69.初お披露目で圧倒!異世界の唯一の竜属性!
「さて、同胞たちよ! どうやら娘の魂約者に、その力を示せと挑む者が現れたようだ!」
竜皇リオネス様の宣言に、観客席から大きな歓声が上がる。
その多くは、純粋に俺や挑戦者たちへ向けられた声援だったが――なぜか異質な声も混ざっていた。
「「ユウト様ーーー! 頑張ってぇーーー!!」」
「「ユウト様ぁぁ!! 俺らを舎弟にしてくだせぇ!!」」
可愛らしい声と野太い声が入り混じり、もはや何色とも形容しがたい熱気が渦巻いていたのだ。
≪なんで男女それぞれからそんな声が上がるの!?≫
困惑する俺の脳裏に、【見識】の声が響いた。
――推測――
マスターの【覇気】に当てられ、
一部の竜族に、崇拝に近い感情が芽生えたものと思われます。
――。
……なるほど。さすがは強者至上主義の国だ。
≪強ければ種族なんて関係なく、
日本では目立たない学生だった俺がアイドル気分が味わえるとは……≫
そんな何とも気恥ずかしくしていると――
「うっせぇ!? 騒いでんじゃねぇ!」
怒声が闘技場全体に轟いた。
その声は耳障りなわけではなく、むしろ妙によく通るものだった。
どうやら魔力を乗せ、さらに【威圧】まで重ねているようで、観客席が一瞬で静まり返る。
「ったくさぁ。君ら、なんか勘違いしてない?」
「コイツは皇女様に気に入られて、力を貪り食ってる寄生虫だぞ!」
「それをあたかも自分の強さだと勘違いしてる、愚かな虫けらだ!」
その瞬間、【思考伝達】を通じてシアの憤怒が流れ込んできた。
恐る恐る皇族席へ視線を向けると――
これまで見たことのない満面な“黒い笑顔”をしているシアの姿があった。
その隣に控えているセリィは虫でも見るような冷たい目。
ヴェルミナさんとエリオスさんも、完全に愚か者を見る視線を三人へ向けている。
一方で、リオネス様とシルヴィア様は表情を変えず――むしろどこか楽しげにすら見える。
≪たぶん、俺の力が見られるのを楽しみにしてるんだろうな……≫
とりあえず【思考伝達】で、「圧倒的な差を見せるから抑えてくれ」と送ると、
シアはすぐに皆へ伝えたようで、先ほどの黒い雰囲気は消えた。
代わりに――『容赦なくぶちのめせ!』というジェスチャーが全員から飛んでくる。
≪リオネス様やシルヴィア様までやってるのは……見なかったことにしよう≫
ふと感じた視線の先には、紫髪を後ろで短く束ねた男がいた。鋭く俺を睨みつけている。
「おいテメェ……ずいぶん余裕そうじゃねぇか?」
体の周囲に紫電が迸り、瞳にも雷光が宿っているところを見るに雷属性の竜なのだろう。
それに呼応するように、緑髪と茶髪の男も【威圧】を放ちながら睨みつけてきた。
だから俺は――
「あれ? ようやく演説は終わったの?
あまりに退屈だったから、睡魔と激戦を繰り広げるところだったよ……」
わざとあくびをしながら挑発してみた。
途端に、紫髪と緑髪の周囲で雷と風が荒れ狂い始めた。
茶髪の男は体を岩のように変質させ、徐々に巨大化していく。
「ククク……どうやら始めねばならんようだな!」
リオネス様の楽しげな声が響く。
「では、魂約者よ! 挑戦者よ!
これ以上は何も言わぬ。存分にその力を振るうがよい!」
その合図と同時に――暴風が雷撃と土石流を巻き込み嵐のように俺へ襲いかかった。
≪さてと……格の違いを見せないとね≫
一般の人間なら、生きることを諦めるだろう暴力。
だが俺は避けることも、防御の構えすら取らず――そのすべてを受けた。
ドゴォォォォン!!!!?
