第25話 ポージングにこめた熱き想いは氷をも溶かす
「……?」
自身の視力の問題と考えたのか、目をほそめ、メガネをクイとあげてルミエールは氷づけとなったコマンゾネスを見つめた。
しかしそうしているあいだにも氷に入った亀裂は増えつづけ……
「コマンゾネスさまッ!」
マクシミリアンがそう歓呼の声をあげたとおり、その亀裂は全体に広がり、ついに氷が崩壊したのだ!
氷から姿をあらわしたのは、むろん、満面の笑みでサイドチェストを完ぺきにキメてみせているコマンゾネスである。
そのからだはまったくの無傷であり、同時に、全身から湯けむり温泉もかくやというほどに蒸気を発している。
「あぶないところだったわ……。凍らされる寸前でルミエールさまの狙いに気がつき、最も内部の熱エネルギーが高まるサイドチェスト(コマンゾネス調べ)へと切り替えていなければ、氷から出ることはかなわなかったでしょうね……」
「サイドチェストやめろっつってんのにお嬢さまァ!!」
アンヌが安堵と怒りのないまぜになった複雑な表情で絶叫するかたわら、ルミエールはひどくうろたえていた。
メガネをあげるしなやかな指がぷるぷるとふるえている。
「いや、いやいやいや筋肉がそんな氷を溶かすほどの温度出せないでしょ? 内部の熱エネルギーがポーズによって増減するだなんてあまりにもバカげている、いやでも事実として私の〈極北の牢獄〉が破られたわけで、え、どういうこと? 私が夜に鍋をつくりながら苦心して完成させた魔法が筋肉なんていうちょっと鍛えれば身につく個人の身体に負けたってこと? そんなの……認めない。そんなこと、あっちゃあならないんだッ!」
ルミエールが怒声とともにスラリと長い腕をあげ、大きくかきまぜるようにぐるぐる円をえがくと、広場の上空に小さな積乱雲のようなぶ厚い黒雲が形成されてゆく。
先ほどの濃霧は晴れたのではなく、広範囲に分散して滞留していたにすぎず、今度は彼の魔力によって一団の雲へと変じたのであった。
さらに、その妖雲から無数の氷柱が広場へと降りそそぐ。
「うわァァッ!」
マクシミリアンが頭をかかえて伏せたところを、そばにいたアンヌがおおいかぶさってまもる。
広場の中心、噴水のすぐ近くにひとりたたずんでいたコマンゾネスはその突然の驟雨──いや、いわば驟氷にさらされて見えなくなる。
「お嬢さまァ!!」
が、その勢いに比して広場の周縁にいるアンヌたちに直接氷柱があたることはなく、目をこらして見れば、コマンゾネスにも直撃している様子は見られない。
「こんな氷柱ごときではわたくしにダメージを与えられないし、凍らせることもできないことがまだおわかりにならない……」
とコマンゾネスが挑発しはじめたところ、途中でその顔が「!?」と驚愕にそまった。
雹のごとく空から降った大量の氷柱は、なんと、地面に到達するや変形していき、何百体もの氷の兵士と化してコマンゾネスを包囲したのである!




