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巻き込まれ異世界召喚、なぜか俺だけ竜皇女の推しになった  作者: ノラクラ
第二部 強者尊ぶ竜皇国-ヴァルゼリオン

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64/82

64.戦場に降りた姉は、笑顔に狂気を潜ませる

◆視点:セリーネ◆


私は一体、何をしていたのだろう……。


地面に倒れ、

お父様とお母様を――

そして私の大切な家族を侮辱した男に背中を踏みつけられながら、

自分の不甲斐なさが、怒りとなって胸の中を渦巻いていた。


≪感情を抑えられず、あまつさえ職務を放棄し、

 ユウト様を危険にさらした挙句、この体たらく……≫


勝てないことは分かっていた。

それでも、どうしても我慢などできなかった。


先代の勇者が召喚される前の時代――

魔族は戦争を起こし、傍若無人に世界をかき乱した。


そんな魔族である母を、ヴァルティエル家は温かく迎え入れてくれた。


それは、魔族の母と竜族の父との間に生まれた私に対しても同じ。

むしろ、二人の姉は異母姉妹だと感じさせないほどだった。


≪それなのに……私は……≫


そう思った瞬間だった。

突然、強大な存在感がこの場を満たす。


だが、それは恐怖を与えるものではなく、

むしろ守られているような温もりを伴っていた。


≪これは……【覇気】? ……ユウト様?≫


そう感じた直後――


「あの寄生虫がぁ……」


怒りに満ちた声が上から降ってきて、私はハッとする。


≪いけない……!

 仮にもカイル様は双竜家。

 このまま戦闘に発展すれば、収拾がつかなくなる……!≫


だが、痛めつけられた身体は動かない。

そんな中、私と同じ危機感を抱いた者がいたようだ。


「落ち着いてくださいユウト殿!?

 カイル様もです!

 このままでは皇族との対立になりかねません!」


「ああ!? ケンカ売ってきたのはあっちだろうが!?」


「だとしても、状況が良くありません!」


ひとまず、安堵する。

プライドの高いカイル様でも、レオン様なら容易に止めてくれる。

この方は、カイル様よりも圧倒的に強いのだから。


「んなもん知るか!

 それに、ちょうどいいじゃねえか!

 兄上の依頼も達成できて、クソ生意気な寄生虫に格の違いを見せつけられるだろ!」


「カイル様!?」


……兄上の依頼?

まさか、アウグスト様が関わっている……?


そう考えていると、誰かがこちらへ歩いてくる気配がして、

必死に顔を向けると――


「エル…シェ姉……さ…ま……?」


私の途切れ切れの呟きに、カイル様とレオン様も気づいたらしい。

口論を止め、二人とも視線を姉さまへ向ける。


「あらあらぁ、まあまあ~。

 これはどういった状況なのでしょうかぁ~?」


「ああん? なんでここにエルシェリアがいんだよ?」


「……」


カイル様は露骨に不機嫌そうに吐き捨て、

レオン様は腰の剣に手をかけこそしないものの、

いつでも抜ける体勢で明確に警戒している。


エルシェ姉さまはそんな二人を前に、

愛用の扇子を広げて口元を隠した。


「そんな些末なことはどうでもよいのですよぉ~。

 お姉さんはぁ、すご~く驚いていましてぇ~……。

 それはもう~、びっくりなのですよぉ~?」


その言葉通りの表情を浮かべたあと、

今度は少し困ったように「とってもとっても~……」と続けた、その瞬間。


――消えた。


ドゴォォーーン!!!!?


爆裂音がカイル様の遥か後方から響き、すぐに衝撃波がここまで届く。

同時に背中にのしかかっていた圧迫感も消え去った。


何が起きたのか理解できず、カイル様の方を見ると、そこには――


「不愉快です♪」


扇子で口元を隠したまま、

楽しげな笑みを浮かべるエルシェ姉さまが立っていた。


「「なっ!?」」


私とレオン様の声が、同時に重なる。


当然だ。

確かに姉さまは強い。

だが、先ほどまで私たちとの距離は六~七メートルはあったはず……。


≪それを……レオン様ですら気づかぬ速度で移動した……?

 幻術? いえ、それならとっくに術中でしょう……≫


ここまで接近されて気づかなかった以上、

幻術であれば、既に私たちは凍りついているはずだ。


≪つまり……単純な身体能力と技術力の違い……≫


それはレオン様も理解したらしく、

即座にカイル様と姉さまの間に入り、剣を構えて警戒する。


私は起き上がろうとしたが、足に力が入らない。


しかし今度は、双竜家同士の関係悪化になりかねないと思い、

エルシェ姉さまを止めようと声をかけようとして――やめた。


いや、これは正確じゃない。


姉さまから感じる“異質さ”に、声をかけられなかったのだ。


≪確かにそこにいるのに……気配がまるでない……≫


目には映っている。

だが、殺気も、存在感も、何もない。


なのに本能だけが叫んでいる。

――ここにいてはいけない、と。


そうなって私は、ようやく気が付いた。


エルシェ姉さまは――

ヴァルティエル家で、“最も私を大切にしてくれる姉”は、

今、怒っているのだ。


≪昔、一度だけ見たことがあります。

 確か、ノクティア姉さまに悪戯されて泣いてしまった時でしたか……≫


その日の夜、寝室に飛び込んできた姉は必死な表情で、

とにかく許してほしいと泣きながら私に謝り続けていた――その光景が脳裏に浮かんだ。


今でも仲の良い二人で、あれほどの惨状になったのだ。

ならば親族ですらなく、ましてや仲のいい友人でもない彼らは――。


≪私の不甲斐なさは反省するとして……今は静かに黙祷を捧げましょう≫


もちろん、目を閉じては行わない。

怒った姉さまは、間違いなく本気を出す。


これは、またとないチャンスだ。


≪私も必死で修練を積みましたが、

 追いつける未来が見えない。

 あの、ヴァルティエル家の神童が戦うのですから……≫


思考を切り上げ、私は現状に意識を戻した。


その時、心配して来てくれたのだろう、

ユウト様が私のそばまで駆け寄り、声をかけてくださった。


「大丈夫、セリィ?」

「はい、ですが私よりも……エルシェ姉さまを全力の【竜識眼】で観察してください」

「大丈夫、扱える竜力は全開で使ってるよ!」


ユウト様も、姉さまの意図に気づいているのだろう。


吹き飛ばされたカイル様はおそらく気絶中。

そのため、レオン様も強く出られず、膠着状態になっている。


――この状況で自由に動けるのは、圧倒的実力差を見せたエルシェ姉さまだけだ。


にもかかわらず、姉さまは動かず、ただ睨み合っている。


≪ユウト様も、姉さまの意図に気づけるほど絆が深まっているのでしょう。

 嬉しいことではありますが……少し、妬いてしまいますね≫


この心情も、きっと【見識】スキルなら見抜かれているだろう。

それでも、願うなら……ユウト様自身に気づいてほしい。


静寂は、終わりを告げる。


ドゴォォーーン!!!?


「ユウト様、どうやらカイル様が目を覚ましたようです」


「竜族って本当にすごいな……

 あれだけ派手に壁に突っ込んでも、まだ普通に動けるのか……」


視線の先では、

瓦礫を吹き飛ばしたカイル様が、

金色の炎を噴き上げながらこちらへ歩いてくる。


怒りに満ちたその歩みの跡は、

遠目でも分かるほど地面を溶かしていた。


……だが、その怒りも、すぐに恐怖へ塗り替えられるだろう。


私たちに背を向けたままのエルシェ姉さまから、

クスクスと楽しげな笑い声が聞こえているのだから。


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