72.規格外――上位竜を完全封殺
視界から消えたカイルが、俺の“脳内”にモノクロの映像となって映る。
どうやら右側面から蹴り飛ばす気のようだ。
しかし……。
「残念! そこはもう通行止めだ!」
俺がそう呟いた瞬間――
ドゴォン!
青紫の稲妻をまとった爆発が弾け、視界から消えていたはずのカイルが後方へ吹き飛んだ。
その顔には一瞬、信じられないという色が浮かぶ。
――だが、それも刹那。
着地と同時に体勢を立て直し、再び視界から消えた。
「何回やっても無駄だよ。
お前の動きを“予測”して、魔法陣を設置してるんだからさ!」
俺がそう呟いた直後――後方でドゴォン!と爆発音が響く。
さらに上空、前後左右と、間断なく爆発し、
カイルが吹き飛び、消える――それを繰り返した。
時には着地した瞬間に地面が弾け、カイルの体が吹き飛ぶ。
それでも彼は止まらず、俺の視界から姿が消えるも……。
やがて諦めたのか、金色の炎をまとったカイルが姿を現した。
眉間にはわずかな怒気。
だがその瞳は、強敵を見据えるように真っ直ぐだった。
≪さすが上位竜……。【天竜燐】スキルもあってか、服も汚れてないよ≫
あれだけ吹き飛ばされてもピンピンしているカイルの姿に思わず苦笑が漏れた。
「ユウト……テメェ、俺様のことが見えてんのか?」
その声には、どこか楽しそうな色が含まれており少し驚いた。
そして確信する。
――ああ、こいつは質の悪いバトルジャンキーだなと……。
「安心しなよ。肉眼で見えてるわけじゃない。
ただ――今のカイルが好きに動ける状況じゃないってことだけは教えとくよ!」
「肉眼じゃないってことはスキルか……いや、その“魔眼”が正体ってわけだな!」
「半分正解かな」
俺がカイルの動きについていけているのは【竜識眼】と【見識】を使い、
カイルの動きを予測して“脳内”に映し出しているからだ。
もちろん、そんなことは教えてやらない。
「ほら、次行くよ!」
そう言った直後、再びカイルの足元がドゴォン!と爆発した。
どうやら今回は避けられたらしい。
だが、それで攻守が変わることはない。
「竜域・ドラグネスト!」
そう唱えた瞬間、俺の周囲に竜力で作られた複数の玉が出現し――
次の瞬間にはその玉から断続的にドラグバレットが撃ち出され始めた。
「チッ!?」
俺に向かって来ていたカイルはそう舌打ちし、
数発受けるもすぐさま射線から飛び出して周囲を走って回避する姿が俺の脳内に映し出される。
この魔法は展開した竜力の玉から、竜弾を撃ち出したり、連結して防御したりできる攻守一体の魔法。
もっとも、展開できるのは一定範囲までだが、操作は【見識】に任せられるから俺はゆっくりと狙いを定められる。
「竜砲・ドラグブラスト!」
俺はカイルの予測通過地点に手を向けてそう唱えると、
竜力を収束させた青紫の砲撃が、カイルの“投影”を目掛けてへ撃ち出した。
次の瞬間――
そこに本体が到達し直撃。
虚を突かれたのか、防御も間に合わず、カイルは壁まで吹き飛んだ。
≪ホントに……他のスキルとリンクさせた【見識】はヤバいな≫
【竜識眼】には探知に特化した【視覚化】がある。
構造物、魔力の流れ、地形、敵意――あらゆる情報を視覚として捉える。
さらに、動きを投影する【先見】。
そして【見識】の【独立意思】が脳内イメージを補正し、
未来予測に近い精度へ引き上げるというチートもの。
≪欠点があるとすれば……まだ慣れてなくて立ちっぱなしになるくらいだな≫
そう考えながらも突っ込んでいった壁に、
出力を上げたドラグネストで集中砲火する。
ドラグブラストは威力こそ高いが燃費が悪いので、連発はできないからだ。
え?
外道?鬼畜?
