表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
巻き込まれ異世界召喚、なぜか俺だけ竜皇女の推しになった  作者: ノラクラ
第二部 強者尊ぶ竜皇国-ヴァルゼリオン

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

77/79

77.執行者と皇女と、笑うお婆ちゃん?


レオリクスの脇をすり抜け、

俺の隣まで歩いてきたシアは、ゆっくりと振り返る。


【思考伝達】で『後は任せて』と言う彼女の声が届いたことで、

俺は一度、深く息を吐き、荒れかけた心をなんとか落ち着けた。


「竜の天秤・執行者

 レオリクス・ヴァルグラディオ様。

 まずは、この状況の説明をお願いします」


「これはこれは、シンシア第二皇女殿下。

 なぜ貴女がこちらに?」


「質問しているのは、私ですが?」


静かな声音に、この場の空気が一段冷える。


しかしレオリクスは、

特に気にした様子もなくやれやれと肩をすくめるだけだった。


「端的に言えば――私が勇者殿に名を尋ねたところ、

 そこに転がっている侍女に吼えられたので注意した――。

 それだけのことです」


「コイツ……!」


思わず前に出かけた俺を、シアが「大丈夫」と小さく口にする。


≪さっき竜の天秤の執行者って言ってたし、

 ここで俺が騒げばシアに不利になるかもしれない……≫


移動中にセリィから聞いた話では――


・先代竜王とともに引退した上級竜――“古竜”と呼ばれる竜たち

・観測者が二名、執行者が二名、まとめ役の調律者が一名の組織であること


と教えてもらったことを思い出す。

シアは俺が落ち着いたのを見て、視線をレオリクスに戻す。


「なるほど。

 つまりレオリクス様は――私の護衛兼専属侍女、

 セリーネ・ヴァルティエルが注意された程度で気を失った……と言いたいわけですね?」


「ヴァルティエル?

 確かあの家の子供に黒髪はいなかったはず……。

 ああ、この娘が魔族との混血ですか」


その言葉を聞いた瞬間、周囲の空気が変わった。


先ほどまで凛としていたシアから、濃密な怒気が噴き出す。

だが、すぐにふぅっと息を吐いてその怒りを鎮めた。


「次、その発言を耳にした場合――

 竜皇たる父より、調律者である叔父へ正式に抗議していただきます。

 さらに久遠の竜都にて現指導者を務める祖父にも、報告させていただきます」


その言葉に、レオリクスの表情がわずかに歪み、

渋々といった様子で、口が過ぎましたなと頭を下げた。


「さて、改めてお聞きします。

 なぜ、私の“魂約者”の部屋に無断で侵入し、

 護衛兼専属侍女を気絶させたのでしょうか――

 納得のいく説明をお願いします」


「そちらの侍女殿を、誤って気絶させてしまったのは認めましょう。

 しかし、勇者殿の部屋に入ったというのは誤解ですな」


「私は先ほど“魂約者”と申し上げましたが。

 その意味を、レオリクス様はご存じないのでしょうか?」


数瞬の沈黙が訪れる。


すると、何かに思い至ったのか、

レオリクスの顔があからさまに歪む。


「……なるほど。

 皇女様は魂約者の思考を“勝手に”覗いた、と?」


「許可は取っています。

 もっとも、レオリクス様に指摘される理由も分かりませんが。

 そして私の質問には、いつお答えいただけるのでしょう?」


言い切った瞬間、レオリクスから

先ほどまでとは比べ物にならない威圧が放たれようとし――


その瞬間、わずかに紫電が走る。


「アハハハハ!ダメ!もう無理!お腹イタイ!

 よじれそう~!!アハハハハ!!」


突然、俺たちの“真横”から笑い声が響き、

その場の全員が反射的に振り向く。


そこには――いつからいたのか、

紫の髪をポニーテールにした美女がお腹を押さえながら笑っていた。


「トルシア様!?」

「なぜ貴女がここに居るのですか」


驚愕したシアに名を呼ばれたその女性を、

レオリクスは鋭い視線で睨みつける。


そんな中、状況についていけない俺は、

こっそり【思考伝達】でシアに問いかける。


『また新しい人が来たけど、この人って誰?』

『えっと、この方は――』


シアが答えかけた、その瞬間――


「こぉ~ら!」


軽やかな声が、強引に割って入った。


「なぁ~に勝手に、

 アタシの個人情報を暴露しようとしてるのかなぁ~?」


「あ、イタ!?」


トルシアと呼ばれた女性は、そう言うとシアの額にデコピンをした。


ピシッ!という軽い音を響かせ、

シンシアは額を抑えて少し涙目になっていた。


≪あれ……?さっきシアが“痛がった”のか?≫


つまりそれは、常時発動しているはずのシアの【天竜燐】を突破したということ……。


その上、トルシアは“魂約者”同士の【思考伝達】に気づいて話を遮ったのだ。


距離も遮蔽物も関係ない。

第三者には絶対に伝わらないはずなのにだ。


≪もしかして、この人も古竜って呼ばれている人なのか?

 ってことはレオリクスと同じ――≫


トルシアを見ながらそう考えていたことに気が付いたのか、

彼女はぷはっと吹き出して、また笑い始める。


「あはは! キミいいねぇ!

