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会長選演説

「あ、柚木行くの?」

「あぁ、そろそろ放送室行かないとな」


 昼休み、皆が昼ご飯を食べ始めようとしている時に俺は放送室に向かう。

 正直、腹が減って仕方ないのでとっとと終わらせたいところだ。

 やることは、単純会長選に向けての演説。

 ここでは、軽めで短めのインパクトのある演説が好ましい。


「って言っても別に何しゃべるかは決めてないんだけどな」


 二週間後に五限目を使って本演説と、推薦人による応援演説がある。

 そこで、ちゃんとした演説があるため、ここでは軽めな方が良いのだ。

 それはそれとしてだ。


「何話そうかな……」


 マジで何にも思いつかないんだよな。


 そうこうしているうちに、放送室の前に着く。


「「あっ」」


 純白もちょうど着いたらしく、自分で書いた紙の演説を読み込んでいる。

 

「キミも来たんだ」

「そりゃ来るだろ」

「ちなみに、何か演説内容考えてきたの?」

「いや全く」

「はぁーやっぱりね」


 純白は呆れた顔で俺を見てくる。


「別にいいだろ。そんな気張ってるわけじゃないんだから」

「私はまじめにやってるんだけど……」

「俺は俺、お前はお前。おっけー?」

「まぁいいわ。それじゃあ私の後に演説する?」


 少し考えてみる。

 もし、純白が先に演説したとする。

 ちゃんと事前に考えられた演説をするわけで、それを見た後に真似をすることができる。

 これが利点なわけだが、問題はそう上手くいくかって話だ。

 

 もし真似できなければ、純白の劣化コピーの誕生だ。

 そんなの、演説が終わった後になんて言われるかわかったもんじゃない。

 なら、先に演説する一択である。


「俺が先でいいや、お前が後に演説してくれ」

「逃げましたね?」

「逃げることだって戦略だからな」


 演説の順番も決まったところで、俺らは放送室に入る。

 放送室特有の吸音性のある壁になっており、音が響かないため変な気分になる。

 スイッチを入れ、マイクの音を確認する。


『あーマイクテスト、マイクテスト』


 Lineに火野から大丈夫だよとメッセージが届く。

 それを確認し、気持ちを切り替える。

 今から俺は白身派のトップ、城宮柚木だ。

 口から出まかせ、嘘でいい。自分を偽り続けろ。


『どうも城宮柚木です』

 

 いつもより、少し高い声を意識する。


『皆さんいかがお過ごしでしょうか? ちなみに俺はですねー。あまり良くないですね』


 たわいない話。

 そこから入っていく。


『だってそうでしょ? 今いがみ合ってる相手がいる環境なんだから。だから俺はそこをどうにかしたいって思ってる』

 

 俺が取れる最大の戦略。

 それは――――


『お互い不干渉にしないか?』


 相手と関わらないと言う事だった。


『正直今だってみんな思ってると思う。分かり合えないんじゃないかって。そりゃそうだ、好きなものが。一番が譲れないものが違うのに、そいつらと分かり合えるわけがない!』


 俺が出来ることはこれくらい。

 不干渉、これは双方メリットがある。つまり票が集めやすい。


 これが、柚木の取った選択だった。

 過去に世界を変えようとした少年が、世間にもまれ、行きついた結果。

 そもそも干渉するから争うのだ。

 干渉しなければ争う必要がない。

 それが結論だった。


『俺は、それを最終目標として掲げます。以上で城宮柚木の演説を終わります』


 ふぅ。やり切った。


「なかなかいい演説じゃないですか」

「珍しいなお前が褒めるなんて」

「ただまぁ、内容に対しては結局逃げるんですねって感じでしたけど」


 上げてから落とすとか、なんなんだコイツ。


『変わりまして、輝実月純白です』

 

 そんな純白の演説のお手並み拝見だ。


『こんな世界は間違っている。そうは思いませんか?』


 コイツマジか……

 いきなり、ぶっ飛んだ事を言い始めた。

 否定から入る。それは聞き手にストレスをかける事である。

 炎上目的や最初のインパクトはあるが、博打も良いところだ。


『生きづらくはないですか? 楽しいと本当に思っていますか? 好きな物を好きと言わず、誰かを蹴落とすことで好きを証明するこの世界に疑問はないですか?』


 その言葉を聞いて胸が痛くなる。

 自信満々にマイクに向かって話す純白の姿が、重なる。

 しかし、偶々だと思い頭を振る。


『私はどっちが美味しいのではなく、どっちも美味しいと言える世界にしたいと思っています』


 だがしかし、その偶然が偶然じゃないことを純白の言葉から察する。

 だから、それ以上続けないでくれとも願っている。

 その発言は今の彼女の地位を揺るがしかねない。


『私はこの世界を今よりも少しだけ、良い世界にしたいと思っています。いがみ合うのではなく、助け合える世界にしたい。』


 しかし、俺の予想とは裏腹に彼女は『統一』ではなく、『共存』を提示した。

 そのことに安堵しつつも、演説自体には思う所があった。

 あまりにも、似ているのだ。

 内容も、話し方も。まるで、かつての俺の様に。


『以上で、輝実月純白の演説を終わります』


 純白はやり切ったような顔で胸をなでおろす。


「お前今の演説……」


 俺の言葉を聞いて、純白はこちらを向いて静かに笑った。

 その笑顔が何故か瞼に焼き付いて離れなかった。


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