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目白雪の苦悩

 ウチは……わたしは中等部の頃は一人だった。

 人付き合いも上手くなく、学校に居場所なんてなかった。

 でも運動には自信があったけど。

 唯一入っていた陸上部も、先輩より良いタイムが出たりして浮いてしまっていた。


 割と人生こんなもんかとも思っていた。

 人間関係を構築出来ないのは、自分のコミュニケーション不足ではあるし、運動も全力でやったうえで先輩より早くなったのだから仕方ない。


 目白雪と言う人物は意外と楽観的と言うか、基本的に他人に興味がなかった。

 基本的に別にどうでもいいが口癖であり、誰も近づこうとしなかった。

 実際一人の方が楽だと思っていたし、それでいいと思っていた。

 しかし、ある日一人の少女が話しかけてくる。


「ねぇ、目白さん……なんであなたは一人でいつもいるの?」

「……え?」


 あまりにも、無神経な質問。

 それに驚き、わたしは顔を上げる。

 同じクラスの輝実月純白。輝実月家の跡取り娘と言う、わたしが話すこともおこがましい人が話しかけてきた。


「一人なのをよく見かけるのだけど、一人でも大丈夫なの?」

「……あの――」

「出来れば一人でも大丈夫になれる方法を教えて欲しいのだけど」

「ちょっと待って」


 なんなんだ、この女。

 あまりにも失礼すぎる。

 別にわたしだって、一人になりたくてなったわけじゃないのに、それを「一人でも大丈夫な方法」を教えてとはアホなんじゃないだろうか。


「待たないわ、私にとってそれが大事なことなの」

「はぁ、わからないけど、わたしあなたの事嫌いだわ……質問に答える気もないからどっか行ってくれない?」

「……そう。わかったわ」


 案外あっさり諦めたなと思いつつその日は終わった。

 しかしその次の日。


「一人でも大丈夫になれる方法を教えて欲しいのだけど」

「はぁ?」


 その次の日。


「また聞きに来たわ」

「あねぇ……」


 そのまた次の日。


「そろそろ教えて欲しいのだけれど」

「アンタバカでしょ」


 それから一週間ぐらいだろうか、その質問は続いた。

 こっちもめんどくさくなってついに答える。


「別に一人で大丈夫な人間なんていないよ」


 本心だった。

 寂しくないと言えば噓になる。

 でも、世の中は誰にでも優しくは出来ていない。

 優しい人には優しいだろうが、厳しい人にはとことん厳しい。

 ならどうするか、諦めればいいのだ。


「でも、あなたは平気そうにしていないかしら?」

「別に平気なわけじゃない、気にしないようにしてるだけ」

「そう……残念だわ」


 質問の答えが返ってきたが、思っていたものじゃないからかガッカリしている。

 これでまた明日から一人。

 むしろ静かになって楽になる。


「それじゃあ、はい」

「……え?」


 差し出された手。

 意味が分からず、思考が停止する。


「どうしたの?」

「いやいやいや、こっちのセリフ。なにそれ」

「友達になりましょう」

「――はぁ?」


 どうしてそうなった?

