71.太陽の牢獄、消滅――強敵と認めた双竜家
俺は燃え盛る金炎の中で、冷静に周囲を【竜識眼】で確認しようとした――が。
≪やっぱり、さっきの三人とは格が違うか≫
生意気な中学生みたいに人をコケにしてきた男たちは、
暴風に雷と土石流を混ぜた魔法を放ってきた。
しかも俺を覆うようにして逃げ道をなくす徹底ぶり。
≪それでも、生命力や魔力とかを視覚化して、
【見識】に脳内補正をしてもらえれば透視の真似事ができたんだけど……≫
だが――この金炎の中は、
魔力と竜力が激しく入り乱れてる上に、密度が高すぎる。
「いや、竜族の模擬戦って相手が死んでもお咎めなしとは聞いてたけどさ……
さすがにこれは酷すぎないか?」
この魔法は光と火で純粋な威力を引き上げ、
風で外へ逃げる熱を俺と一緒に中心へと引き戻し、
さらに地属性の“硬化”で地面・魔法陣・結界すべての強度を底上げしている。
≪極めつけはそれらすべてを、竜力でさらに強化してるんだもんなぁ……≫
言ってしまえば、四属性同時使用による脱出不可能な灼熱牢獄――その大幅強化版て感じだ。
「これ、普通に喰らったら塵も残らないよな?」
――肯定――
特殊な防御スキルを持たない場合、
脱出・解除は不可能。確実に焼失します。
術者カイルと同格であっても瀕死は免れないと推測します。
――。
予想を上回る内容が返ってきて、正直言って呆れてしまう。
もう何度となく思ったが、俺は勇者で賓客なのにこの扱いとはどうなのだろうか……。
≪竜族ってどれだけ傲慢過ぎませんかね?
一部の奴ら限定だけどさ……≫
だが――その傲慢さはおいしく利用させてもらう。
「あとどれくらいで解析が終わりそう?」
俺の問いに、【見識】は予想のさらに上を返してきた。
――報告――
過去に使用された魔法、および現在発動中の魔法陣の構造解析を完了。
仮想空間での実験により複数の魔法開発に成功。
分類も終了しています。
また、術者カイルの魔力波長を記憶。
今後発動される魔術へは、より高速に干渉可能。
なお、現在の魔法陣はすでに掌握済み。
いつでも解除できます。
――。
……どうしよう。
金髪イキリ君ことカイルが、少し不憫な気もしないでもない。
【見識】によると、この魔法は最上級クラスらしく、
魔法陣で魔力と竜力の消費を抑えているとはいえ、カイルへの負担は相当だろう。
≪ま、同情なんてしてやんないけどな。
それにしても、掌握してるのに透視ができないとは……。
魔力がカイル由来だからなのかな?≫
俺のちょっとした疑問にも【見識】は律儀に『肯定』と返してくれる。
とは言え、見えないからと不安に思う必要もないだろうと考えた俺は、
三人にした時と同じように、指をパチンと鳴らした。
その瞬間――俺の下で輝いていた魔法陣が、
周囲を明るく照らしていた金炎と一緒に霧散する。
良好になった視界には、額に汗を浮かべたまま茫然としたカイルの姿があった。
「は? どういう……ことだよ?」
「やあ、金髪イキリ君!
鳩が豆鉄砲食ったみたいな顔してるぞ?」
とは言ってみたけど、よくよく考えると俺が
カイル側に立っていたらきっと同じ顔をしていただろう。
だけど、今回は相手が悪い。
≪“見えてしまう情報量”が多い魔法陣は、
視覚化する必要がない分【見識】にとって最高の教材だからな≫
俺は中指と人差し指をカイルへ向け、静かに腕を伸ばす。
そして、未だ呆然としている金髪イキリ君へ告げた。
「ほら、次はこっちのターンだ。
突っ立ってると……死んじゃうよ?」
肘を軽く跳ね上げた瞬間――
ドゴォン!!?