鼓膜を破りかねない轟音が響き、観客席がどよめく。
「おい、これはさすがに死んだんじゃないか?」
「いくら皇女様の力を得ていてもな……」
「バカヤロウ! あの方がこんくらいで死ぬか!」
「そうよ! ユウト様は負けない!」
そんな声が飛び交っているのだが、
あいにくと荒れ狂う魔法の轟音にかき消され、俺の耳には届かなかった。
≪うわぁ……。一応俺って国賓なんだけど、こいつら容赦なしかよ……。
何もせずに喰らってたら、ミンチ確定だろ!≫
殺意マシマシ過ぎませんかね、と内心で呟いてから。
――パチン。
そう指を鳴らした、瞬間――
暴風も、雷撃も、土石流すら――最初から存在しなかったかのように消え去った。
残されたのは、彼らの魔法で削られた闘技場の爪痕のみ。
ただし、俺が展開していた【多重障壁】の外側だけだ。
――報告――
全ての魔法構造を把握、分解が完了。
解析結果を基に新たな竜属性魔法を構築。
マスター提案による、分類分けを完了しました。
――。
俺は【見識】へのサンプル提供ありがとう、と彼らに視線を向ける。
三人は唖然とした表情で固まり、観客席も静まり返っていた。
≪あれ、やりすぎた?≫
土石流を含んだ暴風が、俺の周囲を覆うように展開していた。
それが突然、跡形もなく消え去り――中心にいた俺は、服にすら汚れ一つない。
≪【多重障壁】の耐久テストで暇だったから、【竜識眼】で観察してたけど……陰湿過ぎないか、君ら≫
すると、紫髪の男が信じられないものを見るような表情で口を開く。
「なんで……」
それに俺は、にこやかに答える。
「安心しなよ。ちゃんと手加減してあげるからさ!」
右手を三人へ向けると、彼らは「ヒッ!?」と言って後ずさった。
「お、おい! なにする気だよ!?」
「なんなんだよお前は!?」
「待てよ!? その手に集めてる青紫色の雷みたいなのはなんだよ!?」
俺の掌に集まる竜力を見て、口々に狼狽する。
「大丈夫、大丈夫。怖くないよぉ~?」
そう言いながら、準備していた魔法とは別の術式を起動する。
「――竜縛・ドラグバインド」
瞬間。
暗い青紫色の輪が三人の四肢に絡みつき、完全に拘束した。
「な、なんだよコレ!?」
「外れねぇ! 動けねぇ!?」
「クソッ……俺の力で――なんでだ!?」
もがくが、外れる気配はない。
「もう気づいてると思うけど、それに捕まったら魔法は使えないぞ?」
「は? 意味わかんねぇよ!?」
どうやら紫髪がリーダーらしい。
「俺特製の拘束魔法でさ。純粋な竜力で構成してるから、魔力を阻害する効果があるんだよ」
つまり――
拘束を破るには、魔法に使っている竜力を超える出力か、外部干渉か、純粋な腕力のみ。
竜属性は魔力特効を持つ。
しかも俺のは純粋な竜力だから、生半可な力では脱出不可能だ。
≪まあ、効果がもう一つあるんだけど……それはやり過ぎだからやめておこう≫
何かされたわけでもない相手に、これ以上は無用だ。
「一応言っておくけど、その魔法……俺にしか使えないぞ?」
三人は目を見開く。
「……どういうことだよ?」
「純粋な竜力で構成されてるからな。
魔力を持つ竜じゃ絶対に再現できないってことさ。
シアですら似たことはできるけど、同じ効果は持たせられないって言ってたよ」
その言葉に、三人は完全に言葉を失った。
――さっきまで“寄生虫”呼ばわりしていた相手が、
自分たちの理解を超えた魔法を使っているのだから当然だ。
≪まあ、シアの力に助けられてるのは事実だけどね……≫
余談だが、シアが「受けてみたい」と言うので試したことがある。
結果――拘束は一瞬で粉砕され、
なぜか彼女は少し落ち込んでいた。
相変わらず、俺の魂約者様はチート過ぎる。
「さて……もういいか?」
拘束されたまま必死にもがく三人へ声をかける。
ビクリと震え、恐怖を露わにしてこちらを見る。
「お、おい……その青黒い“雷撃弾”、どうするつもりだよ……?」
「見た目は雷っぽいけど、あいにく俺は竜力しか使えないんだよ!」
だから“竜撃弾”で――これはその強化版だと教えてやる。
「な、なぁ……俺たちの負けでいいからさ……」
「そうそう! 言い過ぎた! 謝るから!」
そんな風に許しを請われ俺は、呆れた視線を向けた。
「お前らさぁ……もっと言うことあるだろ?」
竜力の弾をさらに膨らませる。
すると三人は一斉に叫んだ。
「「「ごめんなさい!! もう逆らいません!!」」」
立ったまま拘束されているせいで格好はつかないが――
格の違いと言うものを十分に理解させられたみたいだ。
俺は満足げに微笑み、
「ダ~メ♪」
「「「え……?」」」
ぽかんとする三人を見届け――
「――竜弾・ドラグバレット」
訓練初日に放ったものとは比べ物にならない竜撃弾を、容赦なく撃ち出した。




