67.眠りの先は白の世界。迫るお披露目カウントダウン
◆視点:悠斗◆
「ここは……?」
昨日は確かにベッドで眠っていたはずだ。
それなのに、今の俺は白い空間の中に立っている。
足元に視線を落とすと、
まるで水面の上に立っているかのように、
波紋に揺れる自分の姿が映っていた。
「おいおい……またかよ」
この状況には心当たりがある。
王国でシアに竜力を流し、意識を失った時に訪れた場所だ。
あの時は突然すぎて、みんなに随分と心配をかけてしまった。
だけど今回は、普通にベッドの上で眠っていたはず……。
≪起きたらシアやセリィが泣いてる姿なんて、
もう二度と見たくないんだけど……≫
そう思っても、
この状況をどうにかできるわけでもなく……。
俺は諦め交じりに息を吐いてから、改めて白い空間を見渡す。
「うん……相変わらず、なんもないな」
呟きは虚空に溶けて消えていった。
そして大きく息を吸い込む。
「アルファ!? いるんだろ!?」
叫んでみたが、返ってくるのは静寂だけだった。
前回はアルファと名乗った不思議な意思みたいなのがいたのにと、
俺は不思議に思い首を傾げる。
「あれ……?
もしかして、ここってまた別の場所なのか?」
そう口にした瞬間、
胸の奥にじわりと焦燥感が滲み出てきた。
「……立ち止まってても仕方ない、か」
とにかく手がかりを探すしかないと、
俺は白い空間を歩き出した。
――――
それから、体感で数十分後――
「うん……。
確かに何か手がかりを探そうとは思ったけどさ……」
白い世界をひたすら歩き続けていた俺の前に、
一人の子供が現れた。
真っ白な髪を肩まで伸ばし、
背を向けたまま地面に座っている。
しかも――
カタカタタカタ……
リズミカルな音を立てながらキーボードを叩き、
複数のモニターを同時に操作していた。
日本にいた頃、
密かに憧れていた光景そのものだった。
≪いや、ヴェルミナさんなら
パソコン持っててもおかしくなさそうだけど……
って、そうじゃなくて!≫
俺は頭を振って現実逃避じみた思考を追い出し、
集中している子供に声をかける。
「ごめん、ちょっと話を聞きたいんだけど……?」
申し訳なさ全開で声をかけるが、反応はない。
聞こえていないのだろうか。
今度は驚かせないように、
ゆっくりと真横まで移動し、しゃがみ込む。
「もしも~し。
集中してるところ悪いんだけど、
こっち向いてもらえないかな?」
すると、ようやく反応があった。
子供はゆっくりとこちらを振り向く。
無造作に伸びた白い髪が目元を隠し、
中性的な顔立ちのせいか、少年とも少女ともつかなかった。
だが、隙間から覗く瞳は――
右がサファイアのような青、
左がルビーのような赤。
「うわ……めっちゃ綺麗なオッドアイ……」
思わず漏れた感想に反応したのか、
白髪の子供は勢いよく立ち上がり、
ワタワタと慌て始めた。
「え、えっと……ごめん。
驚かせちゃったよな」
そう言いながら、
無意識に、その頭に手を伸ばしていた。
指先を通る髪は、驚くほどさらさらだった。
子供は俯いたままモジモジしていて、赤くなった耳が目に入る。
……どうやら、恥ずかしがっているらしい。
≪思わず撫でちゃったけど……嫌がられなくてよかった≫
内心でそう安堵しながら、
「落ち着いてくれてよかったよ」と声をかけて手を離す。
一瞬、名残惜しそうな雰囲気を感じた気もしたが、
少なくとも、嫌がられてはいないようだ。
そう安堵してから改めて子供の姿を見る。
白いワンピースを着ているのを見ると、
俺には女の子のように見えた。
「ねぇ、ここがどこか分かるかな?」
俺の問いかけに、少女は小さく頷き、
口を開いた――が。
「……声が、聞こえない?」
教えようとしてくれているのは分かる。
だが、その声が、俺には届かなかった。
少女もすぐに気づいたようで、
残念そうにしながら、
ゆっくりと右手の指をこちらに向ける。
「えっと……どういうこと?」
意味が分からず小首を傾げた、その時だった。
視界が、急激に真っ白に染まっていく。
「は!? 今度はなんだよ!?」
思わず叫びながら、少女へと視線を向ける。
その表情は――
「また会いましょう」と語りかけてくるような、
子供とは思えないほど、上品な微笑みだった。
――――
真っ白だった視界は一転し、今度は真っ暗になり、
自分が目を閉じていたことに気づいた。
ゆっくりと瞼を開けると、そこにはいつもの天井が見えた。
俺は起き上がり、
少しボーっとしていると、聞き慣れた声が耳に届いた。
「おやおやぁ~、
目が覚めたようですねぇ~」
「おはようございます! ユウト様!」
エルシェとセリィの声だ。
俺はベッドから降りながら
「おはよう、二人とも」と応え、
周囲を見渡すと、いつも使わせてもらっている部屋だった。
≪……やっぱり、魂の世界に行ってたってことだよな?≫
そんな考えが浮かんだ瞬間――
グゥゥ~……
この部屋に充満する、朝食の美味しそうな匂いにつられ、
俺の腹から、はっきりとした抗議音が鳴り響いた。
さすがに恥ずかしくなって、すぐさま言い訳を考えるが――
クスクス、と笑い声が聞こえてくる。
「もうお昼ですから、仕方ありませんね!」
「弟君はぁ、お寝坊さんですねぇ~!」
