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巻き込まれ異世界召喚、なぜか俺だけ竜皇女の推しになった  作者: ノラクラ
第二部 強者尊ぶ竜皇国-ヴァルゼリオン

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66.狂気が微笑む夜の下で……

夕食後、自室に戻った俺は、備え付けのソファに腰を下ろし、今日の出来事を振り返っていた。

最近はエルシェかセリィのどちらかが必ずいたので、久しぶりの一人の状況に少し落ち着かない。


正確には、エルシェが手配した護衛騎士とメイドさんが一人ずつ控えているのだが、

考え事をしたい俺の空気を察してくれたのか、静かに待機してくれている。


≪エルシェが去り際に笑いかけた瞬間、この二人がビクッと反応してたのは気になるけど……

 今は、それどころじゃない≫


意識を切り替え、俺は【見識】スキルへと集中する。

今、一番気になっているのは――エルシェの攻撃方法だ。


≪あれは、マジでヤバかった……。

 数メートルの距離を一瞬で詰めて、あの金髪野郎を吹き飛ばした技……≫


初めて会った時もそうだったが、

“一瞬”なんて言葉では生ぬるいと感じるほど、あの戦闘方法は異常だった。

気が付いたら、“そこに居た”なんて――そんなもの、もはや現象とすら呼べるレベルだ。


金髪野郎ことカイルはもちろん、

その護衛騎士であるレオンですら反応できなかった速度。


≪ほぼ確定で、レオンはあの場にいた誰よりも強い。

 その人ですら見切れない動き……。

 あの移動方法だけでも真似できたら、もっと強くなれるはずなんだけど……≫


速度は武器だ。


勝てない敵から逃げる手段にもなるし、

何より――ヒット&アウェイはカッコいい。


≪……まあ、エルシェの場合はアウェイとは程遠いけど≫


なにせ、攻撃を受けたカイルは吹き飛んでいったのだから、

ヒット&グッバイの方が正しいだろう。


どちらにせよ、まだまだ弱い俺にとっては、是が非でも欲しい能力だ。


そう思いながら、俺は【見識】に問いかけ続けていた。

同じことができなくても、それに近いことができないか――と。


――報告――


現段階では、情報が不足しています。

仮説を立て、思考空間にてテストを実施しますか?


