輝実月純白の日常
その次の日から私は早く学校に来る。とかではなく、いつも通り朝の六時に登校する。
六時に来るのには理由があった。
校舎裏の清掃、校内のごみ掃除があるから。
「今日もかなり汚れてるわね」
放課後にここで何かやっているらしく、それのせいでかなりインクが飛び散っている。
テニスコート一面分くらいの大きさがあり、壁から地面にまで白と黄色のインクが付いていた。
「あまり、高いところだと手が届かないんだけど……」
少し良いかなって思ったけど、どうやらそれが問題になってしまっているらしい。
だから今日はこちら! 脚立を持ってきましたー! ぱちぱちー。
「はぁ……何やってんだろ」
これで高いところも奇麗にできるようになったので、とっとと奇麗にしてしまおう。
このインク消えずらいんですよね。
なんのインク使っているんでしょうか。
学校の絵の具な気がしますが。
校舎の壁、地面を奇麗にする。
「やっと終わった……」
一時間くらいやっていただろうか、奇麗になった校舎裏を見て達成感とともに、疲れが来る。
しかし、そうも言っていられない。次は校舎内のゴミを片付けなければならない。
「七時半まであと三十分。ちょっと早めに動かないとですね」
七時半からは他の生徒の登校時間。それまでに終わらせて、朝の挨拶として昇降口前に立っておかなければなりません。
これは、今日から始める事ですがどうにかなるでしょう。
とりあえず今はゴミをどうにかしなければ。
ゴミは廊下に落ちており、放課後に掃除の時間があるのでその後に汚れていることになる。
「にしては多いのよね……」
ティッシュの丸まったゴミや、ペットボトルまで大小さまざま。
学校自体はかなり大きいため、燃えるゴミ用のごみ箱とペットボトル用のゴミ箱を二つ持って行動する。
普段使っている教室前は比較的奇麗なのだが、普段使わない教室前。そらにその中はひどい有様。
早歩きでそれらをトングで回収していく。
高等部に入ってからこれをやっているので、慣れた手つきで終わらせていく。
汚い場所に着いたらゴミ箱を下ろし、そこに向かってゴミを投げる。
良くはないだろうけど、これが早いのと慣れた私にとってはもはや余裕である。
そうして何とか、七時三十分前に終わらせた私は昇降口前に急ぐ。
「あ、輝実月様おはようございます!」
「えぇ、おはよう」
「朝の挨拶ですか?」
「そうね、今日からやろうと思っていて」
「そろそろ、会長選ですもんね……私輝実月様のこと応援してます!」
「ありがとう。あなたもテニス部がんばってね」
「あ、ありがとうございます!」
女子生徒は、テニス部と言われたことに驚きながらもお辞儀をして校舎内に入っていく。
全校生徒の顔と名前と所属している部活を把握し、記憶しているためこれぐらいなら造作もない。
正直覚えるのめっちゃ苦労しましたけど。
朝の部活がある人が、少しづつ来ていた。
八時前になると早めに登校する人も増えてきて、そのタイミングで彼、城宮さんも来た。
「……おはようございます」
「……あぁ、おはよう」
お互い一応の挨拶。
昨日あんなことがあったからか、正直気まずい。
彼はなんとも思っていないかもしれないですが……
すると、荷物を昇降口に置いて彼も隣に並んでくる。
「何してるんですか……」
「見ればわかるだろ、挨拶すんだよ」
「……そうですか」
確かに、私がしているのに彼がしていなかったとなれば色々都合が悪いでしょう。
彼は確かに、会長選に出るとは言っていましたが勝つつもりはないはずです。
ならば、接戦での敗北が望ましい。
も大敗を喫することがあれば、それは大きな的になり、たちまち批判されてしまう。
それは嫌だと言う事なのでしょう。
本当に彼は変わってしまったのですね。
純白は知らない、柚木が中等部の時何があったかを。
しかし、保身に走る柚木に何があったかを察することは出来た。
だからこそ、今の柚木を責めることも出来ないし、昔の憧れた柚木の姿を今の柚木に求めるのはエゴだと思い口を閉ざす。
「私は明日も、七時半から挨拶をここでしていますが……どうしますか?」
「七時半って登校時間の最初からいるのかよ……性が出るね」
彼は少しひきつった笑みで私を見た後、少し考えるようにして遠くを見つめる。
「七時半からはしないわ」
「なら何時から?」
「七時四十五分か、五十分だな」
「なぜ、そのような中途半端な時間から?」
それなら今日の様に八時からでいいと思うのですが。
「この学校の生徒の一番登校人数が多い時間ってわかるか?」
「八時ですかね?」
今日の挨拶をしていて、大体八時が一番人数が多かった気がする。
「正解だ、八時十五分までには教室にいないといけない都合上。まともな人間なら少し早めに登校する」
グラフにするなら、八時を頂上にみたて山のような形状になる。
「ならそれより前に来ないと、俺があたかもかなり前から挨拶していましたってポーズが出来なくなる」
「はぁ……キミって人は……」
朝の部活をしている人は私しかいないことを知っているが、他の生徒は朝から二人でやっているように見える。
この差が会長選で接戦を演じるラインと言うことなのだろう。
ここまで徹底していると呆れを通り越して尊敬すらする。
「なんだ? 不満か?」
「……いえ、わかりました。私も覚えていたら飲み物でも買っておきます。朝とは言えど、声を出し続けると喉が渇きますから」
「やったね」
そんな軽いやり取りをしながら、今日も普通じゃない学校生活が始まった。




