第26話 マッチョ令嬢の埋没
ルミエールの魔法により、何百体も生み出された氷の兵士たちは、氷の剣、氷の槍、氷の弓などおのおのの武器をもってその圧倒的物量でコマンゾネスをとり囲んでいる。
「ふふふ、どんな武人であろうと、練度の高い兵士に攻めつづけられたならば、いつかは敗れるのですよ。私の魔法で生み出した彼らは、あなたほどの筋力はないにしても、騎士団に所属できる程度の戦闘力はあります。しかも疲れることがなく、壊れてもたやすく修復できる……。あなたには倒れるまで永遠に戦っていただきますよ」
兵士の形を成していった氷像たちは、一斉にジロリとコマンゾネスのほうを向くと「キシェエエ!」というモンスターのごとき鬨の声を発した。
そこで敢然と前へ出てすらりと腰の木剣を抜いたのは、第五王子マクシミリアンである。
「はっはっは! こんなお人形あそびにコマンゾネスさまのお手をわずらわせることはありません。ぼくがひとりでバッタバッタと……へぶぅッ!」
雄々しい口上とともに突っ込んだところ、一体の兵士に彼の一撃はあっさりとかわされ剣の横腹でぶん殴られる。
「いまの身のこなし、騎士団に所属できる程度の戦闘力というのはあながち誇張でもなさそうですわね……」
号泣する少年をアンヌがかついでベネクトリックスのもとへ行ったのを見とどけながら、コマンゾネスがつぶやく。
そこへ勝ち誇ったようなルミエールの声が、天から降りそそいだ。
「数こそ力なんだ! 『たったひとりである』という無力を噛みしめて死ぬがいい、コマンゾネス!」
そうさけんでルミエールが指をむけると、大量の兵士たちがコマンゾネスに殺到する。
ある兵士は剣を振る。
ある兵士は槍を突く。
ある兵士は弓を射る。
氷像ならではの同士討ちをいとわぬ集中砲火がコマンゾネスをおそった。
実際、それた氷の矢は別の氷像にあたるやその体内に吸収され、ひとまわり巨大化した体躯となりより剛強に剣を振るう。
あっというまに周囲の間隙がなくなると、何十体もの氷像が跳躍して横軸だけでなく空中からもコマンゾネスを殴打する。
コマンゾネスを中心としてこんもりと氷の山ができた。
「ふふふ、武術大会の優勝者だろうと、あんな茶番ではない、実際の戦闘になってしまえばこんなものだ! これからの戦争で、一対一の戦いなんてなんの意味もなくなる……。見たか、見たか、見たか! 運動神経なんかで私を軽んじた無能教師や生徒ども。総合的にいちばん優秀なのは、結局、魔力の扱いにひいでた私なんだ……!」
悪魔によりたぎる怨みを増幅されているのか、ルミエールは悪意に形相をゆがませ、ひとり呪詛の言葉をわめき散らしていた。
自身の胸をわしづかみながら、からだを折り曲げ、よどんだまなざしで苦しそうに学園の校舎のほうをにらみつけている。
さらに罵倒の言葉をつづろうとした、そのときであった。
山の頂点にいた一体の氷像が、まるでこの世のものならぬ腕力でぶん殴られたように、空高く吹き飛んだあとパンッと音を立て、こなごなに破裂したのである。