――。


あれだけ時間をかけ、全力でスキルを稼働させて観察したというのに、

糸口すら掴めないとは……正直愕然とする。


それでも、今は【見識】を信じるしかない。

俺は小さく息を吐き、判断を委ねることにした。


≪それにしても……【見識】と会話してると、

 本当にスキルって感じがしないんだよなぁ≫


以前、エリオスさんたちが言っていた言葉を思い出す。

【見識】は、聖剣や魔剣のように“意思を持つ存在”だと。


そう考えた瞬間、

≪だったら名前があってもいいんじゃないか?≫

という考えが、ふと頭をよぎった。


≪でも、今は保留だな……。

 どうせなら、ちゃんとした名前をつけてあげたいし≫


そう思った時だ。


不思議なことに、【見識】から

――期待しているような、そんな感情が伝わってきた。



――――



コンコン……。


今日の戦闘を思い返しながら、

自分に取り入れられるものはないかと考え続けていると、

扉をノックする音が響いた。


「入ってもいいですかぁ~?」


この緊張感のない間延びした声――エルシェだ。


俺が許可を出すと、メイドさんが扉を開けに向かう。

その足取りがわずかに早く、護衛騎士の人は緊張したように背筋を伸ばした。


その光景にエルシェはこの二人に一体なにをやったんだ……と気になってしまう。


やがて扉が開き、エルシェが部屋に入ってくる。


「ただいま戻りましたぁ~」

「うん、お疲れ様。……それで、セリィはどうかな?」


部屋に入ってきたのはエルシェだけで、セリィの姿はなかった。


カイルとの戦闘で彼女は疲弊しきっており、

体力も魔力も、竜力までもが大きく削られていた。

そのため、エルシェが部屋まで送り届けてくれたのだ。


≪戻りが遅かったし……いろいろ話してたんだろうな≫


初めて会った時、

セリィの腕を凍らせて折ったエルシェを見て、

なんて酷い姉なんだと思ったものだ。


だが今回――

傷ついたセリィを見て激怒していた姿を目の当たりにして、

彼女への不信感は、すでに消えていた。


むしろ、セリィが彼女を慕う理由がよく分かった。


≪不器用っていうより……

 愛情表現が、異常なんだよな≫


俺の視線に気づいたのか、

エルシェはきょとんとした表情で口を開く。


「常々思っていましたがぁ~、

 もしかして弟君はぁ、少女趣味なのでしょうかぁ~?」


「違う!?」


突如放たれたクレイジーメイドの爆弾発言に、

俺は全力でツッコミを入れた。


だが彼女は、

「いつも生臭い視線で見られていましたのでぇ~……」

などと言い出し、本当に勘弁してほしい。


このやり取りを目撃した護衛騎士やメイドさんたちの間で、

――“狂気の魔竜を懐かせた勇者様”

という噂が、密かに広まりつつあることを、

この時の俺は、まだ知る由もなかった。


「それで、セリィは大丈夫なの?」

「ただ疲弊しているだけですのでぇ、問題はないかとぉ~」


エルシェの返答に、俺はひとまず胸を撫で下ろす。


彼女によると、今夜ゆっくり休めば回復するらしく、

明日の朝からは復帰できるそうだ。


「それにしても弟君はぁ、竜たらしですねぇ~」


「あのですね、エルシェさん?