 こいつの思考回路が分からない。


「別に一人は大丈夫じゃないって言ったわよね」

「それは……そうだけど」

「ならよかった。私も一人は大丈夫じゃないの、だから友達になりましょう」


 普段のわたしならバカにして終わっただろう。

 なのに何故か今日良いかなっって思えてしまった。

 それに、輝実月純白の笑顔に見とれていたら、手を取ってしまった。


「はい、これで友達……やったね」

「く、くだならいなぁ」


 目が潤む。

 頭では諦めていた友人。

 でも、心のどこかでは諦められていなかった。その気持ちがあふれ出す。


「泣いてるの?」

「うるさいなぁ」

「大丈夫。私も嬉しいから」


 きっとこれはわたしの人生の転機だ。

 この人を大切にしようと思った。

 そう思っていたのに……


「私、勉強しようと思うの」

「い、いきなりどうしたの?」


 頭も悪く、正直学年でも下の方だろう。

 そんな、勉強嫌いの純白が勉強したいなんて言いだすなんて明日は雨だろうか。

 次の日も。


「私、運動出来るようになりたい」


 その次の日。


「私、人と話せるようになりたい」


 また変なこと言いだしたと思っていたのだ。

 でも違った。

 高等部に入ったら勉強は学年一位。運動も運動部の人からスカウトが来るほどに上達。

 誰からも尊敬される、輝実月純白の姿がそこにはあった。

 正直捨てられたと思った。


「純白! どうしちゃったのいきなり……そんな完璧超人みたいになっちゃって」

「私、どうしても助けたい……憧れた人が居るの」

「だ、誰それ……」

「中東部の頃にあった昇降口前の演説覚えてる?」


 確かにあった気がする。

 あの変な演説。

 確かしていた人は――


「城宮柚木、私は彼の隣に立ちたいの」

「ちょ、ちょっと待って。あんな人の言ってたこと信じるって言うの? 卵が元々一つだとか、世界を統一するとか! あんなの陰謀論者じゃん!」

「彼の言っていたことは嘘じゃないわ」


 唐突に突きつけられる事実。

 普通なら、嘘に決まっているで終わりだ。

 しかし、目の前に居るのは輝実月家の跡取り。

 この学園の創設者のひ孫。

 おそらく本当の事なのかもしれない。


「私はこのどうしようもない世界に絶望していたけれど、彼が見せてくれたの。この終わった世界での生き方を」


 少し遠くを見つめながら純白は言う。


「この終わった世界でそれでも、自分の信念を貫く姿に私は憧れてしまったの」

「そ、そんなの――」

「だから、ごめんなさい。私いかないと」


 そう言いわたしから離れていく。

 あぁ、やっぱり嫌いだ。

 この世界も、純白をたぶらかした城宮も。

 そして、友人の気持ちに気づけなかったわたし自身も。


 次の日から私は変わった。

 髪を金髪に染め、ハーフアップにし、明るく元気に振る舞い。

 気づけば、輪の中にいた。

 やってみればこんなものなのかと思った。


「純白……いや、ましろん! ウチ来たよ、あなたのやりたいこと手伝えるようになったよ」

「えぇ、ありがとう」


 それから情報収集、学校の現状などを聞かれることが増えた。

 でもそれだけだった。

 ましろんが、朝早くからやってることも知ってた。だから手伝おうとしたけど。


「これは私のやらないといけない事だから」


 何でも一人でこなす完璧超人。

 このレッテルが張られた今、私は何もできなかった。

 本当はしたかったけど、ましろんが頑張って作ったイメージをウチが壊せるわけなかった。

 なのに、あの男は――


「だからどうした? やれよそれでも」


 なんてひどい言葉だろうか、人の覚悟をあざ笑うかの如く、言い放たれた言葉はウチの心をえぐる。


「ウチだってましろんを手伝いたいよ!」


 気づけば言ってしまっていた。 

 言わないようにしていた言葉を。


「ならすればいい」

「でも、やったらましろんのイメージが」

「安心しろ。俺がいる」


 な、なんなんだこの男は。

 どこから出てくるんだこの自信は。

 人の心に土足で上がり込み、だからどうしたと言ってくる。


「勝手にやれ、俺も勝手にやる。世の中をかき乱してやる。」

「ほ、ホントに手伝っていいのかな?」

「むしろやってもらわないと困る」


 あぁ、それでもこの身勝手な男に今だけは感謝したい。

「あ、ありがと――」

「勘違いすんな、別に純白のやり方を全く認めてない。むしろ俺は敵対者だ。だから利害の一致でしかない相手に俺は言わなくていい」


 なんなんだコイツ。

 やっぱりコイツは嫌いだ。

 でも、相手の思惑通りだったとしても。今ウチは――わたしは友人の為にやっと動ける。

 朝の昇降口、そこに走って向かう。


「ましろん! 来たよ!」

「――ユキ!? あなたなんで!」

「手伝いに来たんだよ!」

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