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巻き込まれ異世界召喚、なぜか俺だけ竜皇女の推しになった  作者: ノラクラ
第二部 強者尊ぶ竜皇国-ヴァルゼリオン

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63/80

63.譲れない思いと、蹂躙される現実

キンキンキン――


金属同士がぶつかる硬質な音とともに、

セリィがカイルに向けて投げたナイフは弾かれ、地面に落ちる。


俺は音の発生源に視線を向けると、

カイルの筆頭護衛騎士――

レオンがいつの間にか剣を抜き、あの金髪野郎を守るように立っていた。


「セリーネ殿。貴方の気持ちも分からないではない……。

 しかし、これはやりすぎだ」


レオンはセリィをたしなめるように言ったあと、今度は俺に顔を向ける。


「ユウト殿も落ち着いてください。

 このままでは、双竜家と皇族との溝が広がりかねません」


そう言われて、俺はようやく気づいた。

視界の左端に見識録、右上にはこの場所のマップが表示されている。


おそらく感情に反応して【竜識眼】が発動したのだろう。

だが、先にケンカを売ってきたのは向こうだ。

解除する気にはなれない。


「カイル様……戦ってください」

「セリーネ殿!?」


静かに告げたセリィに、レオンは慌てて止めようとするが、

「ほお~?」と、にやついたカイルが割って入る。


「いいだろう。そこの寄生虫は腰抜けみたいだからな!」


「ユウト様は腰抜けではありません。

 これは、親族を侮辱された私の戦いです」


「なんとでも言えよ。

 どうせ、自分の下僕すらまともに守れん虫けらだ!」


その言葉で、場の空気がさらに冷え込む。

セリィは俺を振り返り、困ったように「申し訳ありません」と頭を下げた。


「気にしないで。

 セリィは何も悪くないし、家族を馬鹿にされれば誰だって怒るよ」


「ありがとうございます、ユウト様!」


そんなやり取りを見ていたレオンも諦めたのか、

「こうなっては致し方ありません」と審判役を引き受けると名乗り出た。


「ユウト殿は危険ですので、あちらの皇族席へと移動をお願いします。

 護衛にはこのミーゴを付けますので、ご安心ください」


そう言ったレオンは、ミーゴと呼ばれたもう一人の護衛騎士に、

「失礼のないようにな」と釘を刺す。


「わかってますよぉ~!」


軽い調子でそう返したミーゴが、俺の前に出てくる。


「そんじゃま……え~っと、何て名前でしたっけ?

 まあ逆玉さんでいっか! ほら、ついてきてください!」


「おい、ミーゴ!」とレオンがとがめるも、

「いいじゃないですか! 本当のことなんですし!」と聞く耳を持たない。


≪いや、本当のことだけども……さすがに失礼すぎるだろ≫


そう思っていると、セリィがミーゴに向かって声をかける。


「その言動については、我が家から抗議文を送らせていただきます。

 また、第二皇女殿下にも報告しますので、同様に抗議文が送られるでしょう」


セリィから「覚悟しておきなさい」と

言い放たれたミーゴは一瞬たじろぐが、すぐに持ち直す。


「人から借りた力で粋がる虫けらに、

 本当のことを言って何が悪いんですか?」


とセリィに向かって反論するが、レオンが割って入り「早くお連れしろ!」と命じると、

ミーゴは不機嫌さを隠さず、「ほら行きますよ!」と俺を皇族席へ案内し始めた。


歩き出す途中、振り返ると、

セリィに謝罪するレオンと、ふんぞり返るカイルの姿が見えた。



――――



ミーゴに案内され、俺は個室付きの豪華な皇族席に座らされた。

上質な素材で作られているのか、驚くほどフカフカで座り心地がいい。


そんな俺に対して、

「この逆玉風情が……」

と、隣に立つミーゴが聞こえるように呟く。


≪いや……さっき注意されてたのに、まだ言うのかよ……≫


どうやらこのミーゴという騎士は、相当に陰険らしい。


彼が席に座らず立ったままなのは、

ここが皇族専用の席で、身分の低い者が座ることは不敬に当たるからだ。


ミーゴは今は護衛として同行しているので特別扱いだが、

座れば処罰対象になるらしく、下手をすれば殺されてもおかしくないという。


≪一応皇族扱いだし、勇者で賓客でもあるんだけどな……俺……≫


まあいいかと思いつつ、気を取り直してセリィたちの方を見ると、

ちょうど戦闘が始まるところだった。


俺は心の中で【見識】に問いかけると――


「……マジかよ……」


あまりの結果に、思わず声が漏れた。


ミーゴが怪訝そうな目を向けてくるが、それどころではない。


【見識】によると、セリィの戦闘勝率はゼロ。

――勝利の可能性は存在しない。


≪冗談だろ!? あのイケメン、そんなに強いのか!?≫


無意識にカイルへ鑑定を使おうとしたが、

【見識】から「確実に気づかれる」と警告され、思いとどまる。


そんな俺を見て、ミーゴが「なに気持ち悪い顔してんですか?」などと言ってくる。


深呼吸して心を落ち着かせようとした、その瞬間――


ドガァン!!!


