第14話 マッチョ令嬢 vs 悪魔(火)1
「ぬぅん!!」
咆哮一閃、コマンゾネスの拳によってオーランドが宙を舞った。
きりもみ状に回転したのち、オーランドは「ぶへあ」という奇妙なうめき声をあげ、地に落ちる。
「さすが、さすがコマンゾネスさまですッ! あんな攻撃なんて屁でもないって、ぼくは信じていましたよッ」
固唾をのんで戦いを見まもっていたマクシミリアンが、心底うれしそうにピョンピョンと跳ねながらコマンゾネスに抱きついてくる。
その振動で体がズキリと痛むが、コマンゾネスは片腕で彼を受けとめてニカッと笑ってみせる。
(まだ、痛みをおもてに出すわけにはいかない)
その懸念が実現するかのように、オーランドの口調や声が変わってガバッと半身を起こした。
『オマエ、ほんと、どうなってるんだよ! 立っていられないほどの激痛がおそっているはず……なんでこんなパワーでぶん殴れんの……?』
「あら、このまえもそうだったけど、それがあなたの本来の口調なのかしら、悪魔さん。肉体を気絶させても憑依が持続するのかたしかめてみようと思ったのだけど……そのままのっとりつづけることができるわけね」
『…………』
「アレクシス殿下を気絶させたときは即座にベネクトリックスさまに移り変わっていたけど、いまはしていない……。ここにいるわたくしとマクシミリアンさまに精神干渉の気配がないということは、おそらく無差別に憑依できるわけではないということよね。対象をあらかじめ催眠状態にしておくことが必要なのかしら?」
『…………』
ベネクトリックスが語っていた情報から推測し、相手の反応を観察しつつ問いかけるコマンゾネスであったが、これ以上知られまいとしたのか悪魔が口をつぐむ。
一旦仕切りなおすように、咳ばらいをし、ククッと笑ってゆっくり立ちあがる。
『この肉体にいつづけるのは、貴様を倒すのに都合がいいからにすぎない……。この肉体の魔力に、私がもつ古代の魔法の知識をあわせると、こんなこともできるのだよ』
空にむけた両のてのひらから、二本の火柱が高く噴きあがった。
『〈劫火の壁〉』
火柱は生きもののごとくに荒れくるい、空中でぶつかってまざり合うと、悪魔のまえで一面の壁となった。
コマンゾネスたちから見ると、一辺が寄宿舎の建物ほどもある巨大な正方形が立ちはだかっている。
マクシミリアンが驚愕してさけんだ。
「あれは、古文書でしか見たことのない魔法……! 現代最高の魔術師をもってしても再現することは不可能だったはず……」
『おいおい、程度の低い人間の魔術師ごときと比較してくれるなよ……。こっちは何百年も生きてる悪魔さまだぞ。ほら、喰らえ』
悪魔が腕をふってパチンと指を鳴らすと、まるで部屋が狭まってくるような圧力をもって壁が前進しはじめる。
その壁の前に生えていた草はおろか、寄宿舎からながめることのできたサクラに似た巨木までも、一瞬にして灰となった。
太陽をも思わせるその灼熱の温度に、マクシミリアンが思わず「ひっ」と悲鳴をあげる。
「マクシミリアンさま、失礼いたします!」
そう吠えるや、ぽいっとコマンゾネスが少年をうしろのほうへ放り投げる。
間髪容れず、素手にてその壁を抑え、進行をとめてみせる。
「コ、コマンゾネスさまッ! 素手で燃えさかる炎を抑えこむようなもの……無謀ですッ!」
「ふふ、筋肉を鍛えさえすれば……この程度の熱は無効化することができるようになるのですよ。悪魔さんには、これから楽しい楽しい拷問タイムが待っていますからね……!」
その言葉の勢いどおり、隆々たる筋肉の盛りあがりによりピタリと壁はとまり、コマンゾネスが不敵に笑ったことで悪魔は『ひいッ!』とさけんだ。
しかし──壁は停止しただけであった。
悪魔のもとまで押しかえそうと足をつっぱり、全身あますところなく躍動させたコマンゾネスの全力をもってしても、炎の壁はピクリとも動かない。
『そうだ……そうだよ! 魔術師の精鋭が10人いてようやく対抗できるこの最強魔法が、人間ひとりごときの、しかも物理的な力でとめられるわけがないんだ。見ろ!!』
喜色満面に変わった悪魔が、鬼の首をとったように指をさす。
ズズズと、ごくわずかにではあるが、コマンゾネスの足先が土をえぐり、壁に押されはじめたのである。