突然の爆発とともにカイルの足元が吹き飛び、俺の竜力を帯びた紫電がわずかに残る。
「ぐっ……!?」
カイルは反射的に飛び退き、防御しながら着地する。
「テメェ……何しやがった……?」
その目には怒りと焦りが、滲みだしていた。
カイルが使った魔法陣をもとにして設置型の簡易的な魔法陣を【見識】が作成し、
彼がポカーンとしている間に仕込んでおいたのだけど、まあ……。
「種明かしするほど優しくないんだよね!」
俺はここぞとばかりに竜力を【竜識眼】に集中――
【鑑定】【看破】を発動した。
だが。
バチンッ、と弾かれた。
≪マジか!? 全力だったんだけど……≫
こっそり見れないなら、気づかれることを前提に使ってみたんだけど、
どうやらそれすら妨害されるようだ。
「おい寄生虫……。
どれだけ俺様たち竜族――ましてや双竜家を愚弄する気だテメエは!?」
カイルの怒気が膨れ上がる。
次の瞬間――その体から金炎が噴き上がった。
しかしそれは、カイルの身体を覆うように収束していく。
――警告――
魔力と竜力の融合を確認。
全ステータスが飛躍的に上昇しています。
――。
その報告と同時に――
カイルが消えた。
さっきまで彼が立っていた場所には、小さな金炎だけが残る。
そして――唐突な寒気に俺は反射的に防御姿勢をとる。
ドガァン!!?
そんな音が聞こえた時には、すでに俺は吹き飛んでいた。
突然目の前に現れたカイルの拳が、俺の【多重障壁】に炸裂。
その衝撃に耐えきれず吹き飛ばされたのだ。
俺は片手をつき、土を削りながら滑走。
かろうじて勢いを殺せたものの、十数メートルも吹き飛ばされてしまった。
「ま、マジで死ぬかと思った……」
とっさに【多重障壁】へ竜力を注ぎ込んだおかげか、直撃はしなかったものの、
Lv8もある障壁が半分以上も消し飛んでいた。
俺はその威力に、もし直撃していたらどうなっていたのかとゾッとする。
≪それにしても、なんだよさっきの速度は……?
まったく見えなかったんだけど……≫
俺は最初から、スキル自体はフル稼働していた。
違うのは――流している竜力の量だけ。
「【竜識眼】でも見切れない速度か。
エルシェ以来だな……」
そう呟き、俺はカイルの次の動きを待つ。
しかし彼は俺を殴り飛ばした位置から動かず、
こちらを少し感心したような視線を向けているだけだった。
「おい、お前……名前は?」
「はい?」
唐突すぎる質問にあっけにとられていると、
カイルは頭をガシガシ掻きながら「名前だよ!」ともう一度聞いてきた。
「霧島悠斗。最初に名乗っただろ」
「俺様は雑魚の名前は覚えねえ」
その瞳に侮蔑はなく、
あるのは――強敵へ向ける戦士の眼。
≪もしかして典型的な竜族は、コイツみたいなのを言うのか?≫
強さを認めた相手には敬意を払う。
それ以外は虫同然――
カイルはまさに、強者至上主義者だと感じた。
「まあいいか。やることは変わらないし」
そう言って立ち上がり、【竜識眼】へ竜力を流す。
「チッ……どこまでも気に食わねぇな、キリシマ」
「いけ好かないのはお互い様でしょ……。
それとユウトが名前で、キリシマは苗字だから」
俺がそう指摘すると、「そうなのか? 悪かったな」と素直に謝ってきた。
……キャラが変わりすぎた違和感に
思考が止まっていると、カイルが右目を指さす。
「テメェ、右目の色が変わりやがったな……
ってことは、これからが本気ってことだろ?」
「あ……そうか。忘れてた」
以前は【見識】を全開にすると、
右目がサファイアの蒼へ変わっていた。
しかし独立した影響か、今は変化しなくなっているのだ。
「一応言っとくが、手加減してたわけじゃないぞ?
お前相手にそんな余裕ないし」
「あ? じゃあどうして……
いや、そんなことはどうだっていいな」
カイルがそう言った瞬間。
今までが何だったんだと思えるほどに、カイルの存在感が膨張した。
その表情には獰猛な笑みが浮かび、まるでこれからの戦いが楽しみでしょうがないと言った様子だ。
「どうせならよユウト……テメェの全力、
この俺様が引きずり出してやるよ!」
そう言った瞬間、再び金炎を残して消える。
また同じように殴り飛ばすつもりなのだろう。
だが――
「残念。ここから先、お前のターンはこないんだなぁ!」
俺はずっと考えていた戦闘スタイルを試すことにした。