爆発音が響き、広場中央から巨大な土煙が立ち上る。


そこから飛び出したセリィが、

氷のナイフや鉄のナイフを次々に投擲する。


しかし――


「ハッ! さっきまでなめた口きいておいて、この程度かぁ!?」


金色の炎がすべてを焼き尽くすように奔流となって迫る。


セリィは紙一重でかわすが、そこにはすでにカイルが待ち構えており――。


蹴撃。


ドガン!?という轟音とともに、セリィの身体が吹き飛ぶ。


≪俺と義孝が戦ったときとは、レベルが違いすぎる……≫


打撃も、魔法も――すべての次元が違う。


地面に叩きつけられたセリィを、

カイルはまるでボールのように蹴り上げる。


さらに金色の炎が追撃する。


セリィは咄嗟に【竜化】し、背に翼を生やしてギリギリで回避した。


以前見たとき、竜化率は50%台だったはずだ。

あの火力なら、回避できなければ即死だっただろう。


「冗談だろ……これ、模擬戦だぞ……」


俺の呟きに、ミーゴが反応する。


「はぁ~、これだから虫けらは……。

 いいっすか? 竜にとって戦闘は娯楽みたいなもんっすけど、

 命を落としたら、そこまでなんすよ?」


ミーゴは俺を嘲るように見下ろしていた。


「いや……娯楽なら、ここまで……」


言い終える前に、


ズガァァン!!


轟音とともに土煙が晴れ、

そこには――


「ハッ! 力の差も分からねぇ混ざり者は、これだからなぁ!」


ぐったりと倒れるセリィの背中を踏みつけるカイルの姿があった。


そしてミーゴが呆れたように言い放つ。


「バカっすねぇ~アンタ。

 カイル様が本気出すわけないじゃないっすかぁ!」


……だが、その声は俺の耳に入らなかった。


セリィを踏みつけている。

それだけで、十分だった。


俺の中で、何かが切れるのには……。


瞬間――


「ひっ!?」と、隣から悲鳴が上がる。


見ると、ミーゴが青ざめていた。


≪……なんだ?≫


俺は、さっきまで粋がっていたこのクズに鑑定をかける。


――鑑定結果――


名前:ミーゴ・ズーク

種族:竜(中級)


状態:畏怖(97%)/恐怖(98%)/錯乱(92%)


魔力量:C(残量95%)

竜力量:D(残量98%)

魔力適性:火


────────────────────

〔通常スキル〕


<戦闘系スキル>

剣術Lv3/体術Lv2


<機動・補助スキル>

疾走Lv2


────────────────────

〔竜族系スキル〕

竜燐Lv2(物理・魔法耐性)


竜力Lv1(属性特効・スキル強化・耐性強化・竜装具現化)


〔未覚醒スキル〕

竜眼/竜化


────────────────────

[備考]

マスターの【覇気】スキルに当てられ、畏怖および恐怖を発現。

見下してはならない相手だと理解し、錯乱しているようです。


――。


鑑定結果を見た俺は、

「……なんだ。ただのゴミクズか」

と、心の声が漏れてしまった。


だがミーゴは怒りもせず、喚きもせず、

ただ恐怖の表情を浮かべて立ち尽くしている。

完全に戦意喪失しているようだ。


≪ラノベなら失禁してそうだよな……≫


そんなどうでもいいことが頭によぎるが、

実際にやられたら困るので、その思考は切り捨てる。


すると、広場から声が届いてきた。


「落ち着いてください、ユウト殿!?

 カイル様もです!

 このままでは皇族との抗争になりかねません!」


「ああ!? ケンカ売ってきたのはあっちだろうが!?」


「だとしても、状況が良くありません!」


客席まで届くほどのやり取りが続く中――


「おやおやぁ~?

 これはどういう状況でしょうかぁ~?」


間延びした声が、俺の隣から聞こえた。


「エルシェ?」


気づけば、いつの間にかエルシェが隣に立っていて、

訓練場の中心――カイルの方をじっと見つめていた。


だが、俺の声に気づいたのか、ふっと笑顔を向けてくる。


「今度はぁ、スキルの練習もしましょうねぇ~弟君!」


そんなエルシェの言葉に『そんなこと言ってる場合か!?』という

不満が顔に出かけたが、すぐに霧散した。


この笑顔には、温かさがない。

どこまでも冷たく、暗い。


その雰囲気に当てられ、荒れていた心が次第に静まっていく。


「申し訳ありませんがぁ、少し離れますねぇ~」

「あ、あぁ……ごめん。冷静さを欠いてた……」


俺の言葉に、手すりの上にひょいと飛び乗ったエルシェが振り返ると、

きょとんとした表情を浮かべ、クスクスと笑う。


そうしてすぐに訓練場へと飛び降り、

セリィたちのいる場所へと歩いていくのだった。

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