50.爆心地ではしゃぐ皇女と、瓦礫に埋まる陰キャ!?
今、俺とシアは訓練場の中央に移動し、お互いに30メートルくらい離れた位置で向き合っている。
「シアー!本当にいいのかぁー!?」
「うん!いつでもいいよぉ!」
お互いに離れているため、声を大きくして確認したんだが、
返ってきた答えは準備ができたという返事。
俺の不安は届かないようで、
それどころか向こうは「全力できてね!」と張り切っている様子だ。
そんなシアを横目に、
少し離れた場所で見学している二人――
エリオスさんとヴェルミナさんへ、本当にいいんですか?と視線を投げる。
俺の意図を察したのか、
二人は揃って「問題ない」と言いたげに頷いていた。
≪竜族って、こんなに合理的で好奇心旺盛な種族なのか……?≫
そう思いながら、
セリィに見せてもらったお手本を思い出し、
右手を前へ出して構える。
「……本当に全力でいいんだよな?」
「もちろんだよ、ユウト!
私なら大丈夫だから、信じて!」
そんなズルい言い方をされたら、俺も答えないといけなくなるんだけど――
俺のため息は、広い訓練場に溶けて消えた。
≪確かに、今後のトラブルに備えるなら必要な検証だ。
見学者の四人も、シアなら大丈夫だと確信してるみたいだし≫
みんなが俺のことを考えてくれている。
そう理解した以上、やることは一つ。
――全力でいこう。
そう覚悟を決め、意識を集中させた瞬間――
――了承――
マスターの思考を確認。
竜撃弾・速射、準備完了。
現在、体内で竜力を循環。
マスターの指示に順次対応します。
警告:
現在のマスターでは、
反動に耐えられないと判断します。
――。
……ん?
≪今、すごく不穏なこと言わなかった?≫
反動に耐えられない?
それって……。
≪大丈夫じゃないやつだよね!?≫
もはや聞き慣れた謎の機械音声――【見識】に、
心の中で盛大にツッコミを入れる。
すると、離れた場所にいるシアが
こちらを見て声をかけてきた。
「どうしたの、ユウト?
もしかして具合悪い?」
「あ、いや、大丈夫!」
周囲を見ると、
他のみんなも不安そうに俺を見ている。
この空気に耐えきれず、
俺は半ばヤケになって覚悟を決めた。
≪仮に吹き飛んでも、俺には【天竜燐】がある。
致命傷にはならないはずだ……!≫
そう考えた瞬間、
頭の中に再び“了承”という言葉が響いた。
なんとなく“相棒感”を覚えたが、
今はそれどころじゃない。
「シア!
言われた通り、全力でいくから準備して!」
「うん! いつでも大丈夫だよ!」
その返事を合図に、
反動を覚悟して、
右手へ一気に竜力を集める――
ドンッ!
空気が破裂したような音とともに、
バスケットボールほどの大きさの弾が生まれた。
それは、どこまでも濃い青紫色のスパークを
激しくほとばしらせながらシアに着弾し――
ズガァァァァーーンッ!!!
轟音が闘技場に響き渡ると同時に、
ドゴォンッ!!
という破壊音が、俺のすぐ背後で響いた瞬間、
視界がガラガラという何かが崩れ落ちる音とともに塞がった。
≪え?……どういうこと?≫
気づけば真っ暗な空間が広がるが、不思議と圧迫感はない。
状況についていけてない俺に、謎の声が頭に響き教えてくれる。
まあ、ありていに言えば自分が放った竜撃弾の反動で吹き飛び、壁に激突して埋もれたらしい。
≪まあ“コレ”のおかげで、完全に埋もれずに済んだのは不幸中の幸いかな……≫
だけど、周囲の瓦礫から身を守るのが精一杯で動けないのはちょっと恥ずかしい。
一応【見識】からは、動かず救助を待つこと推奨されているけど、
動けずにぼーっと待っている姿を見られるんだから、どういう反応をすればいいのだろう……。
――――
◆視点:エリオス◆
「……こ、これは……」
「とんでもないものを見せられたのう……」
僕と姉さんは、シアとの魂約で得たユウトの力の大きさに、
思わず目を見張っていた。
正直、これは完全に予想外だ。
「シ、シア様!?」
隣で叫び、
爆発地点へ駆け出そうとする
シアの専属メイド――セリーネ。
僕はとっさに彼女の腕を掴み、
落ち着かせるように声をかけた。
「大丈夫だよ、セリィ」
≪さすがに今、
あの爆心地へ近づかせるわけにはいかないからね≫
何しろ、
現在進行形でもくもくと土煙を上げるその場所からは、
バリ……ゴロゴロ……と、
非常に物騒な音が聞こえてきている。
まだ若いセリィを近づけるには、
あまりにも危険すぎる。
「離してください、エリオス様!
