


 コン、という音が立つ。


 入口の兵士は「?」とそれに気がつき、一歩ずつ正確なリズムで進んでくる。

 角を曲がり、音がしたはずのあたりにはなにもないことに(ぼう)と立ちどまり、またもどろうとしたところで──


 アンヌが無音で飛び出して、腕をからめて兵士の首を強烈に絞めた。

 兵士はうめいてしばし身もだえしたあと、ガクリと気絶する。


「す、すごい」


 とマクシミリアンがその身のこなしに感嘆(かんたん)しているあいだ、アンヌはブチリとそのへんのツルをいくつかもいで兵士の手足をすばやく縛り、校舎側からは木々で見えないあたりへ放置した。

 ふたたびマクシミリアンと姿をかくして見まもると、意識をとりもどした兵士は


「うあ~」


 と小さな声でうめき、その場でぐねぐねとからだを動かす。

 しかし、大きく悲鳴をあげて助けを呼ぶ様子も、ピンチを察してまわりから兵士が集まってくる気配もない。

 拘束(こうそく)を自力で()くのもむずかしそうだ。


「叫ぶようならさるぐつわを噛ませようかと思いましたが、拘束して見つからないところに放置すれば大丈夫そうですね。あやつられているだけなら殺すわけにもまいりませんし、じゃまな兵士は無力化しながら中を調べましょう」

「あ、アンヌさんすごいですね、こんなことができるなんて……」


 マクシミリアンがその手際のよさに舌を巻く。


「前職のときの経験でちょっと……。お嬢さまァはあの肉体ですから遠くでも目立ちますし、こういうとき壁を破壊しながら突き進もうとするので隠密(おんみつ)行動に向かないんですよね……」

「たしかにコマンゾネスさまはひと目でわかりますからね……」


 話していると、外周をまわっていた兵士がまたひとまわりしてきたらしい。

 が、玄関を見ているはずの兵士がいないことにも反応を示さず、またぐるりと規則的に歩いていく。


「いまのうちです」


 アンヌが鋭く言って旧校舎へ先導し、マクシミリアンは足をつっかけながらあわててついてくる。


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