第27話 マッチョ令嬢、ひとつの宗教を誕生させる
「え、花火……?」
突然花火があがるわけもないのだが、ルミエールは呆然と口をひらくと、そんな声をもらした。
空中にいる自分よりもはるか高くまで舞った一体の氷の兵士は、修復しようもないほどに美しい塵となって大気に溶けこんでいく。
一体、二体……つづいてまさしく打ちあげ花火のごとく、兵士がつぎつぎと空に花ひらいていく。
ルミエールが見おろすと、先ほどコマンゾネスにたかっていた山の中心がポッカリとあいており、ニカッと笑うコマンゾネスと目があった。
「失礼……『騎士団に所属できる程度の戦闘力があったからなんなのでしょう』と、ちゃんと申しあげるべきでしたわね」
言いながら腕をふるコマンゾネスであったが、しかし、その腕は視認できないほどのスピードで動きつづけている。
パンッ、パンッ、という小気味よい音が鳴りつづけ、やがて爆竹を鳴らしたかと思うほどの頻度となる。
その音は、コマンゾネスが、自身にむらがる兵士からはいかなダメージも受けず、自身は指をはじく程度の力加減で氷像を炸裂させていっている音であった。
「同士討ちでも吸収していってしまうのは少々やっかいですわね。ですので、このように修復する余地もないほどこなごなにしてしまえば……」
コマンゾネスの上に山のように重なっていた兵士は、いつかすべて粉みじんに打ちあげられていた。
とはいえまだ地面には相当数がのこっており、コマンゾネスを包囲している。
感情が──恐怖が設定されているとも思えない氷像たちは、しかし、たじろぐように固まってしまっていた。
やがて蛮勇をふるい起こしたのか、一体の氷像が「キシェエエ!」と啼くと、剣を高くかかげてコマンゾネスへと躍りかかる。
ボッという空気ごと殴りつけたような音を鳴らして彼女が腕をふるうと、腕は動いていないように見えるのに、兵士は10メートルほど先にある木の幹に吹き飛んではじけた。
「うーん、横に飛ばすとよけいな被害が出るかも……。気をつけなければなりませんね。ではやはり空中遊泳をお楽しみいただきましょうか」
切り替えて近くにいた一体に近づき、目に見えぬアッパーを放つと、一瞬後には上空でパンッとはじけ飛ぶ。
彼女を包囲していた兵士たちは、じつは真円ではなくルミエールのいる方角に厚く陣を張っていた。
コマンゾネスは優雅に笑みを浮かべながら、そちらへしとやかに一歩ずつ進み、氷の花火を打ちあげていく。
「こだわりをお持ちのようでしたけれど、わたくし、武術大会で優勝したことを誇ってはおりませんわ……。わたくしが興味あるのは、よりよい筋肉を身につけること、それをどう活かすかを考えること、そして男も女も関係なく、ひとの能力に敬意をもつこと……。ルミエールさま、あなたがたゆまずにみがいてきた魔法はいつだってすばらしい。こうして殺意さえもって手合わせできることも、わたくしは、うれしく思っているんですよ」
「来るな、来るなぁっ! おまえたち、なにしてる、その女を早く……っ!」
その指示により、束になって迫ってきた氷像たち。
コマンゾネスは膝を曲げ、大地から吸いあげるがごとく力をためると、
「ぬぅん!!」
と特大のアッパーを放った。
そのすさまじい筋力に呼応したのか、光の柱が出現し、氷の兵士をのこらずのみこんで昇天させていく。
なお、その光の柱は10万の民が住まうこの都市の端からでも観測でき、後日「神が降臨した」とひとつの新興宗教さえ誕生させた、との伝である。
「うわぁぁぁ!」
とり乱したルミエールは、自身の目のまえに強大な氷塊をつくりはじめた。
しかし、氷の兵士を一掃したコマンゾネスをまえにした動作としては、あまりにも遅い。
「むぅん!!」
コマンゾネスはその筋肉で高く、あまりにも高く跳躍すると、仮面ヒーローの必殺技をも彷彿とさせる飛び蹴りでもって氷塊をぶち破った。
その勢いはまったくおとろえることなく、ルミエールにまでたやすく到達する──