改心したわけでもない相手に容赦する理由はないのさ。
それに――
≪これで終わってくれればいいんだけどな≫
瞬間、金色の炎が吹き上がり、瓦礫ごと壁を吹き飛ばした。
観客席に届きかねない勢いだが、闘技場の結界がしっかり防いでいる。
「ま、簡単にはやられてくれないよね」
攻撃を止め、ため息混じりに土煙を見据える。
やがて――
「テメェ……容赦なく撃ちやがって……」
全身ボロボロのカイルが、よろめきながら現れた。
≪竜族だとしても無傷じゃないだろって思ってたんだけど、
なんで、そんなにダメージが入ってんの?≫
あと一発ドラグブラストを当てれば終わり――そう思えるほどにボロボロだ。
正直に言って、強い防御スキルと身体能力を持った相手に、
ここまで通るとは思っていなかった。
そんな疑問に、【見識】が答えを返してくれる。
――解答――
竜力は魔力に対して特効を持ちます。
さらに、マスターの竜力は純度100%。
威力の低い魔法でも、カイルの防御では連続して防ぎきれません。
――。
――なるほど。
竜力を混ぜていても、基本が魔力主体だから当然の結果か。
だとしても、優勢かと言われたら違うと俺は答える。
「マジであの炎、厄介すぎるんだけど……」
カイルが纏っている金炎には回復と補助の光属性が付与されているらしく、
傷がみるみる塞がっていく。
「まるで聖炎だな……」
やがて全快したカイルが拳を握り、身体の調子を確かめたあとに俺を見た。
「あんだけ追撃しといて、回復は待つんだな」
「別に待ってたわけじゃないさ」
「はん、そうかよ!」
次の瞬間、これまで以上の金炎がカイルの体へ収束していくのを感じる。
――どうやら決着をつける気みたいだ。
「この戦い、楽しかったぜ!褒めてやる!」
「そりゃどうも。でもまた接近戦か?」
序盤は遠距離主体だったのに、
金炎をまとってからはそれが一切ないことに疑問を感じる。
「なんだ、気づいてたと思ってたぜ?」
「外に放てるほど器用じゃない、とか?」
俺がそう答えると、カイルは鼻を鳴らした。
「半分正解だ」
「じゃあもう半分は?」
「俺様はな――近距離が一番得意なんだよ!」
そう叫んだカイルがまたも金色の残炎を残して消え、
こっちに向かって一直線に突っ込んでくる。
速度は同じ。
だがまとっている金炎の密度が違う。
――ドラグネストも、ドラグブラストも足止めにはならないと、
【見識】がそう判断する。
ダメージ覚悟で終わらせる気みたいだ。
「そう言うのは嫌いじゃないけど、俺のスタンスは変わらないよ!」
瞬間、自分を中心に魔法陣が展開し、青紫に光り出す。
しかしカイルは止まらない。
やられる前にやってやるよ、と言わんばかりに拳を振りかぶる。
「終わりだユウト!」
俺めがけて放たれ――。
ドゴン!?
ガキン!?
「なっ!?」
カイルが驚くのも無理はない。
突然出現した竜力の壁に攻撃を阻まれたかと思えば、そこに俺の姿はない。
次の瞬間、青紫の鎖が全身に絡みつき、まとっていた金炎すら消えていたのだから。
俺が使ったのは――
“竜壁・ドラグウォール”。
竜力を圧縮し、設置型の壁を生成する魔法だ。
そして――
“竜鎖・ドラコニックチェイン”。
鎖状にした竜力を地面から生やし、相手を拘束する。
さらにスキルや魔法を阻害する効果付きだ。
こんなのがあれば便利だと思って、
【見識】に相談したら作ってくれた。
「悪いね。盛り上がってるとこ水を差しちゃって」
「テンメェ……!」
竜翼を展開し上空へ退避している俺を見上げながら、
カイルが憎々しげに睨んでくる。
「言っただろ。お前のターンはもうこないってさ!」
右手を左手で支え、魔法陣の“三つ目”の効果を発動する。
「竜炎・ドラグフレア!」
「グガァァァーーー!!!?」
青紫の業火が真下にいるカイルを飲み込むと、
闘技場に彼の絶叫が響き渡る。
――威力が高すぎる!
想像以上の出力に、俺は滑空して距離を取ると、
魔法陣と竜翼を解除した。
すると、燃え上がっていた炎も消え、
そこには焼け焦げた地面と――消えかけた金色の残炎。
「あれ……まさか!?」
俺がそれに気が付いた瞬間――。
ドゴン!?
右側から衝撃音。
恐る恐る振り向くと……。
「て、テメェ……ハァ……ハァ……
ちょ……うしに……のる……な……」
体のいたる所を焦がしたカイルの拳は、
ドラグウォールに阻まれていた。
だが、限界だったのだろう。
カイルはそのまま倒れ込む。
その光景に、俺の頬を冷たい汗が伝った。
「マジで……」
しばしの静寂。
そして――
「勝者、ユウト!」
竜王リオネス様の声が闘技場に響き、
歓声とどよめきが爆発する。
救護班が駆け寄り、応急処置を施しながらカイルを担架で運んでいった。
「勝ちはしたけど……この魔法は調整が必要だなぁ」
切り札としてはかなり優秀なので、ヴェルミナたちに相談することにした。
だが心の片隅にわだかまりが残る。
≪下手すれば殺してたかもしれない……
竜族の生命力には助けられたな≫
――そりゃ誰も挑まないわけだ。
俺は改めてそう実感した。




