主従関係と言うより悪友
その日の放課後。
うずらは校舎裏に来ていました。
もちろん柚木様に言われたからです。
うずらとしては、別に来なくてもいいと言うか……ぶっちゃけ来たくないっすけど、珍しく柚木様がやる気になってるのでまぁ、仕方なくってやつです。
すると、笑い声が聞こえてきます。
水風船をぶつけ合っている生徒。
体にあたったとたん水風船がはじけ、中から黄色や白色の水が飛び散ります。
「これが、校舎裏のインクの謎ですか……」
いたってシンプル。
結局ここでも黄身と白身の争い。
表向きでは争いは禁止されているっす。
しかし、校舎内のゴミもこのインクも陰湿な争いのせい。
柚木様曰く、今まで黙認されてたのは生徒のストレスの吐きどころになっていたことと、次の日奇麗になっていたので見て見ぬふりをしてるんじゃね? とのことでしたが、その説が濃厚っすかねぇ。
結果として、純白のやっていることが裏目に出ていることに、うずらは頭を抱えながら物陰から出る。
「どうもー皆さん。お忙しい所申し訳ないんですけど、ちょっといいっすか?」
「誰だコイツ」
近くに居た大柄の男が近づいてくる。
「誰か知ってる奴いるかー」
「あぁ、確か生徒会に入ってる二年生の……なんだっけな……たしか柚木様のメイドとかなんとか」
「そうっすそうっす。小歩うずらっていいます」
「で、その生徒会の人が何の用ですか? こっちは楽しく遊んでるんですけど」
日頃の鬱憤晴らしで相手を汚している。まぁ確かに水風船だし、あそびっちゃあそびっすけど。
こちらとしては、柚木様に言われていることもありますし、やめていただきたいんですけどねぇ。
「とりあえず、一回辞めてもらえないっすか? 柚木様がもう少しでくるんで」
「あぁ? なんでだよ。別にいいだろ」
「いえいえ、実はこのインクが問題になってまして」
「それこそどうでもいいだろ、明日になってれば奇麗になってるんだ。今日も遊んで明日勝手に綺麗になる何の問題もないね!」
あぁ、流石にその言葉はイラっとしますね。
「あぁ、もういいっすよしゃべらなくて。鳥頭に何言ったって無駄ですもんね」
「は? 二年のくせに先輩に文句言ってのか? コイツバカだろ」
「なら、結構可愛いし参加してもらうぜこの遊びに。まぁもちろん当たってブラが透けても仕方ないってことで! そっちが勝てたら辞めてやるよッ!」
そういいながら投げてくる小柄の男。
めんどくさいっすねぇ。
「白身派六人に黄身派六人。計十二人すかね……文句ある人当ててもらって構わないっすよ。当てられるならですけど」
「はッ! 舐めやがって女一人で何ができるんだよ!」
その場にいた全員が水風船を投擲。
白身と黄身で争っている割にいい連携をするじゃないっすか。
昨日の敵は今日の友ってやつですかねぇ、共通の敵を作れば協力するホント単純な人らですね。
かなりこの裏で投げ合ってるのか、水風船の挙動はうずらめがけて飛んでくる。
奇麗すぎる軌道、どこを狙っているのかわかるほどに。
この人たちホントに変態っすね。
しっかり胸狙ってきてます。
当たれば水に濡れ下着は透けてしまうだろう。
「まぁ、もちろん《《当たれば》》なんですけど」
「は? いやまて、全員投げたんだよな?」
「あぁ、確かに俺らは投げた」
「おいおいおいおい! なら何であいつに一発も当たってないんだよ!」
「も、もう一回投げるぞ! 今度は一斉に投げるぞ」
せーの。と合わせて投げてくる。
無駄なんですけどねぇ。
むしろ上手すぎる投擲はかすりもしない。
その時、うずらに水風船を投げていた生徒はのちにこう語った。
「まるでダンスを踊っているようだった。一切の無駄はなく、投げているこっちが避けているうずらに見とれるほど、壁にぶつかって飛び散るインクも彼女を引き立たせる脇役になり、それはまるで湖に降り立った白鳥だったと」
しばらく投げていたが、当たらなさ過ぎて弾を補充しに行く始末。
「あ、タンマっす」
「あぁん?」
いきなり投げていた生徒を制止させるうずら。
「今更逃げるって言うのかよ!」
「ある意味ではそうかもしれないっすねぇ、真打登場っす」
「すまんまたせな、うずら」
「いえいえ、この方たちが遊んでくれたので」
真打と呼ばれたその人を見つめ口生徒たちはを大きく開く。
「ゆ、柚木様ァァァァアアアア!?」
「さっき言ったじゃないっすか、あとで来るって」
「なんだ、うずらこいつらと遊んでたのか?」
「そうですそうです。柚木様! 俺たちはなかよーく遊んでただけです!」
「そうなのか?」
「そうっすよ! 決してうずらの胸元を濡らして『ブラを透けてやるぜヒャッハー』なんて言ってないですよ」
「ほう……」
冷や汗だらだらになりながら柚木を見る生徒達。
静かにいや、後ろにゴゴゴゴゴと効果音が付きそうな雰囲気を纏っている柚木。
なんなら血管も少し浮き上がってないだろうか?
「いやまぁ? 俺もこの遊びで勝敗を決めるのは悪くないと思うぞ。だから俺も参加しよう」
「は、はい?」
「一対十二だ良いハンデだろ……だがもし俺が勝ったらどうなるかわかってんだろうなぁ?」
「お、お前ら! 絶対に勝つぞ! 絶対だ! じゃないと俺らは死ぬ!」
先ほどのうずらを狙った時以上に気合が入る生徒。
だがしかし、どこかで慢心していた。
相手はたった一人、さきほどは女子生徒にすら当てられなかったが、柚木と言う人物は良くも悪くも普通の評価だった。
城宮家の跡取りでありながら、積極的にな何かをしている様子はなく、むしろ純白の評価が高いせいで、大したことがないのではないかとうわさが流れる始末。
でも、噂は噂。
だって、その人私より強いっすよ。
生徒たちが投げた瞬間、水風船が自分たちの顔に当たっていた。
「は……?」
あまりの出来事に何が起きたかわからない生徒達。
それもそのはず、柚木は丸腰。水風船なんて持っていなかったはずなのに、何故か柚木の方向から水風船は飛んできていた。
「あらまぁ、先輩たち柚木様がやったことわからないって顔してますね」
実際、気づいていた時にはもう当たっていたという感覚。
慢心していたこともあって、目で追っていなかったのだ。
「なら教えてあげますよ……単純っす水風船を投げ返した」
「待て! おかしいだろ。あの勢いの水風船をキャッチしたらそれこそ濡れちまう!」
「そこがミソなんすよねぇ。腕をしならせ鞭のように衝撃を吸収してはじき返してますよこの人」
やったことを聞いても理解できない。
それは人間ができる技なんだろうか。
「にしてもきもいっすね柚木様。腕がウネウネしてましたよ」
「いやお前、水風船全部避けてるほうがきもいだろ」
「……なんでしってるんすか、うずらが全部避けたって」
「…………」
「柚木様?」
「……ほら、あれだ! 壁のインクの跡で!」
「ゆ、ず、き、さ、ま?」
「えーと。もしもうずらが濡れたら制服を肩にかけてかっこよく登場しようとしてたから、一部始見てますハイ」
「このクソ主がァ」
「おい! 待て早まるな! その水風船、制服に付いたらシャレにならない! まって! 俺が悪かったから! まじで! アァァァァァァアアアアアアアアアア!!!」




