第13話 マッチョ令嬢、膝をつく
まばたきをした、ほんの一瞬であった。
距離を置いて対峙していたはずのオーランドの、姿がかき消えた。
それが認識できた瞬間、すさまじい衝撃がコマンゾネスの胸部に走った。
オーランドは振り抜いてうしろへ行くと、瞬時に反転して今度は熱く燃える刀身で背なかを焼いた。
移動速度をのせた強烈なる一撃が、あらゆる方角から、胴、脇腹、太もも、肩と、倒れるいとまさえ与えず幾度も降りそそぐ。
その攻撃のひとつひとつが、パンプアップしたコマンゾネスの筋肉を、その筋繊維をひきちぎらんばかりの威力を帯びている。
比類なき炎の使い手である彼が加速したあとには、その軌跡に応じて土がへこみ、チリチリと残り火が燃えている。
まるで、コマンゾネスを中心として、真紅の蓮が花ひらいたようであった。
「これがおれの武技──〈紅蓮〉だ」
最後の一撃を振り抜いたあと、オーランドは静かに振りかえった。
「わが一族が得意とする火の魔法を極限まで圧縮し、おれが一心に鍛えあげてきた剣術にのせる……これに耐えることのできたやつは、モンスターも含め、存在しない」
そう語り、オーランドが剣をひと振りすると、まとっていた炎が消えた。
コマンゾネスの両の膝がくずおれ、対人戦において、これまで一度としてついたことのない膝に土がつく。
2メートルを超えるコマンゾネスの身長であるが、膝立ちの姿勢になると、180センチほどの身長のオーランドが見おろすかたちになる。
オーランドはクイッと、コマンゾネスのあごをもちあげた。
「ふぅん、こう見ると目鼻立ちはわるくないのにね……。キミが筋肉なんて鍛えず、すなおに座って、笑って、女の子らしくしていれば、こんなに痛めつける必要もなかったのに……」
コマンゾネスのからだのあちこちで火がくすぶり、皮膚の焦げるにおいとともに黒い煙が立ちのぼる。
オーランドのひとみがゆらいだあと、煙をかきみだすように大上段に剣をかまえると、ふたたび剣が灼熱の炎をまとう。
底冷えのする、陰惨さが練りこまれたような声で、つぶやいた。
「……死ね」
鍛造によってこの世で最も硬くなるともいわれる黒曜石の剣が、彼の魔法により必殺の凶器と化して、コマンゾネスの頭上へと振りおろされる。
頭蓋骨が割れるような、音がした。
「なかなか、効きましたわ」
ほそく息を吐くとともにそう言葉を発したのは、むろん、コマンゾネスである。
頭部を割ったかと思われた剣は彼女の厚いてのひらにおさまり、ふたたびボギンッと音を立て、彼女が指に力をくわえるごとに砕かれてゆく。
「こ、鋼鉄よりもはるかにかたい、黒曜石が……!」
オーランドは驚嘆し、上体をそらし、たじろいでいる。
ズシンと地を震わせ、コマンゾネスが片膝を立てた。
「東方の国では、お灸といって、焼いた草をからだの上にのせる治療法があるといいます……試したことはなかったのですが、こんな感じなのでしょうね。よく焼いてもらえて、肩コリがなんだか楽になりましたわ」
立ちあがって首を鳴らすと、ボキリという小気味よい音が闇夜に反響する。
「き、き、効いてないというのか……! おれの、おれの本気の剣が……ッ」
「ですから、効きましたよ……肩コリにね」
これは、むろん、コマンゾネス一流の強がりである。
全身の筋肉を最大限にまでかためていたにもかかわらず、内臓が破裂したかとうたがうような衝撃に、もし武術大会であれば相手を称賛したであろう卓越した武技であった。
しかし、戦いの場において、「自分の攻撃が通じない」と思わせることは相手の無力感を強く呼び起こすことをコマンゾネスは熟知していた。
だから、その場でうずくまりたくなるような肉体の痛みは歯のあいだに捨ててすりつぶし、なんでもないことのようにニコリとほほえんでみせるのだ。
「筋肉を鍛えたおかげで、わたくしは、わたくしの信じるところをつらぬき、この国をまもることができるのです……。女の子らしくあることはできませんでしたが、わたくしは、それを悔いてはいませんわ」
「そんな、負けるワケない、おれが、負けるワケが……ッ!」
「ぬぅん!!」
コマンゾネスの大地をも砕く拳が、オーランドの腹部にぶちあたった。
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