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巻き込まれ異世界召喚、なぜか俺だけ竜皇女の推しになった  作者: ノラクラ
第二部 強者尊ぶ竜皇国-ヴァルゼリオン

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57.鬼畜な教官は、少女の皮を被った悪魔メイドでした

「さてさてぇ~、始めましょうかぁ~♪」

「お、おう!」


現在、朝食を済ませた俺たちは天空闘技場――もとい、訓練場にいる。

ここで俺の能力制御や戦闘方法の訓練を行うことになったのだ。


最初は竜力循環の練習をする予定だったのだが、

エルシェがヴェルミナさんに相談し、許可を取ってきたらしい。


≪シアの代わりにエルシェが監督することになったわけだけど……大丈夫だよな?≫


もちろん彼女に不満はない……。

だが、不安はある。


朝食の席で一緒になったエリオスさんからも、

ある意味ではシアより適任だろうとお墨付きをもらってはいる。


しかしエルシェの性格を考えると、これからの特訓は

ハードモードになる未来しか見えない。


≪シアやセリィなら、全力で止めてくれるだろうけどな……≫


ちなみにヴェルミナさんがシアの封印調整をしており、

セリィは付き添いとして同行しているため、

朝食の席には来ていなかった。


「弟君~、聞いていますかぁ~?」

「あ、ごめん! ボーッとしてた!」


「まったくもぉ~……。

 うわの空だと死んじゃいますよぉ~」


「サラッと怖いこと言うのはやめてくれない……?」


気を取り直して、どんな特訓をするのか改めて聞いたのだが……。


「ごめん、もう一度教えてもらえるか?」


耳を疑う内容だったため、思わず聞き返してしまった。


「なるほどぉ~……トッピングをご所望なんて、さすがですねぇ~……」


「してないし、言ってないから!?

 というか、誰だって耳を疑うだろ!」


いや、最初聞いてなかった俺が悪いのは認める。

だけど、あの内容を聞いたら聞き返したくなるのも当然だと思う。


なぜなら――。


「いきなり、この訓練場の内周を

 “竜力”が尽きるまで走れって、正気じゃないだろ!?」


そう、体力ではなく“竜力”が尽きるまで、だ。


すべてのスキルを使用し、竜力で強化し続けながら、

“隠れているエルシェ”の攻撃を回避して走る。


≪その間【竜識眼】の使用は禁止って、どう考えたって無理ゲーだろ!?≫


右手で丸を、左手で四角を描きながら、

攻撃を避けつつ耐久レース――そんな特訓、誰が想像できるというのだろう。


一応説明を聞いていたと分かったのか、

エルシェから黒い笑顔が消え、特訓内容がこれ以上強化されることはなさそうだ。


「仕方ないのですよぉ~。

 ヴェルちゃんが弟君の特訓を私に任せる条件なのでぇ~!」


「……その条件って、聞いてもいいのか?」


ヴェルミナさんも、エルシェが俺を指導すること自体には賛成しているらしい。

ただし、やりすぎを警戒して条件を付けたようだ。


その条件というのが、体力強化と竜力制御の基礎訓練を優先すること。


「ヴェルちゃんも心配性ですねぇ~」

「いや、それが普通の特訓だと思うんだけど?」


どうやら俺の言葉は図星だったらしく、

エルシェは袖で口元を隠し、クスクスと笑うだけで答えない。


「さあさあ~弟君、始めましょう~!

