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その悪役令嬢はあまりにもマッチョすぎた  作者: 七谷こへ
第一章 マッチョ令嬢、婚約を破棄され断罪イベントが発生するも筋肉でねじ伏せる
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第3話 マッチョ令嬢、身に覚えがあったりなかったりする罪で糾弾される


「中庭へ連れていけ! 処刑だ、すぐに処刑するんだッ!」


 第一王子アレクシスが、さけぶ。

 王子の私兵隊は、8人。

 全員男性だが、コマンゾネスから見れば公園に落ちてるよさげな木の棒ぐらいの肉体しかもっておらず、拳圧のみで壁まで吹きとばせそうである。


 「連れていけ」と命令されたはいいものの、圧倒的な彼我(ひが)の体格差に強制連行をこころみる胆力をもった者はいないらしい。

 しかしおそいかかってこないのはいいとしても、このパーティー会場でもみ合いとなるのは避けるべきと判断したコマンゾネスは、彼らと一定の距離をたもったまま自らしずしずと学園の中庭まで移動していった。


 王子や私兵隊、パーティーに参加していた生徒たち──ほぼ全員が貴族である──が群衆としてざわめきながらついてくる。

 空はこの騒動の先行きを暗示するかのように、厚く黒い雲が一面に広がっていた。

 コマンゾネスとしては、王子個人への思い入れが強いわけでもなかったので婚約破棄はまあしかたないとして、せめてここは国外追放ぐらいにしてもらってあとはどうにか生きのびようと抗弁(こうべん)をこころみた。


「婚約破棄については、承りました。しかし処刑だなどと、裁判も()ず、身におぼえのない罪で裁かれるいわれはございません。わたくしにどのような嫌疑(けんぎ)がかかっているのでしょうか」


「身におぼえがないだと!? ベネクトリックスが聖女として認定されたことを妬んでさまざまなイヤがらせをしたあげく、殺そうとまでしただろう!」


 第一王子がそう手を広げた先には、小枝のようなかぼそい少女──ベネクトリックスがいる。

 まるっこくて大きなひとみをしており、つややかな黒髪があごのラインできれいに切りそろえられている。今夜のパーティーにあわせた清楚(せいそ)なドレスは、コマンゾネスが指でつまんだら折れてしまいそうな肢体(したい)を品よくつつんでいた。

 しかし、いつもなら不安げに王子のそばにたたずんでいるところ、きょうはどうしたことか無表情でこちらを睥睨(へいげい)しており、感情が読みとれない。


「貴族の礼儀をご存じなかったようなので、教えてさしあげただけですけれど……殺そうとしたのも言いがかりでございます」


 コマンゾネスはキッパリと反論したあと、

(前半はともかく、後半については身におぼえがある……!)

 と冷や汗が背なかをツツツと伝うのを感じていた。


 それというのも、ダンスの授業のときに誤ってぶつかってしまい、コマンゾネスの背筋(はいきん)尋常(じんじょう)ならぬ弾力に吹き飛んだベネクトリックスがギャグマンガよろしく壁に人型(ひとがた)の穴をあける、というイベントがあったためだ。

 ゲームでの本来の展開としては、いさかいの際にコマンゾネスが軽くしばいたことでそうなるのだが、今回徹底的にベネクトリックスとの接触を避けていたため、その「シナリオの強制力」によって別の経過で同じ結果をもたらすこととなったようである。


 ぶつかったあともギャグマンガのごとく「どんなパワーじゃーい!」とか泣き笑いしながら出てきてくれたらよかったのだが、そのあとベネクトリックスは実際に重傷を負い、その生と死のはざまでの「こんなアホな死にかたはイヤだ」という強い一念によって聖女としての癒やしの力に本格的に目ざめるのである。

 つまり必須イベントであった、ということだろう。


 平民生まれであるベネクトリックスは、貴族の礼儀を知らず不用意に婚約者のいる第一王子はじめさまざまな男子にベタベタとふれていたのでやんわりと注意したのだが、たしかに注意した事実自体はあるし、「殺そうとした」の部分も「大ケガをさせた」については事実であるせいで、否定してはみるものの説得力に欠けることは自分でも理解できていた。


「それだけじゃないぞ!」


 第一王子がふたたび絶叫する。


「キミには国家を転覆させようと反乱軍の暴動を指揮した内乱罪、敵国にわが国の情報を流して武力行使を実行させた外患誘致罪、国の重要施設を中の人員ごと爆破した激発物破裂罪、地方都市の水道へ毒物を混ぜた水道毒物等混入致死罪、あらゆる重罪の容疑があるッ! 観念するんだ」


 きいてコマンゾネスはポカンと口をあけた。


「ちょっ、ちょっとお待ちください。反乱軍の暴動も、周辺国が攻めてきたことも、爆破も毒物もわたくしは近年起きたことさえ聞いたことがございません。まずは本当に事件が起きたかどうか調べさせて……」


「うるさい、うるさいッ! オマエは、死刑になるんだ。死刑になるべきなんだ!」


 水に濃いインクを垂らしたように白目が黒く濁っていき、明らかに惑乱(わくらん)した様子で、第一王子がさけぶ。


「アレクシスお兄さまッ!」


 そんななか、群衆をかき分けてひとりの少年が顔を出した──


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