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巻き込まれ異世界召喚、なぜか俺だけ竜皇女の推しになった  作者: ノラクラ
第二部 強者尊ぶ竜皇国-ヴァルゼリオン

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68.お披露目開幕、百の竜族が沈む朝

エルシェからお披露目の日を聞いて、三日後の朝――。


「キャァーーー!!?」


そんな黄色い悲鳴が、俺の自室に木霊した。

扉が開け放たれているため、下手をすれば城中に響いてしまっているかもしれない。


もちろん悲鳴の主は、そんなこと一切気にも留めず、俺のもとへ駆け寄ってくる。


「すんごくかっこいいよ! ユウト!」

「は、はい! とっても素敵です! ユウト様!」


黄色い悲鳴の主であるシアは、目をこれでもかと輝かせ、

その隣ではセリィが、チラチラとこちらを見ながら頬を赤らめて褒めてくれていた。


今の俺の衣装は、全体的に黒を基調としつつ、和と洋の意匠を織り交ぜたものだ。

とくに羽織っているロングコートには、藍と銀の和風刺繍が静かに施され、

皇族の正装としての気品をしっかりと備えている。


≪髪もセットしてもらったから、自分でも驚くくらいの見た目なんだよな……≫


そんな俺を、二人が顔を赤らめながら絶賛するものだから、

正直、かなり気恥ずかしい。


≪セリィはいつも通りメイド服だからいいとして、

 シアは社交用のドレスだから、スタイルがはっきり分かって……目のやり場に困るんだよなぁ≫


正直、日本にいたらモデルやアイドルとしてスカウトが殺到しそうな容姿だ。


しかも今日は俺のお披露目式ということもあり、

社交用とは思えないほど、露出のある華やかなドレスなわけで……。


≪彼女がいる奴でも、絶対に緊張するであろう状況で、

 いたことのない俺に、緊張するなという方が無理なんです!許してください!≫


という言葉を飲み込み、なんとか二人に「ありがとう!」とお礼を言うことには成功した。


ちなみにだが、シアにドレスが似合ってると伝えたら、

これまた周囲を照らせるだろってくらいの満面の笑顔で抱きつかれた俺の腕は、

柔らかな感触に沈んでいた。


それを見たセリィが何とか引きはがしてくれたが、俺の心臓は破裂しそうだ。


≪何度か経験はしたけど、慣れるのは絶対に無理だ!≫


そんな俺たちの様子を見て、クスクスと笑いながら、

四人の男女が、それぞれ数名の側近を伴って部屋に入ってきた。


「ほぉ! これは先代勇者たちと比べても見劣りせぬな!」

「ええ本当に! この式が終わったらシアのライバルが一層増えそうですね!」


「母上の言う通りになるだろうね。

 ユウトへの面会依頼が、どれだけ来るか想像しただけで怖いよ……」


「とはいえ、二人が並んで歩けば、諦める者も多かろうがな」


竜皇リオネス様と竜妃シルヴィア様は素直に称賛し、

エリオスさんは今後の対応を思い浮かべて苦笑し、

ヴェルミナさんは、そんな彼に現実的な予想を投げかける。


その言葉を受け、シアは胸を張って言い切った。


「大丈夫! 私は絶対に負けないから!」


……その勢いで、大きな果実が揺れた。


俺は反射的に視線を逸らし、そんな俺の反応を見て、

キョトンとしているシア以外の全員が、クスクスと笑い出す。


≪免疫ないんだから、笑わないでくれませんかね……≫


そうそう、ドワーフ王国へ行っていたヴェルミナさんは、

昨夜のうちに帰国していたらしい。


出国前に、

『ユウトの晴れ舞台を見逃すわけにはいかんから、それまでには絶対に戻る!』


と言っていたけど、どうやら【完全竜化】を使用して全速力で帰ってきたそうだ。


俺はその話を聞いて、

どれだけ楽しみにしていたのかと、思わず笑ってしまった。


ちなみに、俺の武器は学園で受け取れるよう手配済みとのことだ。


そんなことを考えていると、側近がリオネス様の耳元で何かを伝え、静かに下がる。


「広場の準備が整ったようだ」


リオネス様は俺を見て、穏やかに問いかけてくれた。


「大丈夫か?」

「はい! 大丈夫です!」


そうして俺たちは、華族たちが待つ闘技場へと向かう。


≪なんで朝から正装して闘技場に行かねばならないのか……≫


そんな愚痴を心の中に飲み込み、

竜族の風習なんだから仕方ないと、俺は小さくため息をついた。



――――



上位華族における婚約者のお披露目には、いくつかの風習がある。


そのひとつが、「力を示す」ことだ。

とくに、縁談が多い場合や、他種族を迎え入れる際には、

周囲を納得させるだけの実力が求められる。


己の意思を通したくば、力で示せ。

それが、強者を尊ぶ竜族文化に根ざした考え方らしい。


≪しかもこのお披露目を断ったら、日常にゲリラバトルが発生するって言うんだもんなぁ……≫


異世界に来て最初のバトル相手が竜とか、そんなテンプレをリアルで求める高校生はいないと断言してもいい。