 大丈夫ですよぉ、痛いだけですからぁ~♪」


「なにが大丈夫なのか教えてくれ!?」


俺の叫びを無視して、エルシェは姿を消した。

いや――正確には、隠れたのだろう。


その証拠に――


「おいおいおいおい!?」


前後左右はもちろん、上空に至るまで。

俺を中心にして、氷でできたナイフがドーム状に出現した。


しかもご丁寧に、毒々しい紫色の液体が塗られている。

そのうちの一本から垂れた雫が地面に落ちた瞬間――

ジュッという音とともに煙が上がった。


「マジで……当たったら即死コースだろ、これ……」


呟いた直後、真後ろからガキンという音がし、

何かが落ちた気配に振り向いて足元を見る。


そこには、地面に落ちた氷のナイフだろう破片が

紫色の液体と一緒に散乱している。


ジュゥゥと音を立てている地面の上で……。


『大丈夫ですよぉ~。

 当たっても弟君の【天竜燐】で防げますからぁ~』


エルシェの声が響く。

だが、短い付き合いながらも、俺は彼女の性格を理解していた。


絶対に――


『ただぁ~、

 この毒は“竜力を喰らう”性質がありましてぇ~……。

 弟君の【天竜燐】は竜力が100%……。

 早く剥がさないと、皮膚から侵食されちゃいますからぁ、

 注意してくださいねぇ~!』


解毒薬を飲めば死にはしないらしいが、

激痛で今夜は眠れないと思って頑張ってください、

などとこの悪魔は楽しそうに言ってきた。


「……鬼畜過ぎるだろ?」


『ではではぁ~、スタートですぅ~♪』


そんな小言はスルーされ、開始の合図とともに、

宙に浮かぶ無数の毒付きナイフが一斉に襲いかかってくる。


俺は反射的に避けながら走り出し、

気づけば訓練場の内周を走らされていた。


≪完全に誘導されてるじゃん!≫


認めたくないが、この少女の皮をかぶった悪魔は、

とてつもなく優秀なのだろう……。


だが、それとこれとは話が別だ。


「スパルタすぎんだろぉぉーーーー!!?」


『元気なぁ弟君には、おかわり追加ですよぉ~!』


するなよ!?

という魂の叫びは、口に出す余裕すらなかった。



――――



「はぁ……はぁ……はぁ……」


どれだけの周回を重ねたのか分からないほど時間が経った。

だが【超回復】スキルのおかげか体力も竜力も回復しながらなので、

未だに全力で避けながら走れているのが救いか……。


≪正直、このスキルがあれば、

 地球の某逃走番組で優勝も狙えるだろ……≫


毒付き氷ナイフのスピードにも慣れ、

【思考加速】を使っているせいか、

くだらないことを考える余裕まで出てきていた。


だが忘れてはいけない。

うちの鬼畜メイド――エルシェは、少女の皮をかぶった悪魔なのだ。


『ふむふむぅ~、

 余裕がありそうなので、量とスピードを三倍にしましょう~!』


「せめて二倍だろう!?」


このやり取りもすでに三回目。

もはや飛んでくるナイフの速度は常識外れなうえ、

複数のマシンガンで撃ち出してるのかってくらいの連射性になっている。


≪リアル弾幕ゲームとか、勘弁してくれよ!?≫


しかも俺が避けられるギリギリの位置を正確に突いてくるあたり、

“特訓”であることは間違いないのだろう。


だが、気を抜けば確実に当ててくるのも事実だ。


すでに腕や脚に張られている【天竜燐】には何本も当たっており、

紫色に変色した痕が広がっている。


≪最初にナイフが当たった音は後頭部付近から聞こえた気がするし……。

 エルシェが言っていた“剥がせ”ってのは、【天竜燐】を解除しろってことだろ?

 どうやって常時発動のスキルを解除しろって言うんだよ!?≫


【見識】に聞こうとも考えたが、

その瞬間、頭や首をかすめる勢いで

剛速球ナイフが飛んでくるため、聞くに聞けない。


つまり、自力でどうにかするしかないわけで……。


ヒントすら与えられないこの状況は、

ハードモードを通り越して間違いなくルナティックだ。


すると――


『困りましたねぇ~。

 毒に侵食された香ばしい匂いが、濃くなってきちゃいましたぁ~。

 これではぁ~、私がたくさんの人に怒られそうですぅ~……』


この場に似つかわしくない間の抜けた声が響くが、

飛んでくるナイフの量も速度も変わらない。


それでも俺は、チャンスを逃すまいと叫んだ。


「だったら、答えを教えてくれませんかね!?」


『おやおやぁ~?

 ヒントではなくぅ、答えを教えてほしいとぉ~?』


頭だけでなく心まで緩々ですねぇ~、という言葉が聞こえてきそうだが、

こっちはその“香ばしい匂い”の発生源なんだぞ?


しかも最初に当てられた後頭部からは、

匂いだけでなくチリチリとした感覚まで出始めている。


≪答えを教えてもらえるなら、ヒントなんてどうでもいいだろ!?≫


こんな思考の余裕すら削られる状況では、なおさらだ。


プライド?

命がけの逃走中をしている人間に、そんな余裕はない。


俺の心境を察したのか、

エルシェの楽しそうなクスクス笑いが響く。


「笑うか、答えを教えるか、ナイフを投げるか、

 どれか一つにしてくれませんかね!?」


『ではではぁ~、笑いながらナイフを増やしますねぇ~♪』


「ごめんなさい!

 ツッコミを入れる余裕もないので、

 早く答えを教えてください!」


こんな状況でなければ、土下座してでも答えを求める自信がある。

俺の必死な声と、エルシェの楽しげな笑い声が、

訓練場にしばらく響くことになるのだった。

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