 気に入ったからアドバイスをあげちゃう!」


そう言って彼女は、笑って出た涙を拭きながら、続きを口にする。


「スキルなんて、案外簡単に攻略できるんだ!

 本気でやるなら“技術アーツ”を磨きなさい少年!」


そう言った彼女は、お婆ちゃんからの豆知識は貴重だよと言って終わらせた。


念のため言うが、見た目は二十代前半と言っても通るようなスポーティーなお姉さんで、

決して自分をお婆ちゃんなんて呼ぶ年齢には見えないと補足させてほしい。


「詳しくは君の周りの人たちに聞くといいよ!」


そう言ってから、トルシアはずっと鋭い視線を向けているレオリクスを見る。


「ほら、アタシたちも帰るよ!」


「なぜ貴女に従わねばならないのです?」


「え?なに、文句あんの?

 いいよ小僧!殺してあげるから表でな」


一瞬のはずだった。


エルシェやカイル、アウグスト、そして目の前のレオリクス……。

この国に来ただけでも様々な強者の威圧を体験した。


しかし彼女からは、威圧はもちろ、殺気といった“圧力”が感じない。


そこにあるのは、理解を拒否してしまう“異質”さだけで、

向けられているレオリクスの顔は青ざめている。


「待ってください、トルシア様!」


「あ~ごめんね、シンシアちゃん。

 これ、一応“機密”なんだ!」


「私にも?」


シアに引き留められたトルシアは、

大げさに悩む素振りを見せると、くすっと笑う。


「キミが“次代の竜皇になる”って言うなら、教えてあげるよ?」


その言葉に、シアはきゅっと唇を引き結ぶと、

それ以上は何も言わなかった。


俺は、なんとなく踏み込んではいけない気がして、

静かに事の成り行きを見守る。


「あはは~、困らせる気はなかったんだけど、ごめんね!

 安心できるか分かんないけど、勇者君の部屋に仕掛けられてた細工は解除したよ?

 不安なら、後でヴェルに確認してもらってね!」


さらりと、トルシア自身も侵入していたと口にする。


だが“仕掛け”を解除したといわれ、一先ずは何も言わないことにする。


≪と言うか、あの不審者はなにする気だったんだよ……≫


そう思いながら、レオリクスを連れ去る彼女を、俺たちは黙って見送ったあと、

隣で何かを考え込んでいるシアに声をかける。


「シア……?」

「え?……あ!? ご、ごめんユウト!」


「大丈夫だよ」


そう返し、これからどうするか話そうとした、そのとき――


「……うぅん」


かすかなうめき声が聞こえ、俺たちは後ろに振り返る。


「わたしは……なにを……。はっ!?」


どうやらセリィが目を覚ましたようだ。


レオリクスに気絶させられていたことを思い出し、

勢いよく跳ね起きて、周囲をぐるりと見回すと、シアの姿を見て視線を止める。


「シア……様?」

「セリィ! 目が覚めたんだね!」


今の状況を理解したのだろう。

セリィの表情が、みるみる沈んでいった。


「また私は……」


むにっ。


「し、しあひゃま……?」


落ち込み自分を非難しかけた言葉を、シアが両頬を挟んで遮った。


「落ち込んでてもしょうがないよ?

 それに、セリィがいたから私が間に合ったんだよ?」


そう言いながら、シアはセリィの頬を摘まんでうにうにと揉み始める。


「いひゃいれすよ、しあしゃま~!」


少し涙目になり始めたセリィが言葉にならない抗議をするも、

楽しくなってしまったのか聞いていない。


「シア、そろそろやめてあげたら?」


「セリィのほっぺってね、もちもちすべすべなの!

 ユウトもきっと気に入るよ!」


「シアさん、話聞いてる?」


すると恥ずかしさが限界にきたのか、セリィの目はさらに潤み、

耳まで真っ赤にしながら、シアを押しのけた。


「やめてくださいっ!」


シアは自分がやりすぎたことに気が付いたのか、

頬を押さえたまま、じとっと睨みつけるセリィに声をかけた。


「えっと、セリィ……?」

「シア様とは、しばらく口を利きません!」

「ガーン!?」


珍しく本気で拗ねた様子のセリィに、

シアは自分で効果音を口にしながら分かりやすく肩を落とした。


「と、とりあえず……これからどうしよっか?」


俺は、レオリクスが部屋に仕掛けをしていたこと、

トルシアがそれを解除したらしいことをセリィに説明する。


「そんなことが……」


彼女は静かに考えこむと、少ししてシアへ視線を向けた。


「シア様。安全を考慮するなら、

 一度エリオス様とヴェルミナ様へご報告なさるべきかと」


「うん、私もそう思う。

 ユウトも、それでいいかな?」


二人の小さな喧嘩は、どうやら終わったらしく、

真面目な表情でこちらを見る。


「俺も賛成だよ」


「よし! それならお兄さまの執務室に――ひゅこう!

 ……はへ、せりぃ?」


勢いよく言いかけたシアの前に、すっと立ちはだかるセリィが、


むにっと、シアの頬を両手で摘まみ伸ばした。


「これでお相子です♪」

「おはいらわ~、ひょうわらいねぇ~!(訳:お相子なら、しょうがないね!)」


そんな仲の良い姉妹のようなやり取りに、場の空気が一気に緩む。


「では、参りましょうか」


すました顔で言うセリィ。

だが、その耳がほんのり赤いことには――触れないでおいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