シア様が……!」
彼女は完全にパニック状態だった。
≪……やっぱり、
セリィをシアの専属に選んだのは正解だったね≫
少し場違いなことを考えてしまうほど、
僕たちは冷静だった。
本来なら、
彼女以上に取り乱してもおかしくないのに。
それも、その理由は至極単純だ。
≪この“程度の威力”で、
シアの防御をどうこうできるなら、
僕たちはこんなに苦労なんてしていないよ≫
そして――
反動に耐えきれず吹き飛んだユウトのことも、
そこまで心配していない。
……訓練場の壁にまで吹き飛ばされ、
瓦礫に埋まるとは思わなかったけど。
「エリオス。
どうやら煙が晴れてきたようじゃぞ。
それとセリィも、いつまでも取り乱すでない」
「で、ですが……!」
なおもシアを案じる彼女を制しながら、
薄れていく土煙の向こうを見る。
そこには――
ぽかんとした表情で立ち尽くす、
我らが妹の姿があった。
爆心地の中心に立つ“汚れが一つもない”シア。
そして、彼女を中心に形成された小さなクレーター。
その光景に、
セリィの思考が追いついていないのだろう。
……いや、
固まっているシアの可愛い姿に
ときめいた、という可能性も……いや、ないか。
「姉さんは、どう思う?」
「どうもこうも……。
妹の魂約者殿は、
想像以上に訓練が必要じゃろうな」
「僕も同意見だよ。じゃなきゃ“死人”が出てもおかしくない」
「この力を見せられれば済むが、そうもいかんからのぉ……」
そうしていると、ようやくシアの思考が追いついたようで――
「すごいすごい!
ユウトって、本当にすごい!」
子供のようにはしゃぐ妹は本当に可愛くほっこりしてしまうのだが――
次に彼女が口にした言葉は、
この場を凍りつかせるには十分だった。
「私の【天竜燐】が四枚砕けちゃったし、
五枚目もヒビだらけ!
今の竜撃弾が速射なうえ、“爆発”するタイプだからよかったけど……
これが“貫通”するタイプだったら、耐えられなかったかも!」
……僕は背筋に冷たいものを感じた。
姉さんの、
“身体強化を腕力に全振りした拳”ですら、
一撃で砕け切れなかった【天竜燐】だ。
≪つまりそれは――
姉さんの全力に近い攻撃を、
ユウトは“連続して”放てるということだ≫
その事実に思い至ったのだろう。
ヴェルミナ姉さんの頬にも、一筋の汗が伝っていた。
「……これ、色々と不味いよね?」
「やることが山積みじゃが……。
まずはシアの封印術の見直しからじゃ」
「だろうね。
きっと、あの子はユウトの訓練に
付き合い続けるだろうし」
僕と姉さんは、揃って小さく息を吐く。
そしてはしゃいでいる妹と、ほっとしている妹の専属メイドに声をかける
「シア、セリィ……。
ユウトを助けてあげてくれる?」
そう声をかけると、二人は思い出したように、
壁の中に埋もれているユウトの発掘へ向かう。
彼自身は、シアから貰ったスキルのおかげで無傷だろう。
でも、このまま埋もれていては、呼吸ができなくなるからね。
「救助はあの二人に任せて大丈夫そうだね!」
僕がそんな風に言うと、隣にいる姉さんが声をかけてきた。
「エリオス、お主は気づいたか?」
「【多重障壁】のことだね。
ユウトが吹き飛んだ瞬間に、明らかに“所持者の意思とは関係なく”展開していた」
常時発動の【天竜燐】とは違い、
【多重障壁】は任意発動のスキルだ。
それが、“反射的”に展開されたと考えるのは甘いだろうね。
なにせユウトは“平和な世界”の出身なんだから……。
「【竜識眼】には、まだ何か……」
姉さんはそう言いかけて、すぐに言い直す。
「……いや。
【見識】の方にか」
「だろうね」
僕は頷きながら、
未だ瓦礫に埋もれているユウトの方を見る。
シアとセリィが、
大小構わず瓦礫を放り投げながら
懸命に発掘している。
……もう少しで、救出されるだろう。




