51.【見識】スキルの深まる謎と、訓練前の静かな別れ
◆視点:悠斗◆
今、俺たちは闘技場に設けられた休憩室にいる。
俺の力を検証した結果、
今後の訓練方針を話し合う必要があるため、
あの場にいたヴェルミナさん、エリオスさん、シア、セリィが揃っていた。
「さて、訓練方針を決める前に、
ユウトは相談したいことがあるって言ってたよね?
まずは、それを聞かせてもらえるかな?」
「え?」
あまりに唐突なエリオスさんの質問に、
俺は思わず間の抜けた声を出してしまった。
「なにを呆けておるんじゃ?
セリィが竜撃弾の手本を見せた時、
お主、自分で言っておったじゃろう」
……いや、確かに言ったけどさ。
まさか、こんなにすぐ話題に上がるとは思ってなかった。
≪でも……訓練前に聞いてもらえるのはいいかもな!≫
そう思った俺は、
【竜識眼】――いや、【見識】スキルについて、
皆に相談することにした。
――――
「なるほどね……」
「意思を持つスキル、か……」
これまでに起きた【見識】スキルの挙動を説明し終えると、
エリオスさんとヴェルミナさんは、
少し考え込んだあと、二人で話し合いを始めた。
一方で――
シアとセリィはというと、
目をキラキラさせながら話を聞いていて、
今は部屋の隅で、ひそひそと静かにはしゃいでいる。
なぜ部屋の隅かというと、
俺の話を聞き終えた二人が、そろって質問攻めをしてくるので、
ヴェルミナさんから揃って鉄拳制裁を受けたからだ。
≪まあ質問されてもまともに答えられないから助かったけど、
鉄拳を受けた二人の“結果”がおかしすぎるんだよなぁ~……≫
床に顔面ダイブしたのに無傷で姉に抗議していた妹と、
タンコブが出来た頭を手で押さえる専属メイド……。
≪【天竜燐】と【竜燐】のスキル格差を見た気がする……≫
そんなことを考えながら、今はキャッキャッと談笑する二人を眺めていると、
話し合いを終えたのか、ヴェルミナさんたちが俺に向き直った。
同時に、シアたちも呼ばれて戻ってくる。
「さて、結論――
というより、妾の推論から話すとじゃな」
そう言ったヴェルミナさんが、真剣な表情になって話し始める。
「お主の【見識】スキルは、
聖剣や魔剣といった、
“意志を持つ武器”と似た存在ではないかと思う」
その言葉に、
俺は思わず言葉を詰まらせた。
「えっと……それって、かなりヤバいやつですか?」
「簡単に言ってしまうと、
ユウトのスキルは特別なもの、ということだよ」
「ざっくり過ぎません!?」
エリオスさんのいろいろはしょった説明に俺がツッコミを入れると、
彼は苦笑しながら肩をすくめる。
「僕たちも、こういった事例は聞いたことがなくてね」
「まあ落ち着け。
妾は近いうちにドワーフ王に会いに行く予定じゃ。
かの王なら、
何か知っておるやもしれん」
「お姉さまでも、
分からないことってあるんだね……」
「うぐっ……」
シアの何気ない一言に、
ヴェルミナさんの表情が、
ほんのりと曇った。
神さまでもないんだから、
分からないことがあって当然だと思う。
ただ、今まで何でも教えてもらっていた分、
少し不思議な気分になる。
「姉さんも落ち込んでないで、
話を続けよう」
「お、落ち込んでなどおらん!」
エリオスさんの言葉に、
ヴェルミナさんはさらに子供っぽくなるが、
「コホン……」と軽く咳払いをすると、
すぐにいつもの威厳ある姿に戻った。
「まずは【見識】スキルも含めて、
エリオスと話し合ったのじゃが、
数日は竜力のコントロールを覚えてもらう」
提案された訓練内容をまとめると――
・【見識】スキルを併用した竜力の出力調整
・攻撃系は避け、
身体強化やスキル強化を重点的に行う
という方針だ。
最初に俺が撃った竜撃弾の威力を基準にすれば、
【見識】スキルを使って、
適切な調整ができるだろうとのことらしい。
「あとは、基礎トレーニングじゃな」
「ですよねぇ……」
自分の魔法の反動で壁に埋まった身としては、
返す言葉もない。
反論するつもりは、もちろんないけど。
「そう落ち込まなくても、
基礎を積めばユウトは飛躍的に強くなるよ!」
「これから起こる揉め事くらい、
簡単に捻り潰せるほどにな」
……ん?
