第10話 火のハンサム vs 第五王子
「え、ええ……?」
せっかく話しかけたのに、コマンゾネスがろくろくこちらを見もしないで寄宿舎に入っていったことに、オーランドがとまどう。
それから少し遅れて──
「コマンゾネスさまッ!」
王国の第五王子であるマクシミリアンが、ベネクトリックスを連れてあらわれた。
風の魔法を得意とする一族に生まれた彼もまた、12歳という幼い年齢でありながら周囲よりも早くおぼえた魔法〈風の具足〉にてやわらかな風をまとい、疾く馳せ参じたのであった。
アレクシスのみ「彼女が行けば大丈夫だろ」と言い、自分は前後の処理のために手をまわしておくということで同行しなかった。
「ククク、ハーハッハッ!」
気をとり直したように、オーランドが高笑いを発する。
火焔が立つようにうねる真っ赤な髪、壮烈なまなざしに宿る極限まで熱された鉄球のような赤いひとみ、頬に走る彼の一族特有の炎に似た赫々たるアザ、しなやかでありながら鍛えぬかれた精悍な体躯──彼もまた「ハンサム四人衆」の看板に恥じぬひとりのハンサムであった。
「オーランドさま……なぜ、なぜこんなことを」
ベネクトリックスがオーランドに問いかける。
「なぜ……? だれかのピンチが生じれば、コマンゾネスくんを呼び寄せることができる。王国を攻めるにあたって一番の障害は、あまりにも常識はずれの筋肉をもつ彼女……彼女を殺しさえすればあとはたやすい。中で焼け死んでくれればそれでいいし、そうでなくても……」
夢を見るように、うつろにそううそぶくと、突然かぶりを振ってうめく。
「王国を……? おれは、なにを……」
「……! オーランドさま、目をさまして! あなたはいま、悪魔にとりつかれているのです。強い意思のちからで、振りはらってください!」
悪魔とせめぎ合うように葛藤するオーランドに、ベネクトリックスはけんめいに呼びかけた。
しかし、彼は苦悶をつづけたのち、ほおを引きつらせて笑った。
「気もちがいい、気もちがいいんだ……。ずっと抑圧されていたなにかが、解放されたような気分……。見ろよ、この美しい、巨大な炎を! あの1つの汚点をのぞけば順調すぎるほどだと思っていたけど、秘められていたおれの力は、まだまだこんなにもあったんだ。汚名をすすぎ、すべてを思うとおりにしたがえるだけの魔力が、おれにはある……」
天高く燃えあがる寄宿舎を背景に、陶然と語るオーランドの漆黒のような白目から、黒い涙のようなものが流れる。
あらがいの果ての理性の流出のようにも見えるが、口調はオーランド本人のもののようにも聞こえ、悪魔の支配がどこまでおよんでいるか外部からははかれない。
「もう多くの生徒が中で休んでいたであろうはずの時間……彼らごと火をつけたのですか!」
「なかの生徒は眠らせてやったから、苦しくはないさ。それに、王国が崩壊すれば、どうせどこかで死ぬ命……なにを惜しむことがある?」
うすら笑うオーランドを見かねて、木剣を手にずずいと前へ出るものがあった。
──マクシミリアンである。
「貴族にあるまじき言動、フィレムロイ公爵家のご子息ともあろうものが、ご自身の立場を忘れてご乱心のようですね。ここはぼく、いえ私が」
少し声をふるわせながら、寄宿舎のほうへちらりと視線をやる。
もしかしたらコマンゾネスがどこからか見ていないかと期待しているのである。
「コマンゾネスさまの、あのうるわしき筋肉をわずらわせるまでもありません。オーランドさま、この一撃で、目をさましてもらいますよッ!」
そう自身をはげますようにひと声吠え、さらに、
「〈風の具足〉!」
と風の魔法をまとって突風のごときスピードでオーランドへ迫っていく!