≪まあ俺の最初のバトル相手はイケメン王子こと、義孝だったけどさ≫


ちなみに正装を着るのは、

戦闘中であっても余裕を崩さないことを示す意味があるそうだ。


朝に力試しを行い、そのままの服装で夜の正式なお披露目を行う――

それが竜皇国の一般的な流れらしい。


≪救いなのは、双竜家を除く同年代以下の竜族だけが挑戦可能ってところか≫


もちろん他にも問題はある……。


しかし、対策についてはすでに話し合っているから大丈夫だと、

自分に言い聞かせ、俺はエルシェを伴って通路を抜け、闘技場へと出た。


「うわ……人、多くない?」

「竜族にとって、こういうのは共通の娯楽ですからねぇ~」


その視線の多さには驚いたが、不思議と委縮はしなかった。


すると周囲から、ざわめきがはっきりと聞こえてくる。

俺は試しに聴力を強化し、耳を澄ませた。


「おい、あれってまさか……」

「噂は本当だったのか……」

「シンシア皇女殿下の婚約者が、あの冬竜姫を……?」

「馬鹿を言うな! あの異端者が忠誠など誓うものか!」

「竜皇陛下のご意向だろう!」


そんな声が、観客席から聞こえてくる。


俺は話題の中心――エルシェに視線を向けたが、

彼女は小声で「前を向いて堂々としてくださいねぇ~」と囁いた。


この闘技場は、三階建てのドーナツ状構造だ。


一階は戦闘エリアを取り囲むように、

平民や下級士族が立ち見する観客席が設けられ、

二階は中級以上の士族が座って観戦できる観客席、

三階は皇族・上位華族用の個室となっている。


つまり、シアたちは三階にいるわけだ。


≪こんな広さで、ちゃんと見えるもんなんだな……≫


俺が中央に到着するとリオネス様が立ち上がり、威厳ある声を響かせた。


「竜皇国の同胞よ――今日は喜ばしい知らせがある。

 我が末娘、シンシア・ヴァルゼリオンに、婚約者が定まった!」


ざわめきが広がるが、

リオネス様が手を上げるだけで、場は静まり返った。


「勇者とはいえ、人の身である以上、不安もあろう。

 だが安心せよ。この婚約は魂との契約――魂約であり、

 いずれは竜族へと至る存在となる!」


再び大きなどよめきが起こるものの、今度は自然と静まっていき、

その光景は、さすが竜族の皇だとしか言えなかった。


「そこでだ。

 勇者ユウトに異を唱える者がいるなら、挑戦を認めよう!」


その言葉と同時に、多くの竜族が立ち上がった。


≪……多すぎません?≫


ざっと見ただけでも、百人以上はいそうな、

その光景に自分の顔が引きつるのがわかる。


それほどまでに人間が皇女様と婚約することに反対なのか、

様々な場所から【威圧】が飛んでくる。


日本にいた時なら間違いなく失神ものだが、今の俺には不思議と恐怖が湧かなかった。


≪ちゃんと成長してるんだな、俺≫


そう実感できたことが嬉しく、思わず口元が緩むが、

すぐに気を引き締め、目の前のことに集中する。


俺は半分ほどの竜力を込め、

【覇気】を闘技場全体へと解き放った。


瞬間――。


次々と倒れる音が、静まり返った闘技場に響いた。

中には観客席から転げ落ちる者までいる。


≪……やりすぎた?≫


俺はそう思い、恐る恐るエルシェを見ると、彼女はポカーンとしながら俺を見ていた。


「どうしたのエルシェ?」

「え? あ、な、何でもないですよぉ~!」


そう言った彼女は、どこか様子がおかしく、

耳が少し赤くなっている。


だが今は、それどころではない。

俺はエルシェに、この状況で本当に大丈夫なのかと問いかけた。


すると彼女は、いつもの調子に戻って、

「あの程度の高さなら、心配ありませんねぇ~!」と断言する。


どうやら竜族は人の姿であっても頑丈さは健在で、

十メートル以上の高さから落ちても無傷らしい。


【覇気】を収め、観客席を見渡すと、

エルシェが静かに口を開いた。


「ふむふむ~、今後はスキルの制御も練習しましょうかぁ~」

「……精進します」


白目を剥いて倒れる竜族が、そこかしこに転がり、

まさに死屍累々の惨状が広がっている。


まあ全員生きてはいるものの、普通にやりすぎたのである。


そこへ――。


「なに余裕ぶっこいてやがる!」


「たかだか、平民や士族をビビらせたからって、

 いい気になってんじゃねぇよ!」


「チビメイドを引き連れるロリコンのくせに、

 カイル様の婚約者を奪いやがって!」



そんな言葉とともに三人の男が俺の前に現れた。

外見の年齢は、シアやセリィとだいたい同じくらいに見える。


しかし突然の乱入者に驚くよりも先に、俺はエルシェに視線を向けると――

彼女はいい笑顔で『手加減無用』というジェスチャーをして見せた。


≪あの三人にこれから幸多からんことを……≫


俺はそう心の中で静かに手を合わせるのだった。


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