 お願いですから、変な言い方はやめてもらえません?」


「事実じゃないですかぁ~!」


エルシェの話によると、

セリィをベッドに寝かせたあと、いろいろと話をしていたらしい。


その中で、

俺が本気で怒り、【覇気】スキルの威圧を放っていたことを、

セリィは強く印象に残していたようだ。


まるで自分が守られているように感じて、すごく安心できた――と、言っていたらしい。


「顔を真っ赤にしながらぁ、

 セリィちゃんにのろけられちゃいましたよぉ~♪」


嬉しそうに語るエルシェとは対照的に、

俺の顔は一気に熱くなる。


絶対に口止めされているはずだと思い、恐る恐る確認すると――


「恥ずかしがって悶える姿は可愛いですからぁ~♪」

「エルシェって、本当にドSだよね……」

「楽しいので、仕方ありませんねぇ~」


……やっぱり、自覚はあるらしい。


「さてさてぇ~、今日はお暇しましょうかぁ~」

「もう行くのか?」


「あらあら~、寂しいのですかぁ~?」

「いや、そうじゃなくてさ……」


俺がそう言うと、エルシェは部屋に備え付けられている時計を指さす。


「お気づきではないようですがぁ、

 良い子は寝る時間ですよぉ~?」


時計の針は、すでに23時を回っていた。


この世界の時間感覚は日本とほぼ同じなので、

確かに遅い。


「ごめん、長々と引き留めたみたいだ……」


「かまいませんよぉ~。

 明日は少し遅く来ますので、

 どうかゆっくりお休みくださいねぇ~」


申し訳ない気持ちになった俺の謝罪に、エルシェはそう返し、

護衛騎士とメイドさんと共に一度は扉へ向かったが――

ふと足を止める。


そして二人を先に退室させ、

俺のもとへと近づいて、耳元へと顔を寄せた。


「寝ている時はぁ、

 竜力の循環と【見識】さんへ意識を向けると良いですよぉ~」


意味を問い返そうとした、その瞬間。


右頬に、柔らかな感触が触れ、

言葉が途中で途切れてしまう。


驚いて彼女を見ると、

エルシェは満足そうに微笑んだ。


「これは、お礼ですよぉ~♪」


そう言い残し、彼女は今度こそ部屋から退出し――


「え~っと……。なんの?」


間の抜けた俺の声だけが、

誰もいなくなった部屋に、静かに溶けていった。



――――


◆視点:アウグスト◆



「……という状況で、さすがに死ぬかと思いましたよ~」


俺は、中級竜ミーゴから今回の件について報告を受けていた。

予定とは異なったが、

シンシア皇女の魂約者――ユウトの力量を測れたのは収穫だ。


≪この者の話と、上級竜であるレオンの報告書を見る限り、

 中級竜では話にもならんか≫


そう結論づけた俺は、

やはり“あの者たち”を使うべきかと、思考を巡らせる。


すると、何を勘違いしたのか、

この弱者が意気揚々と声をかけてきた。


「大丈夫ですよ!

 これから自分が強くなれば、

 あんな寄生虫なんてわけないですから!」


愚かな自信だ。


この者では、どれほど足掻いても無理だろう。

仮に“増禍薬”を使ったとしても、

あの魂約者を超える前に狂い死ぬだけだ。


だが――それを伝える必要はない。


「その必要はない。

 お前に与えた任務は、解くことにする」


「え!? ってことは、

 ついに俺にも、貰えるってことでいいんですか!?」


……なるほど。

そう勘違いするのも無理はない。

カイルに付けた時、“増禍薬”を餌に使ったのを思い出す。


「そうだな……約束は守ろう。

 明日の夜に、取りに来い」


俺がそう告げると、

ミーゴは「よしっ!」と嬉しそうに声を上げた。


「話は終わりだ」


そう言って退出させ、

静寂が戻ったところで、俺は呟く。


「……いるな?」


ミーゴの気配が完全に消えたのを確認し、

俺は、誰も“いない”はずの壁に向かって声をかけた。


すると、空間から浮き上がるようにして、

一人の狼人族が姿を現した。


「いやぁ、さっすが旦那っすね!」

「お前も、だいぶ強くなったようだな」


軽口を叩くこの男――

“増禍薬”の被験者である彼に対して、

俺は不快感を覚えなかった。


むしろ、弱者から這い上がってきた存在として、

一定の評価は与えている。


≪……それでも、まだ弱者に変わりはないが、

 数年でここまでとはな≫


部下の中でも、すでにレオンと同等の力を持つこの狼人族は、

ふと不思議そうな顔で問いかけてくる。


「ところで旦那、本当に薬を渡すんで?」

「約束だからな」


「ふ~ん。その割に、忘れてませんでした?」

「……ふっ」


思わず、笑みが漏れた。


「いちいち、明日のない者との約束など、

 覚えておく意味があるのか?」


「……俺が?」


この男は、あの愚か者を始末するかと探ってきたのだろう。


だが、必要ない。


俺は席を立ち、窓の外を眺めながら告げる。


「やめておけ……。

 冬竜姫とうりゅうきの逆鱗に巻き込まれたくなければな」


その答えに何かを察したのか、


「うっわ~、お可哀そうに……」


俺の言葉に心にもない同情を漏らす男へ、

振り返って視線を向ける。


「それより、計画の方はどうなっている?」


「順調……って言いたいところっすけど、

 正直、苦戦中っすねぇ~」


やはり、そう簡単にはいかんか。


俺は応接用の椅子へ移動する。

男が勝手知った様子で秘蔵のワインを持ってくるあたり、

何かしら進展はあったのだろう。


こうして男の報告を聞きながら、

今後の予定を詰めていく――。


翌日の朝。

あの愚か者が、俺の前に姿を見せることはなかった。


代わりに、レオン宛てに

ミーゴと名乗る男から手紙が届き、

それを確認した俺は、鼻で笑う。


『さようなら』


そう、たった一言だけが書かれていたのだ。

それも――女性の筆跡で。

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