70.激突、太陽の双竜家と竜の勇者!
ドゴォォォーーーーン!!?
凄まじい爆音が、挑戦者三人のはるか後方で轟いた。
遅れて爆風が押し寄せ、闘技場を土煙が覆う。
≪うわぁ……知ってはいたけど、とんでもない威力だな≫
今のは、以前使った竜撃弾を【見識】が改良した魔法――
“竜弾・ドラグバレット”。
圧縮した竜力に銃弾の様な回転を加えることで、
威力を落とさず飛距離を伸ばしている。
「おーい、大丈夫か……?」
弾は紫髪の男の真横を通しただけで、当ててはいない。
さらに“竜縛・ドラグバインド”で固定しているため、
吹き飛ばされることもないし、【竜燐】をはじめとした防御系スキルで、
怪我はしてないはずなんだが……。
「……ダメだ。完全に気絶してるな」
恐怖のあまり失禁しているらしいが、
そこは見なかったことにしておこう。
ちなみに“竜弾”や“竜縛”といった名称は、
魔法の系統を整理するためのものだ。
≪特に俺の魔法はイメージが重要だから、分類しないとぼやけるんだよね≫
ちなみに魔法が増えた理由は単純で、
【見識】が俺の記憶をもとに、次々と構築しているからである。
系統分けまで完璧にやってくれる以上、
専門家に任せるのが一番だと放置した結果、多種多様なスキルが生まれている。
≪これからも増えていくだろうけど、俺としてはありがたいんだよね!≫
そんなことを考えながら、
救護班が三人を担架で運び出すのを見送る。
やがて、静まり返った闘技場に
竜皇であるリオネス様の声が響いた。
「同胞たちよ!魂約者ユウトはその力を示した!
それでも納得せぬ者がいるのならユウトの前へと進むがよい!」
竜皇様が言い終えてから、俺は観客席を見渡すと
今度は誰も立ち上がることはなかった。
無事に認められたようだと安堵しかけた、
その時――。
「竜皇陛下。進言してもよろしいでしょうか」
聞き覚えのある声が静かになった闘技場にかすかに響いた。
「カイル・ヴァルグラディオか……。
その意味は理解しておろうな?」
「はい。私はシンシア様との婚約を望んでいた身。
このまま引き下がるわけには参りません」
俺からは姿が見えないのだが、強化した聴力が会話を拾ってきた。
どうやらカイルは、双竜家が挑戦できないというルールに従い、静観していたようだ。
だが、このままでは正式に決まってしまうとため、
それを阻むべく、リオネス様へ進言したらしい。
その結果――
「これより魂約者ユウトと、
双竜家カイル・ヴァルグラディオとの模擬戦を行う!」
闘技場が歓声に揺れる。
どうやら第二ラウンドが決定したようだ。
≪普段なら勘弁してほしいところなんだけどな……≫
この前の戦闘訓練でエルシェが制裁したとはいえ、
セリィを傷つけられた怒りは消えていない。
俺は通路から現れた金髪の男――
カイル・ヴァルグラディオを静かに見据えた。
――――
「おい、寄生虫……。
シンシアからどれだけ力を奪った?」
すでにブチギレ状態で俺の前までやってくると、
開口一番がそれだった。
「まあ、そう見えるのも無理はないかもな」
「ほう。認めるのか?」
「他の人から見たらって話だよ。
――金髪イキリ君!」
俺が挑発をし返すとカイルの表情が険しいものになり、
周囲の空気が、わずかに熱を帯びた。
「んだとテメェ……」
「俺を寄生虫呼ばわりするクセに、なんで怒るの?」
「自分の力じゃ何もできねぇ奴が粋がるな!」
「あれだけ見せたのに?」
「シンシアから奪った力をだろうが!」
なるほど。
つまり、“本来の力じゃない”と言いたいわけか。
「だとしても――今は俺の力だよ」
確かに最初はシアから与えられた力だ。
しかし今では、それを自分の竜力として扱えているのも事実。
≪今使っている竜力も“自力で生成”したものだしね!≫
それに、誰かに与えられた力であっても、
自在に扱えるようならそれは実力だと俺は思う。
「たまたま気に入られただけのクセによ!」
「君だって、たまたま強い家に生まれただけじゃない?」
「俺様は選ばれた存在なんだよ!」
「シンシアはイキリ君を選んでないよ?」
次の瞬間――
金色の炎が噴き上がり、
カイルの立っている地面が煮えたぎり始める。
それを見たリオネス様の声が闘技場に響く。
「ふむ、両者ともに戦意が高まったようだ!」
どうやら、この舌戦もそろそろ終わりらしい……。
であれば次は――
「力のない意志など、ただの戯言に過ぎぬ。
であるならば、実力をもって示すが良い!」
そう言ったリオネス様が「始めろ!」と開始を宣言した瞬間――
「ソル・インフェルノ!」
正面からくると思っていた俺の足元から、
いきなり金炎が吹き上がった。
「いきなりかよ!?」
意表を突かれて驚きの声を上げるも、
避けることができず【多重障壁】ごと飲み込まれてしまった。
詠唱を省略しているはずなのに、肌が焼けるように熱い。
≪障壁がなければ骨も残らないな……≫
――警告――
膨大な魔力と竜力の収束を確認。
速やかな離脱を推奨します。
――。
【見識】の警告を聞いた俺は、
すぐさま竜力で身体強化をし後方へ跳ぶ。
だが――
「ルミナス・レイ!」
想定済みとばかりに、上空から無数の熱線が降り注ぐ。
しかも回避したはずの光線が、
意思を持つように地面を貫きながら迫って来る。
「はん!地べたを這うのがお似合いだ!」
少しの間、よけ続けているとカイルがそう口にした。
すると今度は、俺を中心に金色の魔法陣が浮かび上がる。
「……マジかよ」
魔法陣に誘導したなんて生易しいものじゃない。
【見識】からの報告では、
複雑な魔法陣を“描きながら”俺の逃走経路をコントロールしていたのだ。
≪双竜家のバトルセンスがおかしすぎるだろ!?≫
俺が渾身のツッコミを入れるも、どうやら待ってはくれないらしい……。
「これで終わりだ寄生虫!
――煌陽監獄!」
その魔法名が唱えられると同時に――太陽が顕現した。
中心にいる俺にはわからないが、きっと周囲からはそう思えるものだろう。
先ほどの炎とは次元が違い、全方向からくる熱量は尋常ではないはずだ。
なにせシアから――
『ユウト!?大丈夫!? 返事して!?』
激しい動揺と一緒に【思考伝達】から送られてくるほどだ。
確かに、カイルが今まで使っていた魔法なんて比較するのも馬鹿らしく思えるほどの威力だ。
そんなの親しい人間からしたら、気が気でいられないだろう。
『大丈夫だよシア。
これから反撃するからしっかり見てて!』
シアの動揺を落ち着かせられるようにと思い、そう返すと――
『よかった……。本当に心配したよ!』と言う言葉が返ってきた。
そしてすぐに『あんな奴、ぶっ飛ばしちゃえ!』という、
皇女様とは思えない発言が返ってきて通話が切れた。
俺はそれに苦笑いするも、周囲の状況を見て思わず呟いた。
「……やっぱり俺のスキルで一番チートなのは、
【見識】だよな」
そう零れた俺の言葉は、現在進行形で燃え盛る金炎にかき消されるのだった。