……訂正。
どうやら、昼食の匂いだったらしい。
――――
身支度を簡単に済ませ、
昼食を終えた俺は食後の紅茶を飲んでいた。
念のため言っておくが、
身支度の間はまだ恥ずかしいので、
二人には部屋の外で待ってもらっている。
申し訳ないとは思うが、
こればかりは勘弁してほしい……。
すると、対面に座って紅茶を飲んでいたエルシェが声をかけてきた。
「私のアドバイス、覚えてますかぁ~?」
「竜力の循環と【見識】に意識を向けて寝ろ、ってやつだよね?」
エルシェは満足そうに頷き、
「よくできましたねぇ~♪」と、
俺を弟扱いするような声色で言ってくる。
すぐに彼女の隣に座るセリィが「姉さま!」と注意するが、
「ちゃんと褒めてあげないといけないのですよぉ~?」と茶化し始めた。
「あの、説明をしてほしいんだけど……?」
二人の美少女のじゃれあう姿は眼福なのだが、
まずは話の続きを聞きたい。
「ではではぁ~
弟君はステータスを表示してくださいねぇ~」
「あの続きは……?」
「それはぁ、ステータスを見ながらですねぇ~!」
「はぁ~……了解」
抗議しても無駄だと悟り、
俺は小さくため息をついて、ステータスを表示させた。
――ステータス(スキル一覧)――
〔通常スキル〕
<戦闘スキル>
剣術Lv2 / 射撃Lv3→5 / 投擲Lv3 / 多重障壁Lv6→8 / 竜術Lv2→5
体術Lv3 New
<機動・補助スキル>
命中Lv4→7 / 回避Lv3→8 / 疾走Lv5New / 立体駆動Lv5New
空歩Lv3New
<知識・技術スキル>
思考超加速Lv4→7 / 竜力操作Lv2→5 / アイテムボックスLv1→2
──────────────────────
〔特殊スキル〕
・天竜燐Lv4→5
(属性耐性・状態異常耐性・鉄壁・干渉耐性)
・竜力Lv7→8
(属性特効・スキル強化・身体強化・耐性強化・竜装具現化)
・竜人化Lv4→5
(全ステータス強化・全スキル強化・竜力強化・超速再生・部分竜化(不安定))
・超回復Lv3→6
(体力回復速度上昇・竜力回復速度上昇・状態異常回復速度上昇)
・覇気Lv3→4
(威圧・恐慌誘発・精神支配)
・竜力循環Lv1→3
(消費竜力軽減・竜力量上昇・竜力回復)
──────────────────────
〔魂約スキル:シンシア〕
竜力供給 / 思考伝達 / 擬似召喚 / 完全召喚
──────────────────────
〔固有スキル〕
・見識Lv-New
(解析、分解、再編、独立意思)
・竜識眼Lv1→4
(遠視・先見・鑑定・看破・弱点看破・霊視・視覚化[探知])
《視覚化対象》
・周辺地形(立体的な地理構造)
・生命気配(敵味方の位置・密度)
・魔力流(魔力の流れ・濃度・方向)
・構造物(隠し通路・罠・強度)
・敵意・害意(危険度の色相表示)
──────────────────────
〔継承スキル〕
模倣Lv5→7
――。
≪……なんか、めちゃくちゃ上がってるし、
スキルもかなり増えてるんだけど≫
今までは疲れ果てて即寝落ちだったから、
変化に気づけなかっただけなんだろうけど……。
それでも――特訓の成果が出たという意味では嬉しい。
「ていうか、見識が独立してるんだけど!?」
「こんなこと……聞いたことがありません……」
「ふむふむ~……。
予想以上の結果ですねぇ~」
俺とセリィが驚愕する中、
エルシェだけが、どこか楽しそうに頷いていた。
「……もしかして、計画通り?」
「ここまでとはぁ、思っていませんでしたがぁ~」
エルシェは、【見識】が意思を持つ理由に
以前から疑問を抱いていたらしい。
「つまり、生まれたばかりのスキルだと結論づけて……」
「それなら栄養となる魔力――俺の場合は竜力を集中させたわけね……」
「結果を報告するのが楽しみですねぇ~!
ヴェルちゃんの驚く顔、
と~っても可愛いんですよぉ~♪」
「「その前に、
俺(私)たちに説明してくれ(ください)!」」
全力で抗議する俺たちをよそに、
エルシェにはどこ吹く風とばかりに紅茶を楽しんでいた。
「それよりもぉ~
お披露目の準備をしましょうかぁ~!」
「あ! そうでした!?」
エルシェの言葉に、
セリィが思い出したように頷く。
だが俺には寝耳に水なわけで……。
「……お披露目?」
「……え?」
俺の反応を見たセリィは一瞬きょとんとし、
すぐに何かを察したのか、エルシェを見る。
「エルシェ姉さま……?」
「おやおやぁ~
うっかりしちゃいましたねぇ~♪」
――絶対に、わざとだ。
俺とセリィは半目で彼女を見るが、
エルシェは涼しい顔で受け流す。
「今日のお昼には衣装が届きますので、
試着をお願いしますねぇ~!」
「聞いてないんだけど!?」
「聞かれませんでしたので~♪」
「私は確認しましたよね!?」
「近々届きますよぉ~、と伝えましたよぉ~?」
相変わらずのマイペースぶりに呆れつつ、
俺は肝心の日程を聞く。
するとセリィが申し訳なさそうに――
「……三日後です」
「マジで……?」
本当に、俺の専属メイドは何を考えているのか。
そう思っていると、
仕立て屋が到着したとの知らせが入り、
俺たちは試着のため部屋を後にするのだった。




