腹黒王子様
「それで、だ。ここからが本題だ」
俺は制服を水で洗いながら話す。
「別に何もここで、この遊びをやめろと言いに来たわけじゃない」
「あれ? そうなんすか?」
「あぁ、事実としてこれがストレス解消になってることは確かなんだ」
同じく水で制服を洗っている生徒達も頷く。
「こんなことしてた俺らが言うことじゃないかもっすけど、正直かなり楽しんでました。元々卒業していった先輩たちから受け継いだ伝統みたいなもんですし……」
「それに、黄身と白身で争ってるけどよ。これをやってる時は純粋に相手を認められたって言うか……楽しかったからよぉ」
「そういうもんすか……どうするんですか柚木様」
「ん? あぁそうだな……」
別にどうするかは決めてあるのだが、それはそれとして今はやるべき事がある。
「とりあえずだ、この校舎裏綺麗にするぞ。話はそれから」
この汚れた壁や床をどうにかしなければならない。
まぁ、この人数でやればかなり早く終わるだろう。
と、思っていたのだが……
「お、落ちない……」
「これ、毎回どうやって落としてたんだ……」
あいつまじですごかったんだな。
二年間の経験は伊達じゃないってことなのだろうか?
これを一時間で終わらせていたが、やってみるとそう簡単なもんじゃないことがわかる。
コツとかあるんだろうか?
あったとして、すぐマネできるもんなのだろうか?
「まぁ、聞きに行くの死ぬほど嫌だからやらんけど」
「なにか言いましたか?」
「いやなんでもない、とりあえず口より手を動かせ」
結局一時間くらい掃除していただろうか。
やっと終わったと思ったらみんなその場に座り始める。
「はい、疲れている所悪いがこれを持てお前ら」
「み、水風船? またやるのかよ! やっときれいにしたんだぞ!」
「はいはい、良いからこれ持ってあいつに投げて」
柚木が渡したのは掃除前と同じ水風船を渡す。
生徒たちはこの校舎裏を汚した罰として、また再度掃除させるつもりだと思い必死に抵抗する。
「安心しろ、これはただの水だ」
「ほ、本当ですか?」
「あぁ、もちろんだ神に誓う」
そういわれ投げるが。
「黄色の水じゃないですか! これじゃさっきと一緒だ!」
「まぁ、見てろ。うずら水かけてくれるか」
「了解っす」
地面に付いたインクを水で流す。
すると、先ほどとはくらべものにならないスピードで落ちていくインク。
ついさっきはスポンジや、たわしでしっかり擦らないと落ちなかったのに。今は水で流すだけとは雲泥の差である。
「柚木様これってもしかして……」
「まぁ、このインクなら今後も続けていいぞ」
「本当ですか!?」
「このまま流れても、自然に分解されるし流すだけでいいから掃除も簡単だしな」
生徒達には願ってもない言葉だった。
この学園は外にはかなりいい顔をしている。
そのため縛りも厳しく、ストレスが溜まりやすい環境。
なんなら、食品関係の跡取りがわんさかいる。
この学園はなんだかんだ、卵製品のコネを作るならいい環境ではあるからだ。
そういった周囲の期待やストレスの発散ぐらいさせないと、爆発してしまうだろう。
暴動なんて起こされたんじゃ、たまったものではない。
「それとだ、この紙に全員名前を記入しろー」
「なんすかそれ?」
「ここで行っていたことを正当化するために部を設立する」
「部!? 部活動になるんですか?」
「柚木様いいんすか? こんなことして」
「良いも悪いももう申請はしてきたからな! こっそりだけど」
「後で純白様に怒られても知らないっすからねぇ?」
大変面倒くさいが、生徒会の権限を使って部活を作っただけだ大目に見てもらえるだろう……見てもらえるよね?
「ここを部として認める代わりに、条件がある」
「な、なんでしょうか? 条件とは」
何故か怯える生徒たちを見つめ、その不安は杞憂だと言う。
「一つ目、ここの管理は今後子の部活が責任をもって行う事」
汚れた状態で変えられても困るしな。
「二つ目、部活外の生徒にも参加させること」
ここに集まっていない生徒もストレスは溜まってるだろう。
そういう連中にも開放してあげられる空間を提供して欲しい。
「三つ目、これが一番大事なんだが……スポーツマンシップにのっとり相手を尊重しろ。普段相手を煽ってもいい、蔑んでいても見て見ぬふりをするが、これをやっている最中はそういうのは無だ」
こいつらは身と白身で争ってるけど、これをやってる時は純粋に相手を認められたって言っていた。
なら、そうして欲しい。
争いがない方が良いんだから。
「以上だ! 質問はあるか?」
「そ、それだけですか?」
「あぁ、冬になったら室内に移るもいいぞ、冬場は室内プールあんまり使わないしな」
「部長って柚木様がやるんですか?」
「は? 何でそんなのやらないといけないんだよ、めんどくさい。これでも俺生徒会のメンバーだぞ?」
ここの管理まではするつもりは毛頭ない。
「……他は? ないか? ないなら、今度部活動名も決めて生徒会室へ持っていけ。渡すのは俺じゃないぞ?」
「輝実月様ですか?」
「あたりまえだろ。それにお礼言っておけよ?」
「なんのですか?」
「ここの掃除、二年間してたのあいつだから。それじゃあ、後は勝手にしろ―」
それだけ言い残して去っていく柚木。
「な、なんだったんだあの人……」
「白身派はなんか知ってないのか?」
「わからないけど、やっていったことって俺たちをぼこって、掃除して、部活として認めてくれたんだよな? いい人じゃないか?」
「逆にそこが不気味だよな、確かに俺たちは輝実月様を慕っているし、尊敬してるけど。それとは別の何かがあるって言うか……あの人なら、なんかこの学園任せていい気がしてきた」
腹黒王子、そう呼ばれるには理由があった。
圧倒的な力でねじ伏せ、何を考えているかわからない優しさを見せる。
そのギャップに恐怖を覚えながら、いつしか広まってしまったのだ。
イケメン、高身長、優しく、気軽に話せる。そんな完璧超人が居るわけないと。
半ば嫉妬からつけられたあだ名。
それが、腹黒王子であった。