エリオスさんとヴェルミナさんから何やら不穏な単語が聞こえた気がする。
俺がそのことについて聞くと、
二人は揃って「そのうち分かる」とはぐらかしてきた。
≪トラブル発生のフラグを、立てないでもらえませんかね……≫
そう思いながらも文句を飲み込み、
小さくため息をつく。
すると今度は、
ヴェルミナさんがシアに向き直った。
「さて、シアよ。
少しの間じゃが、
妾に付き合ってもらう」
「え?
いいけど……どうしたのお姉さま?」
シアの問いに、
ヴェルミナさんは少し考え込んでから口を開いた。
「妾の工房で、
シアの封印術の調整を行う」
という内容に、シアは少し戸惑ったような表情を浮かべ、
困ったように視線を泳がせた。
「えっと……
今のままじゃダメ?」
恐る恐るといった様子で問い返すシアに、
ヴェルミナさんは首を横に振る。
「それでも構わん。
――が、その場合、
ユウトの訓練から外れてもらうことになる」
「な、なんで!?」
思わず声を荒げるシア。
「決まっておろう。
【多重障壁】すら使えん状態のお主を、
ユウトの訓練に付き合わせるつもりはないからじゃ」
その言葉は厳しいが、
どこか“心配”が滲んでいるようにも聞こえた。
「シアの気持ちも分かるけどさ」
エリオスさんが、間に入るように穏やかに口を開く。
「正直、僕たちの心労も考えてくれると助かるかな」
「うぅ~……」
完全に逃げ道を塞がれたシアは、少し拗ねた表情をしていた。
「少しの辛抱ですよ、シア様!」
すかさずセリィが励ますように声をかける。
しかし――
「……お主もじゃぞ、セリィ?」
「え!?」
思いがけず名前を呼ばれ、
彼女は驚いたように目を見開いた。
「自分がシアの専属メイドだということ、
忘れておらんじゃろうな?」
「い、いえ……忘れてはいません……が、
ユウト様をお一人にするわけには……」
なおも言いつくろうとするセリィだったが――
「そこはちゃんと考えてるから大丈夫だよ!」
と、苦笑するエリオスさんの言葉に最後まで続かなかった。
――――
「一先ず、今日の訓練はここまで。
ユウトは明日から、本格的に訓練してもらう予定だよ!」
闘技場のような訓練場から転移陣で戻ってきたあと、
エリオスさんが俺のこれからのことについて話してくれる。
「セリィの代わりだけど、
明日の朝食の時にでもユウトに紹介するからね!」
「わかりました!」
セリィは少し寂しそうにしながら俺を見ているけど……
君の主はシアだよ?
「ね、ねぇ……お姉さま?」
シアが、今度は小さな声で尋ねる。
「その封印の調整って……どれくらい?」
「安心せい。
三日から五日もあれば終わる」
「長いよ!?」
即座に返ってきた抗議に、
ヴェルミナさんは肩をすくめる。
「普通なら、
二週間以上はかかる作業なんじゃぞ?」
文句を言うシアに、ヴェルミナさんは
少し呆れた視線を向けていた。
「そうそう部屋に戻った後だけど、
ユウトには自室で【見識】スキルと対話してもらいたいんだ」
「俺も考えてました。
でも……意味ってあるんですか?」
俺の問いに、
エリオスさんは頷いて答える。
「あると思うよ。
聖剣や魔剣に選ばれた者たちは、
皆、よく“対話”していたそうだからね」
なるほど……。
確かに意思を持ってるなら
連携をとることもできるだろうし、大切な事だろうな。
「ユウトよ。
シアの封印の再調整が終わるまで【思考伝達】などの
魂約時の専用スキルは使わんでほしいんじゃ」
「わかりました!」
ヴェルミナさんのその言葉に、封印の再調整に影響が出ないようにするのだろうと理解し、俺は了承する。
隣のシアが「ガーン!」とか言ってショックを受けているのは見なかったことにしよう。
その後は少し話してから解散することになり、
ヴェルミナさんは、落ち込んでいるシアの手を引きながら工房に連れて行く。
もちろんセリィも専属メイドなのでついて行く。
その去り際、
二人はまるで飼い主と離れる
小さな子犬のような表情をしていて、
俺は思わず苦笑してしまった。
エリオスさんは、
俺に充てるメイドの手配と、
他の執務のために、その場を後にした。
俺はセリィとは別のメイドさんに案内され、
自室へ戻ることになった。




